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自殺したのに異世界来たら不老不死になっていた。  作者: 三毛犬
第2章:不老不死に憧れた
21/33

20話:寂れた町

 知らない天井、私を覗き込むニックの顔、柔らかい布団。

 何度目かのデジャヴ。


「私死んでました?」

「馬鹿言うな。気絶してただけだ」


 あまりのショックで心臓が止まったのかと思ったけど、どうやら生きているらしい。

 流石の私もそこまでやわじゃなかった。


「おい、嬢ちゃん起きたのか」


 部屋の扉の影から顔を出した農夫からコップに注がれた水を受け取った。

 ここは彼の家だとニックは言った。突然倒れた私を担いで運んでくれたそうだ。

 彼にお礼を言ったあと、久しぶりに味わう新鮮な水を喉に流し込んだ。


「急に倒れるもんだから驚いたぜ。どっか悪いのか?」

「いえ、ただちょっと精神的なもので」

「この子は体だけは丈夫なんだ。気にしなくていい」


 ニックの雑なフォローに顔をしかめるも、本当のことなので何も言い返せない。

 だがしかし、体の方は不老不死で何をしても治るが、心はそうもいかない。

 農夫が言った「五十年前」という現実が重りのようにのしかかってきた。


 クレナに関する情報の信憑性。

 それを全く疑わなかったわけじゃない。

 この世界の人々は大半が百年以上生きる。そんな彼らから風に乗って耳に入ってきた噂なんて、五十年前の話でしたっていうオチでも不思議はない。

 そもそも軍が全力で追っている相手を何の力もない私達が見つけ出すことなんて困難だ。

 分かっていたけれど、それでも小さな可能性にかけるしかなかった。


 簡単に会えない存在だとは思っていても、いざここまで来て道筋が途絶えると、色々心にくるものがある。


「ごめんな」


 隣からニックが眉を下げて項垂れていた。

 大袈裟に倒れたせいでまた彼に気を遣わせてしまった。


「ニックが謝ることじゃないですよ」

「けどせっかくここまで来たのに、がっかりしただろ」

「そりゃあ、ちょっとショックで気絶はしちゃいましたけど」

「だよな……」

「でも全く無駄だったわけじゃないですし」

「それでも、君をここまで連れてきたのは俺なのに」


 自分が持っていた情報に責任を感じているようだ。

 ここまで落ち込んでいるニックを見るのは初めてだった。


 お通夜状態の私達に、空になったコップを受け取った農夫が気遣わしげな声を出す。


「あんたらそんなにクレナに会いたかったのかよ」

「はい、クレナの行き先を知りませんか?」

「さぁな。この国にそれを知っている奴なんていねぇよ。昔はよくそいつらの話をしている奴もいたが、もうその名前を口に出す奴もいなくなった。

 クレナが消えるときは一瞬だ。誰も行方を知らない、そういう連中なんだ」

「そうですか」

「そんなに良いもんかね。余所の国の偉い連中も躍起になってるみたいだけどよ」


 農夫はどうやら不老不死には全く興味がないらしい。

 私もその意見には概ね同意だ。

 けれどニックはそうじゃない。


「永遠の憧れってやつだよ」


 顔を上げてそう言った彼の目に、また輝きが宿っていた。


「……ニック、馬も休めたようですし、そろそろ行きましょう」


 ニックが「そうだね」と立ち上がったのに続いて私もベッドから腰を上げた。

 農夫にニックが渡した食糧代とは余分に、私の袋からもう一枚銀貨を渡した。

 介抱と、ベッドを使わせてくれたお礼だ。


「食いもんはさっき馬につないでおいたぜ」

「ありがとうございます」


 私が寝ている間に馬の体力も大分回復したようだ。

 尻尾を振って私を歓迎する愛馬の背中を撫でた。

 農夫に別れを告げ、彼の牧場を走り抜ける。

 私達はまた砂埃の舞う旅路へと駆け出す。



「よし、行きましょう」

「じゃあ、帰ろうか」


「「え?」」


同じタイミングで正反対の言葉が重なった。

 驚いて隣を見ると、ニックも私と同じように口を開けて間抜けな顔をしていた。


「帰るんですか?」

「帰らないのか?」

「何で帰るんです?」

「いやだって、クレナがいないってわかったし」

「それしかわかってないですね」

「振り出しに戻ったわけだろ?だから……」

「だからって帰りませんよ!」


 ニックの早急さと、悪い意味での諦めの速さに絶句した。


「こ、ここまで来て、そんな簡単に帰るなんて……」


 絶対不老不死になるって言ったのに。

 わなわなと震えていると、ニックははっとした顔になって「違う違う」と焦りながら手を顔の前で振った。

 彼が手綱をめちゃくちゃに揺らしたせいで馬が不機嫌そうな声をあげた。


「君が帰りたいかと思ったんだよ」

「私?」

「君は旅に不慣れだし、今すぐクレナに会わなきゃいけないわけでもないだろ。だって君は不老不死だ。時間ならいくらでもある。君の精神面を考慮しても一度帰った方がいいかと……」

「……ニックが私のことを気にしているのは分かりました。けど、そんな中途半端な覚悟でギルドを出たんじゃないです」

「そ、そうだな。すまない」

「それに私に時間があっても、ニックにはないでしょう」


 彼は紛れもない人間で、たとえ健康に生きたとしてもあと五十年ほどで死んでしまうのだ。


「貴方を不老不死にします。絶対に諦めないし、それまで帰りません」


 ニックは面食らったように目を瞬かせた。


「私と一緒にいてくれるって、ニックが言ったんですよ」


 口に出した途端に気恥ずかしさがこみ上げてきて思わず下を向いた。

 再び視線を戻すと、ニックは何ともいえない顔で笑っていた。


「なにニヤニヤしてるんですか」

「いや、随分素直になったものだと思って」

「元からこうでしたよ」

「君がそう言うならそうなんだろうね」

「そうです。それに、さっき貴方は振り出しに戻ったって言いましたけど、そんなことないですよ」

「どうして?」

「クレナが本当に存在するって分かったじゃないですか」

「それは……、うん。確かに、大きな進歩だ」


 ニックは馬の手綱を操って方向を変えた。

 馬の頭は私達が通ってきた道とは逆の方に向いている。

 ゆっくり走り始めた彼の横に並んだ。


「とりあえずこの国の王都を目指そう。ここよりは栄えているだろうし、人も一番集まっているはずだ」

「情報収集ですね。五十年前なら、クレナを知っている人がまだ住んでいるかもしれません」





 王都への道すがら、食糧調達や寝泊まりする宿を確保するためいくつかの町に立ち寄った。

 そのどれもが町というのを躊躇うほどに荒れ果てていた。

 店で売られている食糧はどれも質が悪いものばかりだし、宿の値段も高額だった。滅多に客が来ないせいで、一人からもらう額を多くしないとやっていけないのだと店主は話していた。

 町のいたる所に物乞いが溢れている。おかげで少し出歩くだけでも一苦労だった。


 王都へ入れば多少はマシになると考えていたけれど、その期待も裏切られることになった。

 荒れ果てた町並みは変わらないのに、物価だけは高騰している。

 ゼスティア国の話で苦い顔になる人達の気持ちが分かった。


 私達は物乞いを躱しつつ、やっと借りられた宿に入るなり大きなため息をついた。


「本当に、聞いてた通りの国ですね」

「俺もまさかここまでとは思わなかったよ……」


 ベッドに座ると、反動で白いホコリが部屋に舞う。

 これももう見慣れた光景だった。


「クレナの噂が五十年前なら、この国が栄えていたのもそれくらい前の話だったんだろうな」

「何でこんなに廃れてしまったんでしょうか」

「理由は色々考えられるけど。まぁ、一番は環境のせいかな」

「環境ですか」

「気候と、もしかしたら土壌そのものが良くないのかもしれない。ここに来るまでにいくつか畑も見たけれど、そんなに多くの数があるわけじゃなかっただろ」


 ニックの言うとおり、畑はあるが今までの国と比べて少なかった。

それに加えて野原や森がないし、魔獣も見当たらない。

 市場の様子からも、作物や肉が出回っていないのは明らかだった。


「あとはクレナの噂で人が増えたのも原因か。五十年前は補えていたものが、段々足りなくなったんだろう」

「食糧難、ですか」

「そう。ゼスティアの土地は広いがどこも似たような感じだし、作物を育てるのには向かないな」


 近いうちに滅びる国。

 ゼスティアのことをそう話していた人を大袈裟だとそのときは思ったけれど、間違いじゃないのかもしれない。

 そんな風に考えてしまうほど、この国の現状は悲惨なものだった。


「あまり長居はしたくないですね」

「そうだね。ここじゃ仕事もできないから金が尽きるとまずい。今のところクレナを知っている人も見つからないし、もう少し情報収集したあとはまたどこに行くのか考えよう」


 ニックももうこの国で得られるものは何も無いと考えているのだろう。

 私も同じ気持ちだった。

 今のゼスティア国で不老不死のクレナのことを語る人なんていない。

 絶望の中で夢や憧れを語る人がいないように。




 あれから王都を二日ほど練り歩いてみたものの、進歩はないままだった。

 クレナを五十年前に見たことがあるという人はいたが、行方まで知っている人はやはり一人もいない。

 そもそもこの国は会話に応じてくれる人が少なすぎる。

 大半が話しかけても無反応だった。彼らの生活を考えたら仕方のないことだと思える。

 余裕がない中で、旅人を気にかける人なんて泥棒くらいなものだ。


「みんな目つきがギラギラしてて怖いです……」

「気をつけろよ。俺たちなんて格好の獲物にしか見えてないだろうしね」


 目立たない服装をしているつもりだが、彼らの素晴らしい洞察力にかかればよそ者だということは分かってしまうらしい。

 外を歩く度に舐めまわすような視線を感じる。


 怯えながらニックの傍から離れないように歩いていると、ふいに曲がり角から飛び出してきた何かとぶつかった。


「わぁ!」


 よろめいた私をニックが支えた。

 姿勢を直しながら前を見ても誰もいない。視線を下げると、赤髪が目に入る。

 ぶつかった相手は私の腰ほどの背丈しかない、小さな女の子だった。


 謝ろうと口を開きかけたときには、その姿は消えていた。

 すでに彼女は私の横を走り抜けてしまっていた。

 呆然とする私に目もくれず、女の子は人混みに紛れていく。


 赤髪を揺らして走る姿に嫌な感じがして咄嗟に手を鞄に入れた。


 ……やられた。


「お金!!」


 私が叫ぶよりニックが気付くのが早かった。


「どいてくれ!」


 ニックの声で周囲の人が足を止めた。

 いつの間に走り出していたのか、ニックは人をかき分けて距離をどんどん詰めていく。

 女の子の足も速いけれど大人と子供の体格差にはかなわない。

 叫び声を上げながら、彼女は何ともあっけなくニックの腕の下に倒れた。


「離せ!クソやろう!!離せよ!」

「口が悪いな。取ったものを返せば離してあげるよ」

「何も取ってねぇよ!」


 ニックに地面に押さえつけられながらも、なお逃げようともがいている。


「ニック!」

「アオ、多分上着の内ポケットの中だ」


 俺が押さえているから取れ、そう言われて女の子の前にしゃがみ込む。

 歯を食いしばり、私を睨みつける彼女に伸ばした手が止まってしまう。


「アオ」


 ニックがたしなめるように私の名前を呼んだ。


 たとえ小さな女の子相手でも、敵意をむき出しにされたら怯むものだ。

 なんだか手を噛みつかれそうだし。

 おそるおそる懐に手を入れる。

 幸いニックがしっかり押さえているおかげで、内ポケットを探っても彼女から危害を加えられることはなかった。


 ポケットの中から肌触りの良い生地で作られた袋を取りだした。

 袋の中からチャリ、と硬貨がぶつかる音がする。

 袋を開けて中身を確かめてからニックに頷いた。


「ちゃんと全部あります」

「よかった。バラバラにして隠されたら探すのが面倒だ」

「返せよ!あたしの金だ!」

「君のじゃないだろ」

「あたしのだ!この泥棒!」

「こんな高価な布の袋、この辺じゃ売ってないよ。泥棒は君だ」


 袋を鞄にしまって女の子を見た。

 髪はぼさぼさで、服も汚れているしところどころ破れている。

 伸びた手足は枝のように細い。

 何より酷い臭いがする。

 孤児なのだろうと、実際にそんな子供を見たことがなかった私にも分かった。


「この子どうするんですか?」

「この国にも警備隊はいるだろうから、その人達に渡そうかな」

「っ!離せよ!」

「……でも子供ですよ」

「子供でも駄目だ。この子は君から物を奪おうとした」

「あ、あやまるよ!もうしないから!」

「駄目だ。君、盗んだのはこれが初めてじゃないだろ」


 ニックに咎められた女の子は下を向いた。

 地面に顎を付けて悔しそうに瞳を歪ませている。


「こういう子供は何度でも繰り返す。生きていくためには金が必要だからね。でもそれはこの子から奪われた人も同じなんだ」


 彼女から奪われた金は、病気の母親に薬を買うためのものだったかもしれない、赤子にミルクを買ってやるためのものだったかもしれない。

 そういうものだとニックは言った。

 今ここで私が善悪なんて判断できないし、この子に渡すだけの金もない。

 かわいそうだとは思うけれど、仕方のないことだった。


「……わかりました。人を呼んで来ます」

「ああ、頼むよ」


 立ち上がって、叫び続ける女の子に背を向けた。

 こういうのは苦手だ。

 彼女を見逃しても、捕まえても、どうやっても誰かが損をするから。

 責められると間違ったことをしている気になってしまう。



 人を呼ぶとは言ったものの、この国の警備隊はどこにいるのだろう。

 城の近くとかかな、と辺りを見回すと、明らかに上等な衣服を着ている二人組の男達を見つけた。

 腰に剣を差しているのから察するに、あれが警備隊の一員なのではないだろうか。

 巡回中なのかもしれない。何はともあれ運がよかった。


「あの」

「何だ、今は忙しい。手短に済ませろ」


 彼らは一瞥しただけで面倒くさそうに眉を寄せた。

 何でこの国の人は横柄な人ばかりなんだ。

 腹が立ったが今頼れるのは彼らしかいない。


「泥棒を捕まえたのでそちらに引き渡したいのですが」

「何?」


 彼らの要望通りできるだけ簡潔に伝えると、急に前のめりになって顔を覗き込まれた。

 たじろぐ私をよそに彼らはまくし立てる。


「その泥棒は子供か」

「そ、そうです」

「赤い髪をしていなかったか?」

「してました……」

「どこにいる?案内しろ」


 物を頼むときまで上からだな。

 呆れながらニックと女の子がいる場所まで彼らを連れて行く。


 二人はずっとあのままの体制だったらしい。

 女の子はまだ暴れている。


「ニック、連れてきましたよ」

「助かる。もう腕が疲れてきたところだ」

「離せ!くそ……」


 私を見た途端に女の子の顔色が真っ青になった。

 いや、彼女は私の後ろにいる男達を見ているようだ。

 さっきまでの罵詈雑言も、震える口からは出てこない。額に大量の汗をかきながら酷く怯えている。


「この娘の身柄は我々で預かる」


 そう言った男達はニックを引き剥がして、女の子を担ぎ上げた。

 再び我に返ったように暴れ出した。

 その声はもはや悲鳴に近く、先ほどまでとは様子が明らかに違う。


「やめて!離して!もうしません、許して、お願いします!」


 懇願する女の子に私とニックは動揺を隠せなかった。

 警備隊は巡回であの場にいたのではなく、この子を探していたのだろうか。


「あの、貴方達はどうしてその子を?」

「それを貴様らに話す義理はない」


 一刀両断され、沸点の低い私の額に青筋が立ったが、それをニックが制止した。


「よせ、彼らの地位が高いのは君にも分かるだろ」

「それはそうですけど、この人達すごく失礼です」

「気持ちは分かる。けどこの手のことには関わらないのが一番なんだ」


 首を突っ込んでも面倒なことになるだけだ。

 ニックの言葉に口をつぐむと、男達は蔑んだ目で私を見下ろした。


「そいつの言うとおりだ。用がないならさっさと去れ」

「ほら、行こう」


 ニックに促されて大人しく身を引いた。

 言っておくが、ニックに言われたから引き下がったのであって断じて警備隊の威圧感に屈した訳ではない。


 踵を返そうとしたとき、後ろの方が騒がしいことに気がついた。

 振り返ると何やら遠くから馬車が近づいてきているようだ。

 通行人を気にもとめずに直進しているせいで、時々轢かれそうになった人が悲鳴をあげている。


 馬車は砂埃をまき散らしながら、私達の数歩先で止まった。

 次から次へと、一体何だというのだ。


 寂れた町並みとは不釣り合いなほどきらびやかな馬車から誰か降りてきた。

 一人は黒髪の男で、右目に眼帯を付けている。もう一人は金髪の猫毛が跳ねた十歳前後の子供だ。

 その二人の姿が見えると、警備隊は女の子を担いだまま器用に敬礼した。

 相当身分の高い人達らしい。


「ようやく見つかったか」


 変声期前特有の高い声で、その子供が男の子だと気づいた。

 性別を人目では判別できないほど、彼は見目麗しい。


「苦労をかけたな」

「いえ」

「僕から逃げられると思ったか。この盗人め」

「ひっ!」


 まん丸のほっぺたを膨らませて彼はすごむ。眉をつり上げても可愛さしか生まれないような顔をしている。

 対照的に女の子は喉を引きつらせた。

 ニックに叱られても反省の一欠片も見せなかった彼女が、体を震わせて化物に会ったかのように縮こまっている。


「ところで、この者達は誰だ?」


 大きな瞳が私達に向けられた。

 やはり正面から見ても、恐れとは対極にあるような愛らしさだ。


「この娘を捕らえた者達です」

「なんと!」


 男の子は私とニックに駆け寄り、交互に手を握りしめた。


「それはご苦労であったな!感謝するぞ!」

「いえ、俺達はたいしたことはしてません」

「たまたま通りがかっただけというか」

「何を言う!お前達のおかげで僕のブローチは戻ってきたのだ」

「ブローチ?」


 女の子は下を向いたまま動かない。

 警備隊の男が彼女の胸ポケットを探ると、中から青い宝石がついたブローチが見つかった。


 なるほど。どうやら女の子は私達以外からも物を盗んでいて、逃げている最中だったのだろう。

 逃亡中に別の人間からも盗みを働くなんて、根性があるというかなんというか……。

 しかもよりによってこんな人達に手を出すなんてとんだ命知らずだ。


 警備隊から受け取ったブローチを日にかざして、傷がついてないことを確認した男の子は満足げに笑った。


「うん、無事に取り返したことだし、家に戻るぞ」

「承知しました」


 警備隊は一度腰を折ってお辞儀をして、女の子と一緒に馬に乗った。


 やっと片付いたかとため息をついて、私達がその場を去ろうとしたとき男の子が声をあげた。

 不思議そうな顔でこちらを見つめる。


「どこへ行くのだ?」

「宿に戻るのですが」

「今からか?」

「はい、もうここに用はないので」

「ふむ……」


 質問の意図が読み取れず、私達は顔を見合わせた。

 男の子は顎に手を当てて考えるポーズを取ったあと、ひらめいたように私とニックの手を引いた。


「そうだ!せっかくだからお礼しよう!」

「え、いらな」

「ジス!この二人を連れて行く。ジスは前に乗れ」

「承知しました」


 ジスと呼ばれた眼帯の男は御者の横に座る。

 繋がれた手を振りほどけないまま、あれよあれよと私とニックは二人揃って馬車の中に詰め込まれた。

 正面には満面の笑みを浮かべた少年が座っている。


 何やら面倒なことになった予感。


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