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眠れる森の  作者: 百乃
9/9

水神

里桜は、野原に咲くコスモスを指さして言う。

「じゃあ最初は、このコスモスね。」

首をかしげて聞き返す。

「コスモス?」

里桜はにっこり笑って説明してくれる。

「そう。能力コントロールの基礎だよ。このコスモスに触れないで、何か変化を起こして。」

触れないで?そんなことできるの?

「゛何か゛って?」

里桜は、コスモスを両手で翳すとピカっと電球のようにコスモスが光。

光が収まるとコスモスは2つに増えていた。

「このコスモスの色を変えたり、消したり、切ったりとにかく何でもいいよ。」

里桜が説明しながら実演してくれる。

触らずにそんなことできるんだ。

「・・・。」

唖然としていると里桜が説明してくれる。

「これは、私のもう一つの能力ね。こっちの方が分かりやすいでしょ?それに、あの能力すっごく疲れるの。」

あの能力って言うのは、きっと過去を見る力のことだろう。

「その能力は何?」

コスモスが2つになる能力。

「これは反射の力だよ。そんなことより、早く練習しよ。」


反射が何なのか、その能力で何ができるかなどまだまだ聞きたかったけどそれどころじゃない。

練習を始めたもののどうしても気になっていることがあり聞いてみる。

「もしもの力が使えるようになれば元の世界に帰れるかな?」

「もっと能力値を上げ・・・たら帰れるかもね」

「うん?」

聞き返す。

「とにかく能力値をあげないとどうにもならないってこと。」

里桜の言葉がすごく気になった。


あれからどのくらい時間が過ぎただろう。

できない。そもそもどうやったらできるんだろう。

里桜が言うには、能力を使うには自分を信じることらしいけど・・・

「できないよ。」

里桜は、困ったような顔で言う。

「できないと思ってるからできないんだよ。確かに、小梢は何も知らないかもしれないけど、それでもで私はきると思ってる。ほら門を出る時にも力、使ってたじゃない。」

「あの時は偶然だよ。私力使った記憶ないもん。」

里桜はますます困ったような表情になった。

少し悲しげな里桜の顔を見てハッとする。私、最低だ。できないって言って里桜を困らせて。

でももし戻れなかったらどうすればいいんだろ?それにもし能力が使えたとしても失敗してまた変なところに行っちゃうかも。ここよりもっと危険なところに行ってしまう可能性だってある。

「何を怖がってるの?」

「え?」

そう言われて心を見透かされたみたいでドキッとした。

それに失敗が怖かった。

せっかく教えてくれてる里桜には悪いが、うまくできる気がしない。

自分ができないと知ってがっかりするのも、里桜の期待を裏切ってがっかりさせるのも嫌だった。ここに来てから全てが不安で怖くて仕方なかった。


考え込んで黙る私を気遣ってくれたのか里桜が提案する。


「う~~ん、休憩しよう。」

「うん!」

なんだか疲れた。野原に寝転がると、夕日に照らされた雲が見えた。

もう夕方か。

雲を見ているとお里桜に聞かれる。

「衆は、小梢の彼氏?」

「違うよ!それに、衆に会ったのだって昨日だし。」

こんな小さいのに、大人びてる。里桜って何歳何だろう。聞いていいものなのかな?゛里桜って人形だけど何歳?゛こてじゃ失礼だよね。

そんなことを考えていると里桜が不思議そうな顔で聞く。

「どうしたの?」

「何でもない。」

良い聞き方が思い浮かばなくて、笑顔でごまかす。

ごまかせたか分からないけど。

「でも衆かっこいいね。」

衆を思い出す。

少しはねた茶色の髪に、同じ色の瞳、目つきは少し悪いけど、

「まあ確かに顔はカッコいいけど、無愛想で少し怖いかな。」

「優しい人だと思うけど。衆は小梢のこと守ってくれるじゃない。」

たまに笑った顔は優しくて、いつも助けてくれる。

「うん、」

何で怪我までして、私なんかをかばってくれるんだろう。


「衆に会いたくなった?」

衆のことを考えていたのが、ばれて少し恥ずかしい。

「・・・。」

会いたいというより会わないといけない気がする。

助けてもらってばっかりだし。聞きたいことも沢山ある。


里桜は、真剣な顔で私をじっと見つめながら言う。

「私、会ったばかりだけど小梢が好きだよ。」

何を考えて言ったのか全く理解できない。でも、その言葉が嬉しい。

「どうしたの?急に!」

里音はにっこり笑うと話し始めた。

「衆も私と同じ気持ちだよ。もし小梢が術を失敗しても私がついてる。何かあったら必ず何とかする。だから何も怖くないよ。」

里桜の優しさが嬉しくてにっこり笑う。

「ありがと。」

「あとね、自分の才能、自分で消しちゃダメだよ。できるかできないかは、今決めることじゃないんだから。」

「そうだね。もう一回やってみる。」

私がやる気を取り戻すと里桜は、嬉しそうに言った。

「絶対大丈夫。精霊は小梢の中にいるんだから。小梢は忘れても、精霊は忘れないよ。」

コスモスに手を掲げ、目をつぶる。

なんだか温かい。ゆっくり目を開けると、コスモスが光り輝いて蝶に姿を変えた。

「思った通り。やっぱり出来た。」

蝶はゆっくり羽ばたいて中に浮かんだ。黒く縁取られたすみれ色に光る羽根。

「何この蝶!」

「胡蝶。小梢の精霊。まさかもう精霊化までしちゃうなんて・・・。」

里桜は少し驚いた様子で言う。

「胡蝶。私の?」

名前を呼ぶとより一層光を増した。

「この子が、小梢をここに連れてきたみたいだよ。」

「じゃあこれで衆のところに行けるんだね。ありがとう里桜。」

「どういたしまして。お姉様に見つかる前に梢の力が使えるようになってよかった。」」

「見つかったらどうなるの?」

「私の存在を知った人は、みんな消されるの。私の存在を知られるわけにはいかないから。」

だんだん蝶の光が強くなってくる。

「どうして?」

「私の存在は許されないものだから・・・」

里桜は悲しそうな顔をしている。

「どういうこと?」

「さあもう行く時間だよ。」

「私逃がしちゃったら、怒られたりしない?」

「大丈夫だよ。」

「本当に?」

「ホントに大丈夫。衆と仲良くね。」

そう言って、里桜はにっこり笑った。

まぶしいくらいの光。眼を開けていられない。


しばらくして目を開くと、あたりは暗かった。

先ほどまでコスモスを揺らしていた風はなく、代わりに湿った草の香りがする空気が漂っていた。

ぼんやり光る胡蝶が辺りを照らしてくれている。

何かの蔓のようなもので覆われていて、胡蝶の光がなければ何も見えない。

「胡蝶」

名前を呼ぶと、光を増して胡蝶が輝く。

今まで見えなかったところまで見えるようになった。

周りは、360度、蔓で直径2mくらいの球状をしている。

「・・名前を呼ぶと光るのか?それより何ここ?」

独り言を言いながら考え事をする。

何でこんなところにいるんだろう?

蔓をかき分けようとすると、蔓が腕も絡まりついてきた。

冷っとした蔦が絡みついて、ビックっとする。

「この蔓動くの?」

蛇みたいで気持ち悪い。なんだか怖い。

「何この蔦!ヤダ離して。」

必死でもがいているが、蔓は離れない。それどころか、更に腕や足に巻きついてくる。

半泣きになっていると衆の声が聞こえた。

「何してんの?」

「衆!怪我大丈夫?」

「怪我?あの程度ならすぐ直る。それより自分の心配したら。」

衆の腕を見ると血が出血いる様子もなく、ほかに怪我もないようだ。

私はと言うと、両手、両足に蔦がからみついて身動きがとれない。

「蔓が、絡みついて離れないの。」

そう言うと、衆は私の姿を見て言う。

「すごいかっこ。」

確着かに物も少しはだけてるし、かなり酷い姿だけど。

「変態!見てないで助けてよ。」

「これ俺の術だから、すぐ解ける。」

衆が近づくと蔓が離れて行った。

「衆の?私に術かけたの?」

「俺、守りの能力持ってないからこうするしかなかったんだよ。」

「これは何の能力なの?」

「捕獲だ。普段は檻のようなものだけど、逃げようとすると蔦が、巻きつく。」

悪びれる様子もなく説明する衆に、怒りを感じる。

「なんでそんな所に私を入れるの!」

「俺が戦ってる間、その辺に置いとくわけにいかないから。それに動かないように眠らせた。何で起きてんの?」

ほんとに悪気はなかったみたい。逆に質問までされた。

「そりゃ起きるでしょ。大変な時に私だけ寝るわけにはいかないもん。」

「大変な時だからこそ寝てて。」

「何で?なにも手伝えないじゃない。」

「というか手伝えないだろ?」

本当のことだけどムッとしてしまう。

「っ!私だって、精霊の力使えるんだよ!胡蝶!」

私が呼ぶと、蝶が光を放ちながら私たちの前に現れた。

「胡蝶?・・・。」

衆は胡蝶を見ると驚いたような顔をして、ひとりごとのように呟いた。

「なに?衆、私の能力、知ってたんじゃないの?」

「能力は知ってたけど、精霊は知らなかった。」

「そうなんだ。」

「ところで、何の能力使えるようになった?」

「私が名前を呼ぶと、」

「うん」

「輝く。」

「・・・で?」

「それだけ。」

「そんなわけないだろ?」

あきれる衆に質問をする。

「ところで、瑠夏さんは?」

「草の檻に閉じ込めて、火つけてきた。」

「火なんかつけたら死んじゃうじゃない!助けに行こう!」

私がいない間にとんでもない展開になってる。

「優を殺そうとした奴だろ?そんな奴助ける必要ない。」

「何言ってるの?だからって殺していい理由にはならないでしょ」

私の注意に対してめんどくさそうに答える。

「というかこんなことじゃ死なねーよ。あいつ水の精霊を持ってるから。」


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