神木
里桜の部屋を出て、門に向かう。
門に向かう途中、庭を見る。庭は、草や木が伸び放題で手入れされた様子がない。
門まで続く石畳の隙間からも草が生えていて歩きにくい。
歩きにくそうな里桜を抱きかかえる。
「ありがと。」
里桜は可愛く笑ってお礼を言う。
「どういたしまして。」
門の前に着くと、門は壊れて空きっぱなしになっていた。ボロボロで、今にも崩れそう。
「ここから出られるの?」
門の前に立って里桜に聞く。
「うん。でも、ここもお姉様の術がかかっているから気を付けて。」
里桜が心配そうに言う。
恐る恐る門に向って手を伸ばしてみる。
何か起こりそうな気がして怖い。目を瞑りながら歩いてみる。1歩、2歩、3歩。
そろそろ出たかな?目を開けると、赤や黄色の葉が揺れざわざわと少し肌寒い風が吹いた。どうやら外に出られたようだ。
「これでいいの?」
里桜を地面に下ろしながら聞く。
「うん。ありがとう。」
里桜の目線に合うように、しゃがむ。
「外から見ると、ずいぶんボロボロなんだね。」
出てきた屋敷を見ると、内観とは違い外観は古びた空き家の様に見えた。
「術がかかってるもん。それよりお礼に小梢の願いかなえてあげる。」
嬉しそうに笑いながら言う。
「私の願い?」
何のことだろう?
「そう。衆に会いたいんでしょ?」
衆?
「衆を知っているの?っ!あれは、夢じゃないの?衆はどこにいるの?」
最後に見た衆を思い出す。やっぱり夢じゃないの?あの時、私のせいで衆は瑠夏に撃たれて!血がぽたぽた垂れて。
でも何で自分だけここにいるの?目が覚めた時、衆はどこにもいなかった。何が起こったの?
青ざめる私に向って、里桜が声をかける。
「落ち着いて!」
落ち着いてなんていられない。衆が怪我してるのに、自分だけ安全な場所にいるなんて。
「でも、衆が、血も出てて、もし何かあったら・・・。」
私のせいで怪我したのに。
「小梢!大丈夫だよ!大丈夫だから。」
必死に慰めようとする里桜を見てはっとする。
「・・・うん。」
゛大丈夫゛て言う根拠もないし、現状も変わったわけではないけど、ここで焦っても仕方ない。
「ごめん。変な言い方して。」
心配そうに私を見ながら謝る。
「へ?」
意味が良く分からなくて聞き返した。
「私の能力は、触れた人の記憶を見ることができるの。もうほとんど使えないけど・・・。それで小梢の記憶を見えたの。」
里桜も能力が使えるんだ。人形でも能力使えるのか。
「私の記憶?」
でも私の記憶って何見たんだろう。
「そう。衆が、小梢を眠らせて。そのあとは、力を使ってここにきた。」
冷静に自分の見たことを話してくれる。
「ここへきた?衆の力?」
「ここへきたのは小梢の能力だよ。」
里桜の言葉に驚いてしまう。
「私に力なんてあるの?」
「屋敷を出るときも力を使ったじゃない。」
力なんて使ってない。何言ってるんだろう?
「何もしてないよ。ただ歩いただけだよ。」
「自分の意思で、力を扱えないの?見てもいい?」
「うん。」
ゆっくり目を閉じると小さな手を伸ばして私の手に触れる。
里桜の顔が歪む。
「はっぁ、はっぁ、はっぁ。」
足元がふらついて転びそうになっている里桜を支える。
「里桜!大丈夫?」
里桜は私を見つめながら言う。
「小梢、この世界の人じゃないの?」
驚いたように訊かれる。
「ぇ?うん。」
戻れないけど・・・。
「今梢の過去を見たの。小梢の世界では、精霊の力が無くとも平和に暮らせるの?」
私のいた世界に興味を持ったのか真剣な顔で聞いてくる。
「精霊の力、ここでの不思議な能力のこと? 」
「そうだよ。私たちは精霊と融合することで力を使えるの。身を守ったり、普段の生活にも役立ってる。」
「そうか。でも私たちの世界は、力がないから平和なんだよ。」
梨花やママやパパみんなのこと思いだししながら答えた。
「そっか・・・。確かにそうかもしれない。」
そんな話をしていると足音が聞こえた。
「誰か見られる前にここを移動しよ。衆の手がかりも必要だし。」
戸惑いながらも返事をする。
「うん。」
里桜は嬉しそうに歩いている。飛んでいる蝶を追いかけたり、道に咲いている花を拾ったり、衆を探してくれているようには見えない。
「里桜。ほんとにこっちでいいの?」
少し、いや大分、心配になって聞いてみる。
「あぁ、当り前よ!こちに、衆がいる気がする!」
すごく焦ってるように見えるけど・・・。それに゛気がする!゛とか言ってるし。
「・・・それならいいんだけど。」
少し疑ったような目で見ると、里桜は少し気まずそうに目をそらした。
「私、屋敷の外に出たことないの。だから嬉しくてつい。」
しょんぼりしている里桜を見ると可哀そうになった。
里桜の頭をなでながら聞く。
「里桜は、衆を知っているの?」
顔をあげると私の顔を見て、首を振り答える。
「知らない。」
「・・・。知らないのにどうやって、案内するつもりなの?」
この子、私をからかってるのかな。衆も心配だし、これでも急いでるんだけど。
里桜は立ち止まって私の方を向くと私を見上げながら話し始めた。
「衆は、ここにいない。と言うか、この時代にいない。」
どういうこと?衆は今無事なの?
「それじゃあ衆は?」
里桜は私を励ますように話しだす。
「大丈夫だよ!衆は火の精霊を使うんでしょ?」
手から炎、風を出したり、木の能力も使ってた。
「うん。あと風と木も出してた。」
「3つも?あの歳で3体の精霊を使う能力者がは滅多にいないよ。それに火の精霊は、どれも強い能力者にしか憑かないから衆って強いとと思う」
少しほっとする。
「良かった。」
また歩き出した里桜の後に続く。
「それが良くないの。」
申し訳なさそうに言う。
「何で?」
「だってこのままじゃ、小梢は衆に会えないよ。里桜が感じた感覚では、衆は、数十年後の未来にいるもん。」
「数十年て?」
「分からない。10年後かもしれないし、50年後とかもっと先かもしれない。」
「それじゃあどうすればいいの?」
「小梢がもう一度術を使うしかないの。」
「どうやって?」
「それを助けてあげる。力の使い方教えてあげるよ。」
「力なんてそんなに簡単に使えるようになるものなの?」
「無理だよ。でも、小梢はもう使ってるじゃない。無意識にだけど。」
「自分で自覚してないのに使ってるって言えるの?」
「使ってることに変わりない。あとは自覚するだけじゃない。そうすればコントロールできるようになる。ちょうど良かった。ここで練習しよう。」
野原が目の前に広がっている。
「練習?どうすればいいの?」
「えっとね。能力は、精霊の力を借りて発動するものなの。精霊がいないと力は使えないし、精霊も術者がいないと力を使えな。だから自分の中にいる精霊を認識してあげて。」
「わかった!やってみる!」