神風
少し安心したせいか腰が抜けてしまう。
「どうした?」
衆が、地面に座り込んだ私に気付く。
「立てない・・・。」
「しかたない。」
そう言うと衆は、私を抱きかかえる。
何?お姫様だっこ?
こんなことされたことなくて動揺してしまう。なんだか気まずいな。
「・・・;」
そのまま竹林の中を走りぬける。
私の心臓か衆の心臓か分からないが、心臓の音が聞こえる。そのせいでドキドキしっぱなしだった。
しばらく走り、次は大きな木が生える森に入ったところで衆に走りながら聞かれた。
「怖かった?」
いきなり声をかけられて少し驚く。
「なんで?」
「震えてるから。」
そう言われて自分が震えていたことに気付く。
「・・・さっき、見捨てられたと思った・・・」
目が覚めたら知らないに世界来て、元の世界に戻れないって言われたり、殺されそうになったり、
ここは、心細くて怖い。
「怖がらせてごめん。」
誰も悪くない。でも悲しくて寂しくていろんな気持ちが混ざって泣きそうになる。
「・・・私、帰りたい。」
「俺じゃ帰らせてやれないけど、これ以上怖い思いさせないから。」
心強くて嬉しかった。
「ありがと。・・あの、重たくない?おろしていいよ。もう大丈夫だから。」
抱きかかえられたままなのが気になって聞いた。
「優、走るのが遅いからこの方が楽だ。」
少しムッとする。
しばらく走るといきなり衆が呟いた。
「ここまで来るなんて、しつこいやつ・・・。」
後ろ見ると、瑠夏がいる。
「もう許さないんだから!」
かなりイライラしているようだ。
手に持っいた鎌が銃のような形になっていく。その銃を私たちに向けると、追いかけながら打ってきた。
【バン、バン、バン】
衆は、木の枝に飛び移りながら避ける。
瑠夏の方に向きなおると
「お前、俺ら殺す気?」
瑠夏を睨みながら静かに聞く衆って怒ると怖いな。
瑠夏の顔を見ると、おびえた様子もなくにっこり笑っている。
「衆くんは殺さないよ。でも優ちゃんは殺しちゃうかも。今まで寝てたから、死んだって誰も気付かないでしょ。」
にっこり笑う。
「俺が死なないなら、優も死なない。命がけで主を守るのが俺の仕事だから。」
ドキっとしてしまう。私は衆の主なの?
瑠夏は、構わずに打つ。
【バン、バン、バン】
「またそんなことを。」
木の幹に隠れて銃弾を防ぐ。しかし銃弾が、衆の肩をかすり血が服に滲んでいる。
衆は、手から球状の炎を出した。炎は、鳥に形を変えると瑠夏に向かって飛びかかる。瑠夏は、銃を鎌に変えて炎の鳥と闘っている。
その隙に衆に手をひかれて走る。少し走っただけで息が切れてしまう。
それに気付いた衆が止まってくれる。
大木の後ろに隠れると衆に聞く。
「衆。」
肩の怪我が心配になって衆の名前を呼ぶ。
「ごめん怖かった?すぐ終わらせるから。」
衆は怪我を気にする様子もない。
「そんなことじゃない。血が、」
肩から染み出す血。それが生々しくて怖かった。
「大丈夫だ!少し寝ろ。」
優しく笑うと、私のおでこに掌を当てる。
「何・・で?・こんな時なのに・・眠たい。」
「次、眼が覚める頃には、安全な場所にいるから。」
目を開きたくない。このまま眠ってしまいたい。
良いの?こんな時に寝て。
何にも解決してないのに。
衆だって怪我してるのに!
起きなきゃ。
目を開けると見覚えのない部屋の床に横になっていた。
広いフローリングの床に、木で出来た小さなベッド、小さな机、沢山のテディベア
「・・・ここはどこ?衆?」
また変なところに着ちゃったのかな?
「ここは私の部屋!衆って誰?」
振り向くと、人形が喋っている。フランス人形?
「なんで、人形が?ねえここに、男の子居なかった?」
ピンクのドールドレスに、手触りがよさそうなプラチナブラウンの髪。グリーンの瞳。可愛い人形だな。人形だから可愛いのは当り前か。
「あなた以外いなかったわ!夢でも見てたんじゃないの?あなたこの部屋にどうやって入ったの?」
怒っているようで、小さな体で仁王立ちしている。
「眠くなってきて気が付いたらここにいたの。夢?それなら早く起きなきゃ。」
「おかしな子。もう起きてるじゃない。」
そう言って、似合わないくらい大人っぽく笑った。
夢ってことは、衆は怪我してないってこと?それなら良かった。
「あなたの方がおかしいと・・」
だって人形だし。
「里桜!どこなの?」
「お姉様だわ!」
慌てて飛び上がった。
「隠れて!・・・なあに?お姉さま!」
また隠れるの?前もこんなことあったような。
クローゼットに隠れるよう言われ従う。
「里桜ここにいたの。」
お姉様ってどんな人なんだろう。やっぱり人形なのかな?
気になってクローゼットの隙間から覗く。
「はい。お姉様こそこんな時間にどうしたんですか?」
お姉様っと呼ばれた女性はスラリと背が高く、黒いドレスを着こなしている。
「今日は、少し空き時間ができたから会いに来たのよ。でもすぐ行かなきゃ。」
お姉様って人形じゃないんだ。里桜を抱きかかえながら答える。
「お姉さま。無理して会いに来なくてもいいんですよ。少し休まないとお体に悪いですから。」
ドレス着てるから、パーティーにでも行くのかな?
「無理してないわ。もう戻らなきゃ。今日は、早めに帰るわね。」
そう言うと里桜をソファーに座らせる。顔は見えないけど優しそうな人。
「はい。お待ちしております。」
里桜に手を振ると出て行ってしまった。
「もう出てきていいよ。」
「ありがと。」
「ねえ!あなたは、ここに術を使って入ってきたの?」
「術?」
「そう。あなたの能力は何?」
「能力?能力って、手から炎を出したりする能力のこと?」
衆のことを思い浮かべながら聞いた。
「そう。珍しい能力知ってるね。」
衆の能力って珍しいんだ。
能力ってどんなものがあるんだろう?
「珍しいの?。だけど私、能力なんて全く使えないよ。」
そんな能力があるならこっちが知りたいくらいだし。
「そんなわけない。ここはお姉様の術がかかってるから、誰でも自由に出入りできる場所じゃないの。」
ここにも術がかかってるんだ。
「そうなの?」
「うん。能力がないとこの屋敷には入れないんだから。ところで名前は?あ!私は、リオって言うの。里の桜って書いて、里桜ね。」
言い忘れていたっというような表情で、自分の名前を教えてくれる。
表情がコロコロ変わって、なんだか親しみやすい。人形だけど。
「・・・私は、小梢・・・。」
迷ったけど、自分の苗字を言った。私は、゛比碼条優゛じゃなくて、゛小梢優゛だから。
「小梢ね。ねえ、かくまってあげたんだから私のお願い聞いて。」
少し生意気な表情で笑う。
「え・・・。なんで?」
いきなりのお願い。何させられるんだろう。
「だって、私がかくまってあげなきゃ、あなたお姉様に消されてたよ。」
何消すって・・・。ここも怖いところだな。
「・・そうなの?」
よかった。素直にしたがっといて!
「そうなの!」
やっぱり術で消しちゃうのかな?
「ありがとう。」
でもなんで、ここの人って何で不思議な能力使えるんだろう?
「どういたしまして。でねお願いなんだけど、私をここから出してほしいの!」
不思議に思って聞く。
「自分で出られないの?」
里桜が地面を見つめながら答える。
「出られるならこんなこと頼まない。少しでいいの。」
しょんぼりしたように下を向いてしまう。
「わかったよ。じゃあ行こ。」
右手を差し出すと里桜は嬉しそうに両手で握り返してきた。
可愛いな。
「うん!ありがと。」