鉄《くろがね》
さっき通ってきた和室を早足で歩く。
衆に手を引かれ小走りになる。
゛あのこと゛って?゛いつも守られてばかり゛って?
久耶さんの言葉が気になる。
それにしても、着物って走りにくい。
転びそうになりながら走る。
足音が聞こえ、周りを見ると沢山の人たちに囲まれている。
衆が止まったので私も立ち止まると、どこからか風が吹いてきた。
風は次第に勢いを増して行く。
そして、衆の手に渦を巻いて球状になった。
「ここから出さないつもりか?この程度の式神で止められるとでも思ってるの?」
衆がそうつぶやくと、風が活きよいよく吹いて大きな球状に広がると私たちを覆った。
゛式神゛ってなに?
風は私たちの周りで直径2mくらいの球状になっている。
風の球の中は、外とは違いほとんど風は吹いていない。
私達を囲んでいた人たちは、近づこうとするがどんどん吹き飛ばされていく。飛ばされ壁に畳叩きつけられると花びらになって散らばった。
花びら?
「弱すぎだろ・・・。」
衆がつぶやく。
廊下に出ると、衆が立ち止まったせいで、背中にぶつかる。
鼻を思いっきりぶつけて痛い。
「衆くん♪」
゛衆くん゛?誰かいるの?
「お前、呼ばれたのか?」
衆が、面倒そうに聞く。
そっと覗くとキャラメルブラウンの髪を2つに結った女の子が立っている。ヒラヒラな黒のワンピ、手には大きな鎌を持っている。ゴシック系?
この2人知り合いなのかな?
「お前じゃなくて瑠夏!そう呼ばれたの・久耶捕まえて欲しい子がいるって言われたの。衆くんだったの・・・?あっ!優ちゃんもいる!目覚めたんだ。ずっと寝てればよかったのに。」
瑠夏は天使のようににっこりほほ笑みながら、残酷な言葉を吐く。
私のことも知ってるの?しかも嫌われてる?
そんなことを考えてると、瑠夏が私に向けて鎌をふる。
「きゃ!」
びっくりして目を瞑ると、ふわっと体が浮く。
ゆっくり目を開けると、衆に抱きかかえられる。
「捕まえるんじゃないのか?それじゃあ捕まえる前に死ぬぞ。」
「だった私、優ちゃん嫌いなんだもん!」
瑠夏が頬を膨らませながら言う。
可愛いしぐさで、きついこと言う。
「「・・・・。」」
何にも言い返せない。ふと横を向くと衆も微妙な表情。
「優ちゃんの卑怯者!一対一で戦いなさいよ!」
自分は鎌、持もっといて卑怯者って・・・。
「大丈夫か?」
衆が私を抱きかかえたまま耳元でささやかれる。
顔が赤くなる。
「・・・うん。」
「衆くん!優ちゃん離さないと、怪我するよ!」
そう言って。また鎌をふる。
衆はギリギリでよけた。
「こいつ苦手だな・・・。」
小さな声でつぶやく。
「いつまでも逃げられると思ってるの?優ちゃん渡してくれたら、衆くんは見逃してあげるから。」
衆が私を見つめる。まさか私をこの子に渡す気じゃ・・・;
冷や汗が出てきた。
「ちょっとだけ、ここにいて。」
そう言うと、ほんとに地面に下ろされてしまった。
どうしよ;
瑠夏が近づいてくる。
「見捨てられちゃったね!優ちゃん!いい加減、可愛い子ぶるの止めたら?目覚めたばっかりでも手加減しないんだから!」
瑠夏が呆れたように言う。
「可愛い子ぶってなんかないって!」
「来ないならこっちから行くよ!」
瑠夏は、にっこり笑うと、鎌をふりあげる。
私殺されちゃうの?もっと長生きしたかったな・・・。そんなことを考えていると後ろから衆が言う。
「しゃがんで!」
言われた通り素直にしゃがむ。
瑠夏叫び声が聞こえて少し顔を上げる。
「きゃぁぁ!ちょっと!衆君!」
目の前では、風と炎の束が瑠夏に襲い掛っている。
瑠夏は鎌で防御している。
後ろを向くと衆が、右手から炎、左手から風を出している。
「優!こっちに来い!」
衆のところまで走る。
衆は攻撃をやめると、私の手を引いて急いで門をくぐり外に出る。
「待ちなさい!」
門を抜けると、衆は止まって地面に両手をつけた。
地面からは、草や木々がすごい勢いで生えてあっという間に門を塞いだ。