黒糸
朝、目が覚める。
見慣れない天井、見慣れない部屋、やっぱり夢じゃなかったんだ。
なんだか面倒なことになったな。
いつもなら、朝は幼馴染の梨花と喋りながら高校学校に行ってるのに。いろんな話したり、笑ったり、ふざけたり、楽しかったな。梨花一人で学校行っちゃったかな。
そんなことを考えて体お起こすと、“カタ”物音が聞こえた。振り向くと壁に寄りかかって衆が寝ている。
何でこんなところで寝ているんだろう。
近づいて、
前に座ってみる。
顔小さいな。まつ毛も長くてきれいな顔。
しばらく顔を見ていると衆が目を覚ました。
「うわ!」
衆がこんなに驚くとは思わなくてなんだか面白いけど、そんなに驚かれると少しショック。
「そんなに驚かないでよ。」
顔が赤くなってますます面白い。
いつもムッスとしてるのに、こんな表情するなんてすごく意外。
「なんで目の前にいるんだよ。」
「なんでこんなとこに寝てるのかなって思って。」
「・・・誰か入ってこないか見張ってた。そんなことより早く準備しろ。今日は久耶さまのところに行くから。」
いきなりいつもの衆に戻った。つまんない。
「今日??」
久耶さんに会うのか。緊張するな。
「そう。じゃあ朝食持ってくる。」
そう言うと部屋を出て行く。しばらくすると朝食を持って戻ってきた。
ご飯とみそ汁とお浸しと鮭。食べるものは変わらないんだな。
「ありがと。」
そう言うと不思議そうな顔で見られる。
「優、゛ありがとう゛って言えたんだな。」
「言えるに決まってるよ!当たり前でしょ?」
「そっか。」
そんな意外だったのかな?
「いただきます。」
無言で、食事をした後、着替えるように言われる。
「何に着替えればいいの?」
「そこに着物掛かってるだろ。」
部屋を見渡すと、黒地に彩りの良い花が描かれた着物があった。これ部屋の飾りじゃなかったのか。
「この黒色の着物。」
「そう。」
そう言って衆は部屋を出ようとする。
「どこ行くの?」
ほんの少し心細くなって聞く。
「廊下だけど、着替え見てほしいの?」
衆は馬鹿にしたように笑う。
「そんなわけないでしょ。出てって。」
恥ずかしくて怒ったような口調になってしまう。
障子戸を閉め着物を見て気づく。
着物の着方分かんない。
「ねえ」
障子越しに聞く。
「何?」
「着物以外の服ないの?」
「それしか用意してないけど。」
それを聞いてがっくりする。
「そっか。」
仕方ない・・。
今、着ている浴衣みたいに着れば良いんだから何とかなる。
たぶん!
早速、帯を外す。
なるほどこうなってるのか。
着物に着替える。
何とか着れた?けど・・・
乱れてる。
それに帯の結び方も分かんない・・・。
「ねえ!まだ?」
困っていると、衆の声が聞こえた。
「・・・。ごめん着方分かんない。」
いろいろ試したけど、もうどうしてもうまく着れない。
「開けていい?」
返事もしてないのに、衆が入ってくる。
「・・・・。」
着物姿を見て笑いだした。
「何そのかっこ。」
こんなかっこ見られた上に笑われるなんて。
「だって、着方分かんないんだもん!」
しかも言い訳みたいな事まで言ってしまった。恥ずかしいな。
顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「ほんと別人みたいだな。」
衆は、笑うのをやめて困ったような顔をする。
戸を閉めて、近づいてくる。
「な、何?」
「直してやる。」
そう言って、手際よく着物を整えて帯を結んでくれる。
髪に髪飾りまで着けてくれて、あっという間に、終わった。
「すごい・・。器用だね。」
衆も自分で着物に着替えてるのかな?
なぜか衆は、顔をそらす。
「普通だろ。」
私普通のこともできないのか。
ショックを受けてしまう。
「そっか・・・でも、ありがと。」
お礼を言うと、衆が歩きだした。
「早く。久耶様のところに行こう。」
廊下を出て、庭に降り、下駄をはくと衆を追いかける。
無言で、竹林を歩く。
門を開け外に出ても、竹林が広がっている。
不思議な光景の中、涼しい風が吹いてわくわくしてくる。
前を歩く衆の後ろ姿を見て聞く。
「ねえ!」
「なに?」
「何歳なの?」
自分より20センチほど高、身長。
私より年上なのかな?
「16!」
「そうなの?私と一緒。」
なんだか嬉しくなってそう言うと、
「知ってる。」
ぶっきらぼうに答えられてしまう。
もっと会話弾ませようと思わないのかなこの人!
゛私は、あなたのこと何にも知らないんだから合わせてくれたっていいじゃない。゛っと思ったが、無言で歩く。