神火
障子を閉め切った、薄暗い和室。風に揺れる樹の葉の影が、映しだされる。
静かな部屋で、衆が説明してくれる。
「優が目覚めたことが分かったら命を狙われることになる。」
命って聞いてぞっとする。
「なんで?狙われなきゃならないの?」
「優が比碼条家の後継者候補だから。」
衆によるとこの国は、不思議な力を使って繁栄してきたらしい。不思議な力(手から炎を出す能力など)は、能力の種類や力の強さなど人によっての違いがある。その中でも比碼条の血筋は、強い能力を持ちこの国に大きな影響を与えてきた。
そのためこの国で比碼条家は、格式高い家柄で、社会的にも強い影響力を持つ名家らしい。
そんな家の後継者候補だとか言われてもピンとこないし、私には関係ない。
「意味分かんないよ。後継者候補ってなに?そんなの私に・・・。」
゛関係ない゛なんて少し自己中心的な気がして言葉を止める。
「比碼条家には、後継者候補が5人いる。優はその一人なんだ。」
「私後継者なんかなりたくない。元の世界に戻りたいだけだよ。」
「元に戻りたいなら、ここで機会を待つのが一番早い。ここから出ても面倒なことになるだけだ。」
「わかった。でも私、命、狙われてるんでしょ?どうすればいいの?」
「まだ眠っているということにすれば狙われない。」
その話を聞いて、疑問に思う。
「何で寝ている間は、狙われないの?」
だって寝ているときの方が、抵抗しないから狙いやすいはずでしょ?
「この屋敷は、比碼条家の当主、久耶さまの結界で守られているから簡単に優には近づけない。」
「じゃあここにいれば安全なの?」
「今は、まだ安全だ。久耶様の能力で、この屋敷には限られたものしか入れない。」
「じゃあ元の世界に戻れるまでずっとここに隠れていればいいってことだよね?」
「そう言うわけにもいかない。」
「どうして?」
少し困ったような顔で話し始める。
「久耶さまの能力は、年々衰えてきている。隠してはいるが、周りが気づくもの遅くないと思う。だから久耶さまは、優が目を覚ますのをずっと待っていた。」
せっかく待ってくれていたのに、目を覚ました私が、何にも覚えてなかったららショックだろうな。
「・・・。」
うつむいている私を気にすることなく話し始める。
「比碼条家で能力の衰えは、死を意味する。弱いものに変わって強いものが上に立つ。」
「久耶さん、殺されちゃうの?」
゛強い者だけが生き残る゛
゛久耶さま゛と呼ばれる人物には会ったことはなかったが、何となく懐かしいような気がして死んでほしくないと思った。
「久耶様の力が、完全に衰える前に、誰かが比碼条家を継げば、殺されることはない。」
衆の言葉に、少し明るい気分になる。
後継者ってそんなにすぐ決まるものなの?
「・そう・・。・・でも私、どうすればいいの?」
「今は、色々考えても仕方ない。優は、自分の力を取り戻すことに専念しろ。明日、優が目覚めたことを久耶さまに報告する。」
「・・わかった・・。」
話してるのに眠くなってきた。
「あと今は力を失ってること、誰にも話すな。」
「・・う・ん。」
「もう寝ろ。」
優しくそう言ってくれる。
「・・・お・やすみ。」
そう言われて安心してその場で寝てしまう。
「久耶様、の言うとおり眠り姫だな。」