君の声(表)
どうもどうも、椿 瞳です
出ずっぱりですみません
異世界では影縫くんと二人で行動してるんですけど、今日バカン領に来て加賀くん会いました
河原を散策してたら呑気に釣りをしていた加賀くんに鉢合わせた形です
『加賀くん久しぶり』
異世界…というか魔力ってのは便利なもので魔力を思い描く形にすればほぼノータイムで空中に筆談する事が出来ます
元の世界に持ち帰りたいものNo.1ですよ、ほんと
『おー、久しぶりー』
流石というか何というか…加賀くんも一瞬で把握して空中筆談をしてくれます
『お前こんなとこに居たんだな』
『そういうお前らは今まで何処ほっつき歩いてたんだ?』
私達は今までファルノーツから向かって北側を旅してたんですが地続きの道は行き尽くしたので一旦引き返して逆側を攻めている最中でした
『北の方に行ってた』
『オーロラ見たよ!綺麗だった!』
『めっちゃ良いデートしとるやん、うらやま』
影縫くんが『デート』という単語に顔を赤くして俯く
そんな反応されると私も照れちゃうよ…////
そして反論はしないんだから余計に嬉しいじゃないか…////
『うん…まぁ…目的はネサス帝国の医療都市だったんだけどさ』
『ふーん、で、目的は果たせたか?』
影縫くんはせっかく異世界に来たんだからと私の耳が治る方法を探してくれた
まぁ…結果は惨敗だったんだけど
その気持ちだけで私は嬉しかったよ
沈黙の意味を無念と捉えた加賀くんは影縫くんの肩を叩いて耳元で何か呟いた
私には聞こえないけど影縫くんが目を丸くして驚いたのはわかった
『本当か!?嘘じゃないよな!?』
『俺がそんな下らん嘘ついてお前らをからかうと思うのか?』
『なになに?何の話し?』
『…朗志が瞳の耳治せるかもしれないって』
私は突拍子も無い話に一瞬頭が真っ白になった
『え…◆★〇※ほん○×▲とに!?』
『ちょ、落ち着けって』
プチパニックに陥った私は思わず文字化けしてしまう
でもそれほどの衝撃だった
もし本当にこの耳が治るなら…
影縫くんの声も聞けるし
私もこの想いを自分の声でハッキリ伝えられる
そんな夢みたいことが叶うっていうの?
『でもちょっと問題がある』
そう言うと加賀くんは影縫くんを少し離れた場所に連れていき二人で何か喋っていた
5分くらいで戻ってきた影縫くんは顔面蒼白で冷や汗をダラダラ流してたけど私には『大丈夫』としか言ってくれなかった
『はい、じゃあ保護者の許可も得たからさっそく治療しに行くか』
展開が早い加賀くんは私達を街の小さな病院に連れてきた
中に入ると140㎝くらいの小さなお爺ちゃんが出迎えてくれてたけど…お医者さんっていうか完全にマッドサイエンティストみたいな風貌で不安しかない
お爺ちゃんと加賀くんが何度か言葉のキャッチボールをしたら、お爺ちゃんの面持ちがどんどん神妙になってくる
『オッケー、許可取れたから椿だけ奥の手術室に入ってくれ』
正直こんな寂れた病院で怪しいお爺ちゃんにされる手術はめちゃくちゃ怖い
でも影縫くんが私の恐怖心を悟って手を握ってくれたから少しだけ気が楽になった
『影縫くん…この手術が成功したら言いたい事があるの』
『ちょっと待って、それフラグみたいだから止めない?』
あーなるほど、これが死亡フラグってやつか
『俺が言うから変なフラグ建てないで』
『お前のそれもフラグだろうに…』
加賀くんの冷静なツッコミに影縫くんは押し黙る
八方塞がりな彼は私の手を握る力を少し強くしてからゆっくりと放した
私も何も言えなくて
精一杯強がってはにかむ事しか出来なかった
手術室に入るとまずビニールっぽい素材で出来てるポンチョみたいな物を頭から被される
『はい、じゃあそこの台に寝てー』
『ちょちょ、ちょっと待って!?これ美容院とか床屋さんで被されるやつだよね??』
『まぁ汚れると思うから着てた方がいいだろ』
『そうだけどもっとちゃんとしたやつ無いの!?』
『無いし、手術すんのは首から上なんだからそれでいいだろ』
おざなりな手術着にまた不安が振り返す
本当に私はこの人に命を預けていいんだろうか…?
私が渋々手術台の上に横になると加賀くんは消毒液みたいな物を全身に被って直ぐに風の魔法で乾かした
『ちょっとチクッとしますよー』
「…っ」
注射じゃない単なる針を指に刺し、プクッと滲み出た血を採取する加賀くん
その血を持って一旦手術室を出ると数分でまた戻ってくる
『準備完了、魔法で眠らせるぞ?』
『………お手柔らかに』
「 」
加賀くんが呪文を唱えると視界が暗くなり私は深い眠りに堕ちていった
そこからはあっという間
体感的には寝て起きるまでほんの数秒
目が覚めると加賀くんが私の顔を覗き込んでいた
『手術は無事成功です』
『…それ言いたかっただけだよね?』
成功したなら何か喋ってくれてもいいのに…
…何でまだ空中筆談なの?
『さぁ旦那さんに元気な顔を見せてあげてください』
『さっきからちょくちょく言動をお医者さん寄せてるけど…それ似合わないよ?』
『まぁ俺は形から入るタイプだからな…つーか放っとけ』
ビニールポンチョを外され耳を触ろうとすると手に硬い物が触れた
『これは…?』
『耳の形を固定するための矯正器具だ、歯の矯正みたいなもんだ』
いやいや…耳と歯は全然違うでしょ
加賀くんが見せてくれた鏡にはヘッドフォンみたいな器具が映し出された
まぁ、お洒落と言っても差し支え無いデザインにしてくれたから言及はしないであげよう
『取れるのは早くて3ヶ月…長くても半年かかんないはずだ』
『それまで足止めかー…』
『宿なら紹介するから、まぁゆっくりしてけよ』
影縫くんとの素敵なデートはしばらくお預け
少し憂鬱になりながら手術室を出ると目を赤く充血させた影縫くんが心配そうに私を見ながら立っていた
荒い息遣いに湧き出る油汗
強敵と戦ったあとみたいになってる影縫くんを見て私が絶句していると加賀くんが助け船を出してくれる
『ほれ何か言ってやれ、人生で初めて聞く声はお前のじゃなきゃダメだろ?』
その配慮には痛み入る
私も初めて聞く声は影縫くんの声がいい
「あ…ちゃんと成功したのか?」
人生で初めて聞く声
大大大好きな人の声
その声は想像してたより少し高くて
でもやっぱり優しい声
気が付いたら勝手に大粒の涙が流れてたから私は顔を手で覆って蹲った
「お、おい!?大丈夫か!?失敗したのか!?」
ごめんね…不安にさせて
鼻水の垂れたぐしゃぐしゃの泣き顔を見られたくなかっただけだよ
私は心配してくれる優しい声に応えるように首を横に振る
「きこ…える…よ」
日々の発声練習の賜物
辿々しくも母音は混ざらなかった
「よかった……よかったなぁ……」
強く抱き締めてくれた影縫くんの声も鼻声
私のために泣いてくれてる
もう怖い物は何も無い
今なら言える…
やっと言える
「すき…だよ」
もっと強く
もっと大きく
「だいすき…!」
あばら家のような小さな診療所で
世界一大きな想いが炸裂
誰かにとっての当たり前は
私にとっては大きな大きな第一歩だった
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