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邪神の顔は何度まで?

※ティニー視点です

今日は珍しくギルドでロージさんが呑んでいた


詳しく事情は知らないけどロージさんの方からカルモさんに頼んで一緒に特級クエストに行ったらしい


特級クエストって言うのは周辺ギルドが合同でこなすクエストであって最低でも30人以上、上に至っては上限無しの大勢で行くんだけど…

特例としてS級冒険者なら1組でも受注出来る


今回の特級クエストは異常発生した小型から中型の翼竜(ワイバーン)推定1200頭の討伐


規定として10人以上のA級冒険者を含めた50人以上の冒険者が3ヶ月の遠征を承諾した場合に決行されるはずだったんだけどさぁ…



ロージさんはカルモさんとブーノさんのたった三人で挑んだかと思えば今朝行って午後の三時過ぎにはクエストを完了して帰ってきた



昨日1日中神妙な顔付きだったカルモさんに「しばらく会えなくなるな」なんて言われたのに…蓋を開けてみりゃたった半日で終わらせて拍子抜けだっつーの


今朝のカルモさんの覚悟を決めた面構えは一変、今は俺の隣で夢うつつな表情を浮かべて酒瓶を煽っていた



「今日は本当に助かりました、約束通り俺が全部出すんで遠慮しないで飲み食いしてください」


ロージさんが直帰しないでギルドに居座ってる理由はこれだ


活躍に見合った報酬は前提として、+αこの日の酒代


ちなみにカルモさんの報酬分は単純な三当分にはならなかったけどA級クエスト五回分くらいの報酬を先払いで渡されてたから酒を呑む前から吐きそうになってた(特級クエストの報酬は後日ギルド本部から送られる)



「いや…俺なんて特に何も」


「いやいや、ベテランの知識と経験が有ったからこそ苦戦もしなかったし俺としても良い勉強になりました」


「ははっ…既にS級冒険者なのに果てしない向上心だな」


「まぁ、性格上足踏みを止められないだけですよ」


カルモさんの話によると1200頭の翼竜の内1000頭以上はロージさんが1人で殲滅したらしくて残りの200頭の内150頭をブーノさんが、50頭をカルモさんが仕留めたらしい


S級冒険者の圧倒的な実力と火力の前に肩を落としたとか(ワイバーン50頭も十分すごい)



「そうか、こんな古株なだけの万年B級冒険者の知識でよければまたいつでも貸すよ」


疲労感満載で言うカルモさんは酒瓶を一気に飲み干しながら落ちたテンションを無理矢理持ち上げた


「ありがとうございます…でもカルモさんなら実力、知識、経験、どれを取ってもA級は固いんじゃないですか?」


ロージさんは一瞬狩人のような目付きでカルモさんをやや下から見上げた


確かにカルモさんならA級でもおかしくないと思う


実際、たまに誘われて行くA級クエストでも失敗してるところはあまり見ない

本人が望めばすぐにでも昇級出来そうな気がする



「……あと10歳若かったらそれもアリだったんだがなぁ、今はもう年齢と身体がいつ自分を裏切るかわからないから俺は無理せず相応の仕事をこなすよ」


「その発想は嫌いじゃありません、プロですね」


「過大評価だな…ただの停滞だよ」


「前進と後退は勇気が要ります、でもその場に留まるのには根気が必要だ…一瞬の勇気より辛くて長い根気を選ぶ貴方を俺は尊敬する」


「まったく…君は実力だけじゃなく口までS級だな!よし!今日は呑むぞー!!肝臓ならまだ若い奴には負けないからな!!」



すっかり気分が良くなって高らかに宣言するカルモさんに新しい酒瓶を渡すロージさん


既に互いの足元に10本以上の空瓶を転がす二人を横目に俺もおこぼれをグラスに注いで乾杯の音頭をとった





────それから数時間



陽も沈みかけて外が薄暗くなってきた頃、俺とカルモさんはすっかり出来上がっていた


ロージさんは同じだけ呑んでたのに顔色1つ変えずに泥酔状態の俺達を介抱する



「こんな所で寝てたらリンナさんに怒られますよ?」


「うぃ~…あいつは関係無いだろー…ヒック……まだ呑むぞー!」


「こりゃ体が自分を裏切る前にまず肝臓が過労で逃げ出すな…」


床に寝そべるカルモさんの腕を掴み無理矢理座らせるロージさん


席に戻ったカルモさんは性懲りも無く新しい酒瓶を開けてロージさんのグラスに注いだ



「まだまだ呑めるだろ?…さぁさぁグイっと一杯!」


酔っ払いのダル絡みに一瞬呆れ顔を見せるロージさんは薄く笑って酒を飲み干す


流石はS級冒険者…内臓までS級だ



「たまには悪くないですね…最後まで付き合います」


「お、案外イケる口だね!このまま朝まで飲み明かすか!」


「いや…娘が待ってるんで日付が変わる前には帰ります」


ロージさんも凄いけどカルモさんも大概だな…復活が早すぎる



ベテランと出世頭の第二ラウンドが幕を開け、追加のつまみがテーブルに運ばれてきた頃


俺と同じくらいの若い兄ちゃんがニタニタとほくそ笑みながら俺達のテーブルに近付いてきた



「楽しそうにやってるじゃねーか、俺も混ぜてくれよ」


そう言って返事も待たずにロージさんの隣に腰掛ける男


銀髪にピアス、ここら辺じゃ見ない顔だからおそらく遠方から来たと思うんだけど…初対面から馴れ馴れしい奴だ



「どうする?俺は別に構わんが決定権は君に有る」


「カルモさんがいいなら俺も別に構いませんよ」


「ごちゃごちゃ言ってねーで早く酌してくれよ…今イライラしてるから待たせんな」


男は乱暴な物言いでロージさんにグラスを突き出す


デカい態度からして高ランク冒険者なんだろうけど…絡む相手が悪過ぎる



俺はヒヤヒヤしながら二人を見守っていたがロージさんは特に気に止める様子も無く、何食わぬ顔で男の杯に酒を注いだ



「見ない顔だが…名はなんと言うんだ?」


「俺はシロウル・バルカン、A級冒険者だ」


シロウル・バルカン、今若手で1番脂の乗った冒険者


ホームは離れてるけどその名声はバカンにも流れてきていて、俺も名前だけは知ってるちょっとした有名人だった



「オッサンは?」


「俺はカルモ、そしてこの人がロージでこっちがティニーだ」


「ども」


「よろしく」


「名前だけじゃなくランクも言えよ、常識だろ」


シロウルは握手をしようと差し伸べられたロージさんの手を(はた)き退ける


無知というか怖いもの知らずというか…

…とにかくもうあまり刺激しないでくれないかなぁ



「……俺がBでティニーがC、そして…」


「俺は人に言えるようなランクじゃないんで気にしないでくれ」


ロージさんはカルモさんの言葉を遮るように食い気味に答えた



正直シロウルの態度は気に入らないからランク差で黙らせてほしいんだけど…きっとロージさんにも何か考えが有るんだろう


そもそも高ランクをひけらかすような人じゃないし、単純に気を使われたくないのかもしれない



「ようするに雑魚ばっかってことか」


「そうだな、有象無象もいいとこだ」


「はっ!お前面白いな!よく解ってるじゃねーか!」


ロージさんが今何を考えてるのか知れないけど…その笑顔が逆に怖い


キレる前触れなのかと思うと恐ろしくて酒が喉を通らない



「いやー、特急クエストが締め切られてた時はストレスでどうにかなりそうだったが…礼儀を弁えた弱輩に出会えて少しはスッキリしたぜ!」


持ち上げられて気分が良くなったシロウルは豪快に喉を鳴らしながら酒を飲む



「ブーッ!!まっずい酒だな!」


あろうことか口に含んだ酒をロージさんに向かって吹き出すシロウル


…ここまで来ると俺だけじゃなくてカルモさんも顔を真っ青にしていて、たぶんもう俺達の酔いは冷めてる



ロージさんは上着のポケットからハンカチを取り出すが、直ぐにしまって代わりに袖で顔を拭った



「口に合わなかったか、じゃあ少し良いのを出してやろう」


そう言ってアイテムボックスから出したのは「イッショウビン」


前にカルモさんがロージさんに貰ったものを一口飲んだ事が有るけど、そこら辺の酒じゃ比べ物にならないほど(うま)かったのを憶えてる



「アイテムボックスか…まぁ基本だよな」


「ささ、一杯」


「うん、ご苦労」


気を取り直して酒を注ぐロージさん


グラスに満たされる酒はまるで水のように透き通っていて、これにはシロウルも感嘆の声を漏らしていた



「随分とまた透明な酒だな」


「「少し」良いものなんで」


シロウルはまたしたり顔


どうせまた酒を吹き出そうとしたんだろうけど、それは叶わない



一口含んだ瞬間に息継ぎも無しで一気に喉の奥に流れる酒


どうやらその美味さから無意識の内に飲み干してしまったんだろう


その証拠に少し顔をしかめておかわりを要求していた



「慌てなくてもまだ沢山有るぞ」


「ロージ…出来れば俺にも貰えるか?」


「俺も!」


ロージさんは俺達の催促にも快く承諾


しかも自ら注いでくれるサービス付き



並々と注がれる酒を前にシロウルの不快さを忘れていると、やっぱり奴が釘を刺してくる


「待て、それはもう仕方ないが残りは全部俺が買い取る」



良い酒を独り占めしようとするのは許せないけど金を払うだけまだ良心的な気がする


…本当は良心の欠片も無いけどロージさんに対する数々の無礼を見てたらまだマシに見えちまうから不思議だ



「…仕方ない、二人には悪いがわざわざバカンまできた土産に売ってやる」


「良い判断だ、それでいくらだ?」


「5本あって1本16000Gだ」


流石にA級冒険者

合計8万Gを出し渋る様子も無くポンと出すと、ホクホク顔で「イッショウビン」を受け取りアイテムバックにしまっていた




「あれ、加賀君まだ帰ってなかったんだ」


「お前がこんな時間までギルドに居るなんて珍しいな」


二人の取引が成立した時、クエストに出掛けてたハナさん達が帰ってきた



「おー、今日はちょっと付き合いで呑んでたんだ」


「そっか、まぁあんま飲み過ぎんなよ」


「いや、調度いいから俺も一緒に帰る」


「じゃあ報酬受け取ってくるから少し待っててくれ」



ハナさんが受付に行こうと背中を向けた瞬間、「パンッ」という小気味の良い破裂音が響いた


「ひゃっ!?」


音の先には驚いて跳び跳ねるハナさんとケラケラと下品に笑うシロウル



どうやらシロウルがハナさんのお尻を叩いたらしい


それに気付いたハナさんはシロウルを睨み付けた



「なんだ、文句でもあんのか?俺はA級冒険…しゃ……だ……







シロウルが言いかけているとギルド全体の空気が重く淀んだ



まるで体重が倍…いや、3倍になったみたいな圧力(プレッシャー)


内臓が(なまり)になっちまったんじゃないかと思った



この威圧感の出所…


それは間違いなく俺の目の前に居るロージさん


俺が確認にしようとしたらロージさんの顔が全く見えなかった



これは比喩的な表現じゃなくて…本当にロージさんの顔にドス黒い影がかかっていて表情が読み取れない


ただ唯一その影に浮かぶのは大きく見開かれた目の白い部分のみ



「ふざけやがって…」



広いギルドに冷たい声が響く


さっきまで俺達みたいに酒を酌み交わしてた冒険者も、忙しそうに走り回ってたギルド職員も全員静まり返って息を呑む



「…っ!?」


ロージさんがグルリと首を回しシロウルの方を見ると全属性の魔力がギルド内に渦を巻き地鳴りを引き起こす


「……?……!?」


見詰められたシロウルは蛇に睨まれた蛙のように微動だにせず額から脂汗を止めどなく流し続けていた


少し気を緩めれば呼吸のしかたさえ忘れそうな緊迫感を顔に貼り付けたシロウルは既に過呼吸で口の端に泡を溜めている



「糞ガキが……ただで帰れると思うなよ…?」



ゆっくりと立ち上がるロージさんはシロウルの首根っこを掴むと二階に繋がる階段に向かって歩きだした


動けず喋れず叫べず


何の抵抗も出来ないまま引き摺られるシロウル



「ろ、ろろ…ロージさん……何処へ…?」


怒れる邪心と化したロージさんの前に立ち塞がったのはミリーナ


これだけで並の冒険者より勇気があると讃えてやりてたいが…その膝は笑うどころか大爆笑


立っているのもやっとだった



「…応接室を借りる」


「な、何をする気…ですか…?」


ロージさんはアイテムボックスから刃渡り50cmはあろうかという大きな(はさみ)を取り出して答える



「去勢」



その言葉を聞いた瞬間この場に居る男達は全員血の気が引き、シロウルに至っては完全に気を失って口から泡を吹いていた



「人の女に手ぇ出しといて…五体満足で帰れるはずも無ぇ」


「で、でで…でもも……ら、乱暴は…」


「大丈夫…一瞬終わらせる」


「う…うぅ……」


最後の砦、ミリーナも恐怖に負けてその場にヘタり込む



もうロージさんを邪魔する奴は居ない…


誰もが期待のルーキーの御冥福を祈っているとゴチンと1つ硬い物がぶつかり合い音が聞こえた




「やり過ぎだボケ!!」



拳1発

ハナさんの拳骨で重い空気が解かれて溜まっていた魔力も散っていく


(いて)て…何で邪魔すんだよ?」


「限度ってもんがあんだろ!」


「まぁ確かに…頭に血が登って感情を垂れ流し過ぎたな」


手綱を引かれて怒りを収めたロージさんは渋々シロウルを手放すと鼻息荒くハナさんの手を掴んで帰路についていった



「お騒がせしましたー」


最後にルリさんが会釈して、この騒動は完全に鎮火


しばらくギルドは静寂に支配されてたけど正気を取り戻したミリーナが受付カウンターの棚から紙切れを持ってきて気絶してるシロウルに貼り付けた



そこにはデカデカと「出禁」の文字



「おいおいミリーナちゃん…A級冒険者にそれは大袈裟なんじゃ…」


「カルモさんはまたあの邪神を降臨させたいんですか…!?」


「………いや…2度と御免です」


カルモさんが職員権限をフル活用するミリーナに苦言を呈すも見事に返り討ち


ギルドの方針としてもA級よりS級を尊選択は正しいから他に反論する奴はいなかったし、何よりもう心臓にナイフを突き付けられるような感覚は誰も味わいたくない



満場一致ということでシロウルは屈強な冒険者達にギルドの外へ放り出された




「なぁなぁカルモさん」


「どうした?」


俺は飲み直すカルモさんにこれまでの疑問を投げ掛ける


「ロージさんは何で急に怒りだしたんだ?」


「そりゃお前、惚れた女に手ぇ出されて怒らん男はいないだろ」


そういうもんなのか…

誰かに惚れた事の無い俺にはようわからん


身近な異性にメリーが居るけど、仲間ってだけだし…どっちかって言うと姉弟みたいな感覚だなー



「……お前もそろそろ愛だの恋だのを知ってもおかしくないんだがな」


「やっぱ俺って変なのか?」


「お前くらいの年なら女のケツ追い掛け回しててもおかしくないからな…正直少しも異性に反応しないお前は大分変だ」


確かに同い年のカロムも最近はミリーナを口説こうとしてるけど…あれが正常なのか



「確認のために聞いておくが、お前が一番したいことは何だ?」


「そりゃもちろん1匹でも多くのドラゴンを殺して最終的にはあの鎧竜を討伐したい」


何の気なしに答えるとカルモさんは俺の頭に手を置いた



「お前にもいつか、その目的より大事な人が現れるといいな」


「………?」



俺にとって復讐より大事なもんなんて無い


大切な家族は殺された

だからこそ大切だった家族の敵討ちをするのは何よりも大事なことなんだ…





カルモさんの言葉の真意は理解出来なかったけど…


何となくロージさんが怒った理由は解った気がした







厚くて硬くて暖かいカルモさんの手


俺は少しだけ親父の事を思い出した





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