ハロウィンデビルに御用心
先日ダグラス氏に新たなイベントの案を考えてほしいと頼まれた
なんでもルード鉱山開通記念にドデカい町お越しがしたいらしい
予算は5000万G、締切は2週間後
実現可能でなるべく多くの領民が参加出来るイベント…
流石に俺以外にも何人かに企画案を考えさせてるみたいだが…なかなか満足出来る案は出ないとか
低予算で…準備期間も短くて…誰でも楽しめる……
そんな都合の良いイベントなんてあんのか…?
…ダグラス氏もわりと無理難題を押し付けてきやがる
「こればっかりは俺の手に負えないなー…」
「お困りのようだね♪」
自室の机に向かっていた俺が弱音を吐きながら天井を見ていたらダキンシューに顔を覗き込まれた
「僕に出来る事なら使い魔として君の助けになるよ」
「そりゃ有難いけど出来れば「家族」として助けになってほしいね」
「悪いけどその感覚はまだ僕には解らない、早く教えてくれないかい?」
最近また自由度が上がったダキンシュー
方っておけば平気で3日くらい帰ってこない
使い魔契約で互いの居場所は把握出来るが、そばに居てくれないと教えられるもんも教えられないだろうに…
…野良猫より我が儘で自由な奴だ
「ったく、この悪魔め……ん?悪魔…?」
飄々としたダキンシューの角を掴んでいたら俺の中で電光石火の閃きが横切った
「…この手があったか」
「ロージ、そこは角だよ?」
「ありがとうダキンシュー、なんとかなりそうだ」
「よくわからないけど…お役に立てて光栄だね♪」
【1ヶ月後】
憎めない悪魔にヒントを貰った俺は領主邸の庭にて大きな魔法陣を組んでいた
「なかなか奇抜な催しじゃな」
「本来は秋の収穫祭なんですけど、まぁ盛り上がれば何でもいいかと」
陽が沈み、暗くなった街の至るところからカラフルな明かりが灯り
思い思いの仮装をした人々が街中を闊歩する
そう、俺が提案したのはハロウィン
見栄えはもちろん、家の窓から眺めるだけでも楽しめる柔軟性
そして何より派手なイベントの割に運営側のコスパが良い
「どうロージ、似合うかな?」
アイリッシュが白いネコミミカチューシャと尻尾を付けて俺の前でくるりと一回転する
既視感が半端ない
「お前はいつぞやの白猫くんじゃないか、元気してた?」
「ちょちょちょ、いつの話ししてるのさ!?流石にもう忘れてよ!」
アイリッシュとのファーストコンタクトだ、忘れる訳が無い
「似合ってる似合ってる…あん時と同じで」
「「絶対に忘れない」っていう強い意思を感じる…」
「正解」
「うぅ…」
本来は悪魔や魔女、ゴーストなんかのモンスター系の仮装だと思うが異世界ということで特にジャンルの指定は無い
まぁ近年のハロウィンも何でもありっちゃありだったから大して変わらないかもな
「そんじゃそろそろ始めるか…ダキンシュー、準備はいいか?」
「いつでもいいよー♪」
ハロウィンと言えば仮装
そしてもう1つ…
お菓子
今回用意したのは子供会なんかでよく配られるようなお菓子の詰め合わせ袋に申し訳程度のラッピングをしたもの
1つ200G前後で種類も豊富
我ながら無難な選択だと思う
13万弱の人口に対して2600万G
予算の方は余裕のクリア
そして配布の方も対策済み
「従魔召喚『即席蝙蝠』」
俺が唱えると魔法陣から大量の蝙蝠が飛び出してきた
「おお、凄い迫力じゃ!」
「一匹なら愛嬌も有るけど…こんなにいると気持ち悪いね」
およそ13万匹、まさに集合体恐怖症を呼び起こす数
この大群にお菓子を運んでもらう
完璧な計画
準備期間中に感知スキルで住民1人1人の所在を把握してるから全員に行き渡るのだが、流石にこの数を1人で操るのは難しい
ダキンシューに手伝ってもらってギリギリ操作出来る
夜だからあまり目立たないが召喚し終えた蝙蝠は屋敷の上空で黒い雲みたいになっていた
「よし、じゃあ行ってこい!」
俺の合図と共に山積みになったお菓子袋を掴んで一斉に飛んでいく蝙蝠達
瞬く間に夜空へと消えていき、それと同時にチラホラと子供達の歓喜の声が聞こえてくる
「これで最後だな」
最後の蝙蝠が羽ばたいていくのを見届けると俺とダキンシューは街で1番高い時計塔に向かう
「俺は南側見てるから北側は任せた」
「了解♪」
視認する必要は無いけど一応アクシデントが起こっても対応しやすい
眺めも良いし夜風も気持ちいい
そして誰も居ないから言い辛いことも話しやすいだろう
「なぁダキンシュー」
「なぁに?」
「別に遠慮しなくていいからな」
「………なんのことかな?」
少し前までは必要以上にベタベタとくっついてきたダキンシュー
最近はそんなこともなく、気付けば家に居る時間も著しく減った
「俺にガキが出来てもお前が家族だってのは変わらないってことだ」
家族を知りたい悪魔が
新しい家族のために距離を置く
これを本末転倒と嘆くべきか
それとも成長と捉えるべきかは
正直俺にはわからない
だけど、どっちみちダキンシューに遠慮はしてほしくない
「娘ちゃんが来てわかった事があるんだ」
「なんだ?」
「前からでも後ろからでも、抱き付くのは僕じゃなくて娘ちゃんの方が自然で綺麗な形なんだって」
悪魔の感性はわからんが…動物的本能から自然現象に例える事が多い気がする
火をかけたら木は燃えるとか
水をかければ火は消えるとか
そういう当たり前の現象を「美」とする傾向がある
「そしたら急に僕の居場所がわからなくなっちゃって……今までの『当たり前』が覆って困惑してたんだと思う」
いつもの口調から調子の良さが消えるダキンシュー
彼女は深刻に捉えてるが、これは別に大した話じゃない
「お前の居場所なんて別に何処でもいいだろ」
「………?」
「少し変えても今まで通りでも、俺がそこに居てほしいんだから胸を張ってここに居ろ」
そんな下らない事で悩めるってことはダキンシューはもう人の心を理解してるのかもしれない
その証拠に俺の首にはダキンシューの腕が回ろうとしていた
「随分と仲が良いじゃねーか」
油断はしてなかった
だけど気付けなかった
不意にかけられた声の先
時計塔の屋根の先端
今までに感じた事の無い禍々しい魔力を放つ悪魔がそこに立っていた
「………魔王…!?」
首を絞められた鳥のように辛うじてダキンシューが呟く
「しばらく見てなかったがちゃんと俺を覚えてたか、ダキンシュー」
「……何でお前がここに…?」
「そりゃもちろんモーゼスの忘れ形見であるお前を連れて帰るため……って言いたいところだが、今日はただの偵察だ」
剣山のように鋭い殺気が俺に突き刺さる
こんな剥き出しの殺気が俺の感知スキルに引っかからない訳が無い
ということは俺の感知スキルなんて容易くすり抜けるほどの戦闘能力を持っているんだろう
姿形は人と大して変わらない
筋肉は引き締まってはいるが決して大柄ではなく、黒髪の生え際から覗く二本の紅い角も控え目に思える
右目の上と左目の下に黒い線が引かれているがチンピラがイキって入れたトライバルだと言われたらそれで終わる話し
総合的に見れば強くなさそう(人のこと言えない)なのに瞳の奥に爆発的な殺戮が宿っている
「やるなら相手してやんぞ?」
「こんな騒がしい所でやっても気が散るだけだ、殺るなら誰にも邪魔されない場所で一対一でやろうや」
強がってはいるものの、俺の本能は全力で「逃げろ!!」と叫んでる
「待ってロージ…少し落ち着いて」
あのダキンシューがこうも取り乱す
一応ダキンシューも元幹部だったらしいが…やっぱ魔王との差は歴然ってことか
「慌てなくても近い内に相手してやるよ…ちゃんと舞台を用意してな」
「用意するならワックスでもかけて綺麗にしとけよ」
「クカカッ!お前も首を洗って待っときな!」
豪快に笑う魔王の足元が黒い霧になって消えてゆく
「今日はもう帰るが、最後に名を聞かせてくれ」
「朗志…加賀朗志だ」
「俺はギロ…ギロ・デ・ヴァンド。楽しみにしてるぜ、ロージ」
魔王は睨みをきかした俺を最後の最後まで嘲笑しながら姿を消した
足元には賑やかな街並み
浮き足立った民衆は一寸先の絶望なんて考えちゃいない
この理想的な平和のすぐ近くに理不尽な死が迫っていたと思うと俺は鳥肌が止められなかった
「ロージ…僕ここに居ちゃいけないのかな…?」
「そんなことある訳無ぇだろ…断じてな」
頭の中で魔王を倒す算段を考えながら、俺はダキンシューの体を抱き寄せる
「いつもと…逆だね」
上部だけの笑みを貼り付けるダキンシュー
しかしその面じゃもう俺を欺けない
俺達はいつまでも身を寄せ合っていた
祭りが終わるまで、ただひたすらに
体の距離が近くても何の意味もない
長い時間をかけても何も解決しない
俺は自分の無力さを直視する
ダキンシューの震える体は止まってくれなかった
俺には止められなかった
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