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よりみち話・ギャルと処刑人(後)

※ガート視点です

次の主は若い女だった


名は…



「あーし甲斐谷(かいたに) 瑠夏(るか)!よろしく!!」


若い女の声ってのはどうも苦手だ

こう叫ばれると耳の奥にキンキンと響く



「おっちゃん?…おにーさん?名前は?」


俺は特に名取もしていない

名取をするほどの過去が無いからな


今まで俺の名前を聴く奴も付ける奴もいなかった


俺はただ『化け物』と呼ばれるだけ



「…………ガート…だ」


だからこそ、俺は生まれて初めて自分の名前を名乗った


「じゃあ『ガーさん』だね!今日からよろしくね!ガーさん!」


…………

なんというか…

俺が言える事でもないが変な奴だ


普通ならまず間違いなく奴隷商の客は俺に蔑みの目を向ける


こんな馴れ馴れしい態度は初めてだ



正直、俺はこの小動物のような無垢な瞳に困惑した



「あ、ちょっと待って!よく解んないけどドレイの人ってこれあると自由に動けないんしょ?」


「…?……!?」


彼女は俺の懐に潜り込むと『奴隷の首輪』を素手で引き千切った


見かけによらない怪力…

そして理解し難い行動に俺はスカスカの脳味噌を悩ませる



「あーしさぁ、ガーさんとの間に上も下も作りたくないんだー」


主と奴隷の上下関係

それは決して埋まらない溝


この少女はその溝を何のメリットも無いのに埋めようとしてんのか…?


……意味がわからねえ



「これでウチとガーさんは卍なズッ友ね!」


「まん…?…ずっとも?」


「あーめんごめんご、「ズッ友」って「友達」ってことね」


俺のおつむも出来が悪いが、この女はそれ以上らしい


化け物と仲良しごっこを求めるなんて…

きっとこいつは伝説の『服を着た馬鹿』なんだろう



まぁこいつが馬鹿であれどうであれ俺には目的や使命なんて無い


首輪がなくなって自由になろうともどの道俺には今更他の生き方は出来ないんだ


誰かの意思に身を委ねる

ただそれだけ



「何でもいい…好きにしろ」






短いスカートを揺らしながらはしゃぐ女は外に出ると俺の手を引きながら一心不乱に歩く


「…何処に向かってるんだ?」


「そりゃモチ服屋に決まってっしょ」


「決まってるのか?」


「決まってるよ!だってそんなボロボロの布被ってるだけなんてダッサダサだよ!?」


護衛・戦闘用の奴隷は主人に装備を施されるが…

つまりはそういう事だろうか?


この巨体から必然的にそんな役回りも多かったが俺の場合、炭化した肌がみすぼらしくて全身が覆えるこのスタイルが基本だったな



「そういえばガーさんの肌ってもともと?」


「いや…これは重度の火傷を負うとなる状態異常で『炭化』だ」


「え、じゃあ治しちゃっていい?」


「は?」


炭化は並の回復魔法やポーションじゃ治らないし自然治癒も望めない


そもそも俺の炭化を治してどうするつもりなんだ…?



「たぶんこれで治ると思うよ」


そう言うと女はアイテムボックスからポーションを二本取り出した


「心配性の友達が送ってくれたんだけど、これ飲めばだいたいの怪我は治るって」


見たところただのポーションではない

まず色が違う

そして異常なまでの透明度



「本当は三本あったんだけど膝擦りむいた時に一本飲んじゃった」


…そんなかすり傷と同等に考えられるもんじゃない


この身体を治せるとすりゃ、貴族でも簡単には手に入らないフルポーションで『可能性がある』程度だ



「二本とも飲んじゃっていいよ、ほらイッキイッキイッキイッキ♪」


小気味のいい謎の呪文に焦りながら、俺はなすがままにポーションを二本一気に飲み干した



「っ!?」



空になったポーションの瓶を掴む自分の手


炭化し、黒くひび割れた腕が健康的な肌色になっていた



「な?…まさか!?」


近くの窓を覗き込み、反射する自分の顔を確認する


その顔は久方ぶりに見る

焼かれる前の俺の顔



…成長過程で母に折られた角まで再生してやがる



「よかったー!ちゃんと治ったね!つーかちょいゴツ目だけどなかなかイケメンじゃーん♪」


炭化が治ったところで俺の中に歓喜の情は湧いてこない


纏う衣に煤が付かなくなるのは楽だが…

角まで再生したとなるとむしろデメリットの方が大きい


「その角も強そうでマジイケイケって感じ!」


「まずいな…」


俺はとりあえずボロ布で自分の頭を覆い隠す


「かっこいいのに…何で隠しちゃうの?」


「見てわからないのか…俺は悪魔だぞ?」


「だからなに?」


彼女は不思議そうな顔で俺を覗き込む

…本気で言ってんのか、こいつ


生後3日くらいの危機感の無さと常識の欠如


この女が今こうして一人でフラフラ歩いてんのが奇跡なんじゃないかとすら思った



「あのなぁ…悪魔ってのは基本人間の敵なんだ……一緒に居たらお前もどうなるかわからんぞ」


「…………」


女は頭を振ったら「カランカラン」と鳴りそうな阿保面で数秒静止したかと思えば今度は馬鹿みたいに顔をくしゃりとさせ微笑みを向けた



「あーしの心配してくれたの?ガーさんは優しいね♪」


無い頭で辿り着いた結論がそれか…

…能天気にも程がある


「違う…そうじゃない……爆弾を抱えた奴に誰も近付こうとはしないし、周りはもちろん煙たがるだろ……俺を連れ歩くっていうのはそういうことなんだぞ」


「え、ガーさんてそんな不定期に爆発したりすんの?」


「………しないが」


「じゃあ全然大丈夫じゃん!」


「…………」


調子が狂うってのはこういう感覚なのか

(…まぁ調子が良かった事も無いが)


敵意が無い分…今までに感じた事の無いストレスだ



「そんなことより早く服買いに行こ!あーしがちゃんとコーディネートしてあげるからさ」


決して「そんなこと」と言うほど軽い問題じゃないんだが…

どうやらこの女には俺の言うことが理解出来ないらしいので俺は渋々と歩を進めた




そこから約半日


状況は俺が予想していたものとはほぼ真逆だった



しばらく前に法改正で一部悪魔の存在が寛容に許容された事は知っていたが俺はそれに当てはまらない



がしかし、だ


巨漢の悪魔を引き連れた女を街の奴らは怪しんだり怯えたりしなかった


むしろ気前よく挨拶を交わしたと思えば物珍しそうに近寄ってくる


挙げ句にはガキが俺の頭に登ってくる始末…



最初は俺が少し籠っている間にまた大きな改革でも起きたのかと思ったが…それは違った


この違和感は全てはこの女が原因


どうやら隣街でこの女が魔王軍の進行阻止に大きく貢献したらしく、加えて能天気な性格と誰でも分け隔てなく接する態度が民衆の好感を得たらしい


その好感度は隣に居る悪魔(俺)の存在が霞むほど



「ふっかふかだー!パネぇ!」


「なぁ…お前は一体何者なんだ」


俺は宿屋のベッドで跳び跳ねる女に問う


「ん?あーしはあーしだけど?」


「そうじゃない、何故お前は俺を…悪魔を嫌わない…?……何で俺を普通の人間みたいに扱える…?」


「はぁ!?バッカじゃね?」


ここまで常にヘラヘラ笑っていた彼女からストレートな罵声を浴びて俺は少し面食らう


だが一瞬怯んでしまったものの、俺は間を空けずに返す


「普通なら…!悪魔と同じ空間に居るのは人間にとって耐え難い事だ!それに俺は奴隷でもある…!」



上等な衣服を着せ


残飯じゃない温かい食事を用意し


宿屋について真っ先に馬小屋に向かう俺を当然のように引き止める


今まで経験した事のない体験の数々に俺は軽くパニックになり自然と語気が強張っていた



「そんなん誰が決めたの?」


「そういう問題じゃない!常識の話だ…!」


そう、これは常識

この世界の(ことわり)


そう思わないと俺はこの不条理に押し潰されていた


必死に作り上げ

諦めた世界



それなのに…

今日会ったばかりのパッと出の小娘にその世界が叩き壊されそうになっている



「可愛いもんは可愛いって言うし、カッコいいもんはカッコいいって言う。それがあーしの常識」


女は枕に顔を埋めながら「はい、論破♪」と嬉しそうに微笑を浮かべる


果たしてそれは論破と言えるのか…?

ただめちゃくちゃな思想を押し付けられてるだけだ



「でも嫌いになったらちゃんと嫌いって言うし、ガーさんももう難しい話は止めよ?」


その単純さはもはや畜生の域


脚をパタパタと動かす彼女を見ながら、俺は溜め息を鼻から逃がしてベッドに腰をかけた



まぁいいか…

どうせ俺はもうこの女の近くでなければ生きていけない


1人になっても最悪死なないとは思うがまたあの地獄を1から味わうのは御免だ



「ところでお前は旅をしてるようだが、何処か目的地はあるのか?」


「目的地というか、目標ならあるよ?」


「これから動向する身としては聞いておきたい」


「あーし勇者だから本当は魔王ってのを倒さなきゃいけないんだけどー、無理っぽいしメンディ(面倒)だから異世界(こっち)で運命の彼ピッピ探してんの」


色々とツッコミたいがいちいちリアクションをするのはもう疲れた…


そもそもこの女が勇者だとして…

そして俺を油断させておいて殺そうとしたところで、俺には何の嫌悪感も無ければ抵抗もしない


…むしろ有難いくらいだ



それにこの女が嘘をつける程の頭を持ってるとも思えない



「逆にぃ、ガーさんがしたいこと何ー?」


「俺は死にたい」


「はぁ?マジ意味不明なんですけどー」


「この世は俺みたいな半端者が生きるには難し過ぎる…俺はもう何も考えたくないんだ」


人間でも悪魔でもない…何者でも無い俺に居場所は無い


居心地の悪い世の中

退場出来るならとっととそうしたい


紛れもない本心だ



「だったら夢中になれるもんでも探せばいいじゃん!」


「くだらない…そんなものが見つかる訳ないだろ」


「大丈夫大丈夫、絶対みつかるよ」


何の根拠も無く、平然と言ってのける


雲や煙を掴もうとする感覚にほとほと呆れた俺はベッドに寝そべった



「お前と話してると疲れる…」


「えー、もっと語ろうよー」



喧しい小娘を無視して灯りを消す


彼女は暗くなっても暫く独り言を捲し立てていたが、それも1時間ほどで収まった




足がはみ出す尺足らずのベッド


遠慮知らずの騒がしい(いびき)



これから始まるであろう騒々しい日々に不安を覚えつつ


俺は人生最大の安眠に落ちていった




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