よりみち話・ギャルと処刑人(前)
※処刑人視点です
【(元)処刑人、ガートの場合】
俺は悪魔の父と人間の母との間に産まれたハーフデビル
母が住んでいた村が悪魔達に襲われ、その際に面白半分で作られた命だった
やがて悪魔達は勇者一行に討伐され、精神を病んだ母は家でひっそりと俺を産み落とした
悪魔の成長は早いらしく、半分悪魔の血が入っている俺の成長速度も例外ではなかった
五つを数える歳には身長は五尺(150cmくらい)を超え、腕力もそこら辺の大人の男よりも強くなっていた俺は身を潜めるように母と村の外れの小さな小屋に住んでいた
病んだ母との会話は一切無い
たまに虚ろな目で俺の方を見たかと思えば静かに泣き出す始末
そんな母も俺が七つの時に「ごめんね、私はあなたを愛せない」と最後に告げ、翌朝首を吊って死んでいた
俺は母の宙吊り死体を見ても何も感じなかった
母が俺を愛していなかったように、俺も母を愛してはいない
何の感情も動かぬまま、その日の内に邪魔な母の死体を近くの川に捨て、そのまま魚を捕って1人で飯を食っていた
誰にも愛されないまま
誰にも優しくされないまま
1人で平坦な毎日を繰り返しているとある夜、村の奴等が俺が住む小屋に火を放った
前々から知っていた事だが、俺の存在は不気味でおぞましいらしい
熱くて苦しくて
どうしようもないほどの怒りや憎しみが溢れてきた
何も悪い事をしてないのに…
恐怖や偏見だけで俺を苦しめる奴等を全員ぶち殺してやりたかった
しかし俺は全身に火傷を負って虫の息
息を潜めて川まで逃げるのが精一杯
この身を川に放り投げ、一晩中川の流れに身を任せていたらやがて河口の街に辿り着いた
不幸中の幸いか…全身火傷で皮膚が爛れていたおかげで俺がハーフデビルだという事は隠せた
だがどのみち全身包帯を巻いた不気味な男だという事は変わりない
そして面倒な事にその日から包帯と火傷の薬を買う金を稼がなくちゃいけなくなった
その時点でまだ齢10だった俺
田舎で自給自足してたガキには金の稼ぎ方なんてわからない
ガキと言っても体は今と変わらない八尺(240cmくらい)ほどまで成長していて無駄に腹が減る
中途半端にデカい街じゃ今までみたいに川で魚を捕る事も出来なかった
途方に暮れていよいよ通行人を襲う事を視野に入れ始めた時、たまたま通りかかった路地の壁に『処刑人募集』の貼り紙を見つけた
後から知ることになるが、この街の領主は猟奇的なことで有名で小さな罪でもすぐに罪人を処刑していた
本当に些細なこと
もはや冤罪に近い言い掛かりでも簡単に人を殺すもんだから執行人が良心を病んで長く続かないらしい
その点、俺に心なんてもんは無い
誰の心にも触れてこなかったんだから当たり前だ
適材適所とは正にこの事だと思いながら俺はすぐに領主の邸に行き、即採用で次の日には初仕事で二人殺した
それからは毎日毎日罪人を殺しまくった
全身包帯の巨漢が気持ち良く罪人の首を一刀両断する姿はどういう訳か好評で
一般公開されていた処刑台にはいつしか人が溢れるようになっていた
それと比例するように犯罪率も下がっていく
馬鹿な俺でもこのカラクリの仕組みはわかる
住民からしたら「あんな化け物みたいな男に殺されたくはない」とのことだ
俺の人気が出ると俺の仕事が減る
そんなジレンマを抱えながら俺は無心で罪人の首を落とし続けた
血に塗れ続けて20年が経った頃、老齢の領主が代替えとなった
次の領主は若い三男坊
前領主からは似ても似つかない優男だった彼はまず始めに処刑制度ごと撤廃した
俺も最初は「飯の食いっぱぐれか…」くらいにしか思っていなかったが、呑気な事を言ってる場合ではなくなった
どうやら俺はいつの間にか前領主の権力の象徴になってたらしい
そんな俺を新領主は処刑するために捕らえ、少しの監禁期間を経て直ぐに執行される事になる
この街で見る最後の断頭台
その時、俺が執行人に言った言葉は今でも鮮明に憶えている
「そんな細い腕で俺の首を斬れるのか…?」だ
普段喋らない(喋る必要もない)俺が放つ数年振りの声
酷く嗄れた低い声
死ぬ前に最後の確認のつもりで出したんだが…
自分でも気味が悪くてやっぱり嫌いだ
化け物みたいな男の化け物みたいな声にビビった執行人は結果的に俺の首を落とす事は出来なかった
それはもう酷い有り様で、思わず「もっと腰を入れろ」とアドバイスしたくなるほど
……ともかく、予想外の形で最初の危機を脱した俺は生き延びた
そこから2回目の処刑からは間も無く、更には趣向を変えてきた
なかなかに皮肉な結末
二回目の処刑方は火炙りだった
民衆の前で磔になった俺は容赦なく業火に呑まれる
最初こそ苦痛ではあったが途中からはもう何も感じなかった
もう何でもいい
どうでもいい
生きるも死ぬも
痛みも憎しみも
食うも寝るも
どうだっていい
たぶん俺はこの時、疲れていたんだと思う
どうしようもないほどこの世に呆れ果ていたんだと思う
何も考えなくて済むなら
それが一番いい…
それでも俺は生き長らえた
ハーフデビルの中途半端な生命力が俺に『死』すらも許さなかった
焼かれ続けた肌は爛れを越え、炭の様に黒くひび割れても死ぬ事は出来なかった
二度目の生還にうんざりしていると領主は俺を殺す事を諦めた
その代わり、奴隷として俺を一生働かせるらしい
…別にそれでも構わない
もう思考すら面倒臭い
誰かの操り人形なら
それはそれで楽だ
それからはもう俺はただの木偶だった
物言わぬ人形
命令だけを聞いて動く蛻
そんな状態で命を垂れ流していたらいつしか時間の概念も曖昧になった
飽きたら捨てられを繰り返し奴隷商を転々とする日々
何年…何十年…
気付けば街並みも随分と変わり
領主の名前も姓からして違っていた
それでも俺には関係無い
俺はただ次の主が決まるのを静かに待つ
それを死ぬまで繰り返す
ただ
それだけだ
「やべー!すげー強そう!!超かっこいい!!」
ああ…
今度の主は随分と騒がしいな
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