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雄弁な仮面

デイジーとの魔界進行は半年ほど前から一時中断している


というのも、俺達は既に魔界に突入し、人間界から一番近い魔王の根城(以下魔王城)を目と鼻の先にしていた



そんな土壇場でダキンシューがデイジーに「まだやめとけば?」なんて適当な苦言を(てい)してきてので軽く一悶着有ったが…俺も元々ダキンシューと同じ意見だったのでデイジーが最終的に折れた形だ


デイジーも出会った頃よりは多少強くなったが魔王に挑む程の実力はまだ無いとダキンシューは判断したんだろう


冷静な判断だ


実際、特に何もしていないダキンシューと比べてもデイジーの総合的な戦闘力にはまだまだ差が有る


ダキンシューを遥かに凌ぐ魔王を相手にするのは正直無謀だし、俺も魔王相手にデイジーを守り切れる自信が無い


当分は魔界内でのレベル上げに専念することになった



とは言え、聖女様ってのはただ無闇にレベル上げしてりゃいいってもんじゃないらしい


各関係者へ状況報告を義務付けられていた彼女は今の現状を包み隠さず報告すると行事への参加を強制化されてしまった



今までは着実に進む旅路に誰も文句は付けなかったらしいが…ここに来ての足踏みはどうやら聖人信者・聖女信仰者達を不安にさせてしまうらしい


ならばせめて聖女の健在を各所に知らしめてくれと、お偉いさんの注文が下った




そこまでの流れとしては至極真っ当で、俺としても口を挟むつもりは無い


しかし…聖女のパートナーである俺もなるべく参加して欲しいと頼まれて少々面倒臭い



一丁前に顔出しNGを貫いている俺はその度に仮面を付け(デザインも毎回変える)、髪色も魔法で変えている



大きな式典は年に三回

初代聖女が初めて魔王を倒した記念日

聖人の誕生祭

そして現聖女(デイジー)の誕生日


その他、細々した祭典が月に1~2回


前述の3つに関しては流石に俺も出席せざるを得ないが、後述はよほどの事がない限り俺が顔を出す事は無い


何処ぞの公爵様の誕生日会なんてもっての他だ



しかしながら今回のその公爵様ってのがデイジーの親父

父上、父様、パパ上様ってな



デイジーの家族とはそれほど面識は無い

一番最初にこそ挨拶くらいはしたが、後はどこかで顔を合わせたとしても軽く会釈するくらい

愛想良く話でもすりゃいいんだろうけど、生憎と貴族様が好きそうな話題なんて知らんしな


親父さんだけじゃない、デイジーの下に二人ずつ居る妹と弟達とも特に仲良くはない


悪い訳でもないが、親父さん以上に会話をしたことがない



それでも俺が今回デイジーの説得に応じて親父さんの誕生会に出席した理由はデイジーのお袋さんに有る


デイジーのお袋さんは本当に聖女の母なのか…そもそも本当に公爵夫人なのか、ってくらい心配性


たまにデイジーに会えば彼女の第一声は必ず「大丈夫!?怪我はしてない!?」だ



過保護で優しいお袋さん

俺が旅に動向するようになって以前よりはマシになったらしいが、今でも夜は胃薬が無いと眠れないとのこと


聖女の親ではなく、公爵夫人でもなく、一人の母として娘を心配する彼女を不安にさせる訳にはいかない



という訳で俺は今、公爵邸の中庭にて腕に自信がある男達を相手に剣を振るっている



「くっ…流石は勇者殿、私の腕では歯が立ちませんな」


屈強な男爵家の護衛の男が尻餅を突きながら俺に苦笑いを向ける


スローモーションで迫ってくる剣を1度弾くだけで決着が着く稚拙な模擬戦をかれこれ10回は繰り返し、「疲れた」という嘘の理由で少し休憩を挟む



各家々の腕自慢が俺に挑戦する

これはもうどこの催しに行っても鉄板の流れ


最初は単純に俺の力量を計りたいだけだったみたいだが、最近は貴族達が権力・財力・人徳を誇示するために行われてる節がある


そもそも勝つ気なんて元々無くて、俺と何度剣を交える事が出来たかが重要らしい


最高記録は5回で

その記録を作った元S級冒険者を雇っていた侯爵様は今でも鼻高々である


…くだらねぇ



仮面のせいで飯も酒も楽しめない俺は辺りを見回してデイジーの姿を探すが、先にデルドレを見つけて音も無く忍び寄る


デイジーのお袋さん、シェリー夫人と談笑してるデルドレに気付かれないように背後に回り込むとそのままデルドレの膝に膝カックンをかました



「シェリーはいつまでも若々しいな、正直今でもそこら辺の貴族から求婚されてもおかしくねーよ」


「フフ、デルドレ様ったら、相変わらず口がお上手ですね」


え…無視?


確実に目線が下がったにも関わらず平然と会話を続ける二人

 夫人はクスクスと笑いながら俺にヒラヒラと手を振ってくれてるものの、デルドレは眉1つ動かさない



「何無視してんだ馬鹿野郎」


「テメーの幼稚な悪戯にイチイチ付き合ってられるかクソ野郎」


向き直ってデルドレと取っ組み合ってると夫人は扇子で口許を隠しながらも嬉しそうに笑った


「フフフッ、今日も仲がよろしいこと」


「どこがっ!?」×2


夫人の能天気な発言に思わず二人でシンクロツッコミをしてしまった

 これじゃあ息がピッタリ過ぎて更に誤解されそうだ



「あ、ちょうどいいところに、メイちゃん、ローくん、勇者様達にご挨拶なさい」


自分の娘達を見つけて手招きする夫人

だが二人はそんなことをされなくても元々俺達の方に向かってきていた


バレンタイン公爵家、末妹のメイアス・バレンタインと末弟のローゼン・バレンタインが揃って俺達に会釈する


14歳のローゼンは普通に綺麗な顔立ちの中坊に見えるが、17歳のメイアスはまだあどけなさを残しているもののその腹は華奢な体に対して少し不自然に膨れていた



もちろん俺は既に聞いている話

彼女のお腹にはめでたくも第一子が宿っている



聖女の家系は代々、聖女に選ばれなかった他の姉弟達が繁栄させていくもの


なるだけ多くの子孫を残すため、姉妹は遅くても15を過ぎた辺りで婿を貰い、男兄弟は早くて10を過ぎれば嫁を数人設けるらしい


俺が口出しする事じゃないし、個人的な感情だが…使命感が強いこの制度は理解出来なくてあまり好きじゃない


かと言って勝手に同情するのも失礼だと思うからここは全力で社交的な笑顔を貼り付けておこう(仮面だけど)



「お久し振りですデルドレ様、勇者様もいつも姉が大変お世話になっております」


「姉さん…勇者様はともかくデルドレに様なんて付けなくていいよ」


思わぬところに嬉しい伏兵

どうやらローゼンは俺の味方だ


よく解ってやがるぜ…あとで飴ちゃんをあげよう



「言うようになったじゃねーかロー坊、俺ぁお前がまだこんなんだった頃から知ってんだからな!」


デルドレは2~3歳児の高さまで目線を沈めて手を平行に左右させる


ここぞとばかりに「おじちゃんウェーブ」をかますデルドレには正直ドン引きだ



「子供扱いは止めてくれって言ってるだろ…親父臭いよ?」


「おやじ…くさい…?……おう…五臓六腑に染み渡るぜ…おぃ」


中学生紛いの坊主から精神的ダメージを受けてるデルドレは滑稽でいて愉快だった


いいぞ、もっと言ってやれ



実際のところ、もはやデルドレより歳上な人間を見付ける方が難しい状態だからな


こいつはその事実もっと痛感しておいた方がいい



「こらローくん、それはデルドレ様に失礼過ぎるよ?謝りなさい」


「いや、いいんだメイアス、そんなことよりシリウスとアリアはこんな日にも仕事か?」


シリウス・バレンタイン

アリア・バレンタイン

バレンタイン家の長男と次女の名だ


「うん…南で農作物が育たなくなる呪詛をかけられたらしくてね、それを解きに行ってる」


アリアの方は「()の聖女」と呼ばれる存在で、その役目は主に悪魔側からかけられた呪いの解呪


代々聖女に次ぐ才能を持つ女子が選ばれる


「そうか…あいつは最近顔見てねーけど、調子はどうだ?」


「あまり良くないですね…姉さんに蓄積された呪いの侵食の影響が脚に出てしまって……半年ほど前から1人では歩けなくなってしまいました」


後の聖女は戦死することは無いが、どのみち短命だ

 二人の会話の通り、解呪の際に蓄積される呪いの欠片が体を(むしば)み徐々に彼女を内側から壊していく


定期的に聖人の元へ行って浄めてもらってるらしいが…

それでも完全に消し切る事は出来なくて、記録でも40まで人生を全う出来た奴はいない



そんな後の聖女のサポート役は聖術の知識と才能が無いと勤まらないため、だいたい聖女の血筋である近親者が勤めている


「…………そうか」


気の利いた台詞が見つからなかったのは仕方ない

だがデルドレの辛気臭い顔は大凡(おおよそ)誰かの誕生日に見せていい面じゃない


とりあえず俺はデルドレの鳩尾(みぞおち)に容赦なく肘を入れる



「ぐっ…テメッ…」


「そんな顔見せんじゃねーよ馬鹿垂れ」


「……チッ」


この場で誰よりも口を苦くしてんのはデルドレだ

そんな事は明白で、新参勇者の俺に言われる筋合いが無いのも解ってる


しかし俺にしか言えないのもまた事実


それを理解しているからこそ、デルドレの舌打ちは本当に悔しそうだった



「デ、デルドレ様…よろしければこの子の名付け親になってくれませんか?」


空気の読める末妹はデルドレの手を取って自分の腹にあてがいながら言う


「そうだな…男の子ならエ……」


デルドレは用意していたかのように即答だったが途中で止め、くしゃくしゃの笑顔を作りながらメイアスの頭を撫でくり回す


「やっぱり二人(自分と旦那)で考えろ!それが1番理想的だ!」


おそらくセットするのに時間をかけたであろう髪を台無しにされた彼女は三拍ほどの間を空け、「はい!」と元気に返した



「ところでお前はどうなんだ、ロー坊」


ここで会話の矛先は弟の方に切り替わる


ローゼンは明白(あからさま)に苦い顔をするがデルドレはそんな彼を逃がしてはくれない



「お前もそろそろ結婚しないと親父に怒られんぞ?」


「うるさいなー…デルドレには関係無いだろ」


まるで親に口煩(くちうるさ)く「勉強しなさい」と言われてるような対応


おそらく実際に口煩く言われてんだろう


本来14で初婚も済ませてないローゼンは聖女の血筋としてはあまりにも出遅れてる



「なんだ?好きな娘でもいんのか?」


ニマニマと(ゆる)い笑みを浮かべながらローゼンの頬をつつくデルドレ


ローゼンは額に青筋を作りながらその手を払い退けた



「だったら何だ!?馬鹿にするのか!!」


思わぬ反論に一瞬デルドレの顔が豆鉄砲を食らった鳩のようになったが、すぐに鋭さを取り戻す



「馬鹿になんかしねーよ」


「ならもう余計なことを言わないでくれ!」


公爵家の息子とはいえ反抗期真っ盛りの年頃


しかしそんな態度は家族にも他人にも見せられない



デルドレの曖昧な立ち位置がローゼン本人も無意識の内に感情の捌け口になってるような気がする


それはきっと、悪くない関係だ



「血は争えないってやつだな、シェリー」


「ええまったく、若い頃の夫そっくりですわ」


「それは…どういう…?」


現バレンタイン公爵家当主、ウォルター・バレンタイン


英国紳士を思わせる風体で礼節を重んじる彼はダグラス氏とはまた違う厳格さを(まと)っている



今のローゼンとはとても似てる気がしないが…長年聖女の家系を見守ってきたデルドレには解るんだろう



「ウォルターの野郎もお前と同じ頃に周りの反対を押し切ってシェリーと結婚したんだ」


「あの父様が…?」


親父さんが愛妻家っていう噂は聞いたことがない

だが現在彼の奥さんはシェリー夫人ただ1人


これは公爵家としても貴族としても特殊だし、聖女の家系としては尚のこと異例だったりする



それだけでも彼がシェリー夫人を心から愛しているのは見てとれる


そしておそらくシェリー夫人以外は愛さないのだろう



親父さんは口数こそ少ないが、その背景だけでも彼の愛情の深さは十分に推し測れた



「おう、お前みたいに感情的に悩んでたりしてたけどな」


「デルドレ…僕はどうしたらいいと思う…?」


余計なことを言うな、と言っておきながら最終的に頼るのはデルドレ


何だかんだ言って心の奥の中核ではデルドレを信頼してる



俺はそんな二人を微笑ましく見守っていた



「お前の親父にも言ったが、後悔しない選択肢を選べ」



在り来たりで何の捻りも無い


だがそれでよかった

それだけでよかった


それだけで、『男児』の目は『男』目に変わった



迷いが消え、力強くデルドレを見据える眼差し



その視線がやがて俺の方を向く




「勇者様」


「藪から棒にどうした?」


「僕は貴方から奪いたい人がいます」



正直驚いた


蚊帳の外かと思いきやいきなり渦中の中心に投げ込まれたんだ…そりゃ肝も抜かす



「貴方はその人を何とも思っていないかもしれません……貴方にとって取るに足りない人なのかもしれません……だけど僕には…」


「その人ってのは…いったい誰のことだ?」



酷い胸騒ぎがした


心臓が逆立ちしてるみたいな

嫌な感覚








「僕はーーーーー








.









少年の…いや、1人の男の宣戦布告を受けてから半日


親父さんの誕生際を終えて俺とデイジーはバカンへの帰路についていた



「どうしましたの?さっきからずっと仮面を見詰めて」


「ん?あー…ちょっと考え事」



俺は帰ってからずっと食卓でボーっと今日付けていた仮面を眺めていた





結果的に俺がローゼンの宣戦布告で心揺るがす事は無かった


動揺も怒りも何も無い

感情を動かさない、ほぼ無心


何なら「どうぞご自由に」と返す余裕すらあった



「焦っているんですの?」


「何に?つーか何でそう思った?」


「なんとなく、ですわ」


「理由も無いのに言い掛かりは止めなさいな」




心音も脈拍も正常


おかしな事なんて何1つ無い






そう自分に言い聞かせながら


俺は仮面に入った(ひび)をゆっくりと指でなぞった





.

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