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長い夜

ライチ達が裏庭に埋めた種が数年越しにようやく芽を出した瞬間


1人の女のおよそ300年続いた長い長い夜に一筋の光明が見えた



事の発端は今朝方、ライチが毎日欠かさず水をやっていたあの大きな種が土を押し退けて発芽したことに起因する



その日は街に陽が顔を出すと同時にライチに叩き起こされた


無防備な脇腹に硬い頭蓋骨が叩き付けられた時は最悪の目覚めだったが、俺が嘆くよりも早くライチは裏庭の種が発芽した事を興奮気味に捲し立てる


まるで宝くじで1等が当たったようなテンションに気押された俺は怒るに怒れず、とりあえず嬉しそうなライチの頭を撫でた



ライチは「すぐにジュナに知らせたいです!」とベッドの上を飛びはねながら訴えてきたが、一番鶏が鳴くような時間帯だったので昼まで待つように上手く諭した



ライチとジュナ、二人の間で交わした確約は種を植えてから四年以上経った今でも継続中みたいだが…実際問題ジュナに関してはそんなこととっくに忘れてると思う


もちろん、ジュナが店に来る日は今でも彼女は水やりを怠らない

しかしそれは成る果実目当てじゃない


気付けばジュナも出会った頃のカロム兄妹と同じ年頃

身長はとっくにライチを追い抜かし、「お姉さん」の領域に片足どころか半身浴くらいしている彼女は内気な性格もすっかり治って今や大人しく気立ての良いお嬢さんに成長していた


ハッキリ言ってジュナにとって果実山分けの約束なんておまけに過ぎない


それでも尚、育つかどうかも分からなかった種に水やりを続けてる理由はライチとの絆故だ


ジュナはもう食い意地の張った子供じゃない

もっと魅力的で大事な事を知っているし、それは既に持っている…

ってことだな



それに比べてライチは外見も内面も出会った頃と全く変わりない


ハイエルフは元々長命な種族だが、それを抜きにしてももう少し精神的に成長しててもおかしくないんだけどなぁ…


詳しい年齢は伏せとくが、元々の俺の歳を足してもライチの方が年上だ


しかし年齢に言動が全く追い付いてない

我が家の口だけ「お姉さん」はもはや子供寮の面々と孤児院に元々居た最年少組くらいにしか威厳を発揮しない


そんな中、ジュナだけは未だにライチを「お姉ちゃん」と呼ぶ


見た目も精神も既に追い越し、追い抜いているにも関わらず

絶対に投げ槍に呼び捨てたりしない


そして時折ライチに頼り、尊敬もする


そんなジュナが可愛くて仕方ないのだろう

客観的に見ても他の子と比べても特別仲が良い


控え目に言って友達以上恋人未満って感じだ


最近はジュナに子供寮の世話係を手伝わせてて店に来る機会も前より減ったが、休みが会えば必ず二人で出掛けている




今日のジュナは他の子数人と午前中だけ子供寮の当番になっている


昼過ぎになったら迎えに行こうと思っていたが…

…それまでの間、非番のライチがとにかく(やかま)しかった


流石に騒ぎ立てる事はないが、散歩待ちの中型犬くらい落ち着きが無い


俺が少し席を立つと思い切り尻尾を振って「迎えに行くの!?」と聞いてくるし、客が入ってくるとジュナと勘違いして全身全霊で出迎えに行く


そしてジュナじゃないと分かると明白(あからさま)に落ち込む


客に失礼だから止めてほしい…いや、マジで



そんなこんなで気の休まらない午前中が終われば昼飯を食ってすぐに「早く連れてきてください!!」と急かされる


俺は四の五の言わず黙って記憶回路(インセットワープ)でジュナを連れてきた



「どうしたのライチお姉ちゃん?重大発表が有るって聞いたけど」


「そうなのです!そんなのですよ!!」


興奮するライチは上手く言葉で説明出来ず、ジュナの手を引いて一目散に裏庭に駆けていく


数秒後には二人の歓喜の声が木霊(こだま)すと思ったが…



「キャーーーッ!!?」×2


予想は外れ消魂(けたたま)しい悲鳴が響いた


「んだよ、まったく…」


予想外の状況に俺も慌てて裏庭に急ぐとそこは阿鼻叫喚



「やぁやぁ出迎えご苦労!早速で悪いが母様達が腰を抜かしてしまったので介抱頼む!」


見知らぬ半裸の男

泡を吹くライチに慌てふためくジュナ


正に混沌(カオス)…一画面の情報量が凄まじい



「どちらさんで?…つーか人ん家で猥褻物(わいせつぶつ)陳列(ちんれつ)すんなよ」


「いやぁすまない、何せ俺様も産まれたばかりゆえ、身に纏える物がこの葉っぱしかないのだ」


橙色と黄色の交ざった髪を揺らしながら、変態男は股間にあてがった掌大の葉を指差す


ほぼ裸同然なのに溢れ出る自信


心許ない防御力を意に返さず堂々とした立ち振舞いだった



「産まれたばかりってのはどういう意味だ?ちゃんと説明しろ」


「そのままの意味である。俺様はこの小さな芽から今朝方産まれたばかり!爆誕である!」


「つーってーと、お前は元々バオケルナの種の中に居たってことか?」


「その通り!大昔バオケルナに吸収され魂ごと種に宿ってしまったのだ!」


俺がライチのお土産に拾ってきた『生命の種』

爆発前に盗賊スキルの『強奪』で手に入れてたんだが…まさか成人男性が成る種だとは思わなかった



「いやしかし生命の種をそのまま使わず育てようとは…珍妙にして奇怪…しかしそれゆえ俺様がこうして復活出来たのだ!母様達には感謝してもし切れない!!」


随分と紆余曲折な成り行きを冷静に整理しながら俺はアイテムボックスからサイズの合いそうな服を出して変態に投げ付ける


「おお、これはこれは!白髪(しらがみ)の!痛み入るぞ!」



投げ付けた服を受ける取ると嬉しそうに袖を通す変態


堂々としているものの流石に好き好んで素っ裸だった訳じゃないようだ


「正に人類の叡知を噛み締めている気分だ!!」


「大袈裟だろ…」


変態に(仮)が付いたところ

パニックに陥ってたジュナがようやく現実に帰ってきた



「燃やしましょう…」


「ん?」


少女(ジュナ)の口から出るには(いささ)か不穏な台詞に耳を疑う


一点の雲もかからぬ負の感情

何が彼女をそこまで駆り立てたかと言うと紛れもなくまだそこに横たわるエルフだ



「ライチお姉ちゃんと私の…………台無しに…」


違和感を覚える若干長い間

そこにどんな言葉を当て嵌めれば正解なのか俺には推し測れないが…どちらにせよもう手遅れ


思春期から反抗期に…

あるいは反抗期から思春期に



少女(ジュナ)は1つ大人になってまた余計なものを覚えてしまう



「いっそ…消してしまいましょう」


思い出が全部綺麗な物だとは限らない

それは大切な人との大切な思い出であったとしても例外は無い


二人の思い出のゴールが変態で

納得がいかないのは解る…

解りますが…


その左手に携えた特大の『火球(ファイアーボール)』はあまりにも物騒だろ…(汗)



「こらこら、止めなさいて…!」


「離してロージお兄ちゃん!!ライチお姉ちゃんが起きる前に消さなきゃいけないだよ!?」


御乱心なジュナを羽交い締めで抑える俺


対して元凶は事の重大さを理解してないようだった



「どうした母様、何をそんなに怒っているのだ?」



あっけらかんと言ってのける変態に神経を逆撫でされたジュナから「プツリ」と糸が切れる音がした



「お?」


次の瞬間放たれた『火球』



家庭菜園はもちろん

植物由来の変態もよく燃える








まさしく地獄絵図と化した裏庭


二つの絶叫がいつまでも響いた




.








裏庭の鎮火を終えた俺は二つ並んだたんこぶに説教をぶつけていた



「いくら取り乱したからって所構わず魔法をぶっ放しちゃダメだろうが」


「はい…ごめんなさい」


「お前も無神経に人を煽るんじゃねーよ!」


「すまん…これからは善処する」


過ちが人を成長させるのだとすれば二人は今まさに成長している


決して頭が痛いからとか

怒鳴られて怖いから反省している訳ではないと信じたい



「もうその辺にしてあげてください…それ以上は驚天動地です」


確かに…ライチの言う通り異世界にゃ寝ても覚めても夢みたいな事ばかり


皮肉ならなかなか出来が良い


しかしそれでも俺はこれが平穏だと胸を張って言お……






「やっと会えた」



…こうも立て続けに波乱が飛び込んでくるとライチに反論するのも億劫だ



不意にかけられた声は俺達の頭上から聞こえ

透き通る様な声帯の持ち主は天井で逆様に立っていた




「もう…離しません」



墨汁の原液のように真っ黒な彼女はそう言うと綺麗な顔を(いびつ)(ゆが)ませ微笑む



背筋が凍るその笑みは

紛れもなく変態(仮)に向けられていた





.

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