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トゥルーエンドかと思った?残念!ハッピーエンドでした!←

※再びリーサ視点です

見届けると誓ったはずなのに…私は最後まで見る事が出来ませんでした



トロントさんの腕が飛んだ瞬間、不覚にも私は目を瞑り顔を伏せてしまいました




私の目はまともに仕事をしてないくせに涙ばかりが溢れてくる



好きな人を信じたはずなのに、この目は余計なことばかりする





ここで泣いたら私自身がトロントさんの敗けを認めたみたいじゃないですか…




でも…目が…脳が…体が…


心以外の全てが私にトロントさんの姿を見せてくれようとしなかった



身体中の防衛本能が叫び喚く



愛する人の屍はきっと


目を通して私を壊してしまう




「うっ…う…トロントさん…」



それでも私は本能に抵抗する



抗った末、そこに壊れたトロントさんが居たとしても構わない



そして私が壊れてしまっても構わない




瞼の外に最悪の結末が待っていたとしても


私だって舌を噛み千切るくらいの覚悟は出来ています





トロントさん


貴方を1人にはしません



貴方が来てくれた時にはもう


私は何処までも付いて行くって決めてましたから







「ここで見ないのは勿体ねーぞ」




意を決して瞼を上げようとした瞬間、小鳥の羽音と共に聞き慣れた声が私の頭の上から聞こえた




「ろ、ろうじさん!?」



「いえ、私は通りすがりの渡り鳥…って、そんなことはどうでもいい」



変な嘘をつく意味は分かりませんが、ろうじさんが来てくれたのなら好都合



ろうじさんならトロントさんが如何に傷付いていても治せるはず




「あんな格好いい姿は一生に1度有るか無いか…惚れ直したいなら見といて損はないぞ?」



「え…それはどういう…」



「別にそのまんまの意味だけど」




あっけらかんと言い退けるろうじさんに絆ほだされて不意に開けてしまった目にはトロントさんの屍なんて映り込みませんでした




そこには片腕を失いながらも残った手で柄つかを握り、トロワさんの顔面スレスレの地面に剣を突き刺すトロントさん姿が





「勝ったと思いましたか…?」



「……斬った腕から咄嗟に剣を掴み取る…イカれてるな」



「言ったでしょう…捨て身だって」



「…………くっ」



トロントさんにマウントを取られた形のトロワさんは悔しそうに片腕で目元を隠す




「決闘の決着はどちらかの「死」のみ……俺の負けだ、早く殺せ」



「何を言ってるんです…そんなの嫌に決まってるじゃないですか」



トロントさんは生気の無い顔で微笑むと地面から剣を引き抜いた



その顔は今の今まで殺し合っていた相手に贈る表情としては間違っているかもしれませんが…トロントさんらしいと言えばトロントさんらしい




「君は僕の親友にして唯一の『戦果』なんですから…死なれたら悲しいですよ」



「くっ…うぅ……畜生ぉ…」



「おやおや…泣いているんですか…?」



剣を雑に手放した彼はポケットからハンカチを取り出す



私はてっきりそのハンカチをトロワさんに渡すのかと思いました





「申し訳ありませんが…今は片腕しかないので……拭える涙も1つだけなんです…」



そう言ってゆっくりと立ち上がるトロントさんは血の足りない体でフラフラしながら私の元へと歩み寄る




「すみません……迎えに来たのに…こんなにボロボロじゃあ…格好がつきませんよね…?」



そんなことない


そんなことないけど…



彼の白過ぎる苦笑いは私の言葉を喉の奥に詰まらせる



「リーサさん…」


彼は私の拘束を外すと頭を下げて膝ま付いた



「…この愚かで醜い僕にもう1度チャンスをいただけないでしょうか」



思えば…この頑固者にどれだけ傷付けられたでしょうか


「もう傷付けません…」



どれだけ心配させられたでしょうか


「もう悲しませません…」



そしてどれだけ泣かされたか


「もう泣かせません…」



でも…

トロントさんから貰った悲しみと喜びは全部…



「だから…僕にもう1度貴女を愛するチャンスを……そして願わくば…」



私にとってかけがえの無い宝物です





「この世で唯一の…僕の『逃場』になってください」



トロントさんにとって、それは何よりも甘い愛の言葉


そして私が必死に目指していた場所



「はい…!」


私は衝動的に彼の胸に飛び込みました


怪我人に躊躇も無く

ただひたすらに自分をぶつけたら彼が体制を崩すのは必須


大衆の前、二人してみっともなく倒れ込み

私はトロントさんを全身で感じました



「せっかくの素敵なドレスが…汚れてしまいますよ」


「そんなの構いません…!ここでトロントさんを抱き締めないと、きっと私は後で後悔します…!」


「そうですか…出来ればその気持ちに僕も全力で応えたいのですが…」


私の背中に回された腕は1本


本来あるはずのもう1本は、今の彼にはありません




「四肢の欠損…脚が最も最悪だと…思っていました」


「トロントさん…?」


彼の腕の力が徐々に抜けていく


「両の腕で貴女を抱き締められないのも…存外…困りもの……です………ね…」


完全に力の抜けた腕が背中からずり落ちて

彼は意識を失いました



「なに止め刺してんだよ…」


微弱な呼吸は正に「虫の息」


私は半ばパニックに陥りながらも背凭れで羽休めをしているロージさんを両手で思い切り握り締めた



「ぐえっ!」


「ロージさん!早く…早くトロントさんを…!!」


直ぐにでも完全回復をしないとこのままではトロントさんが死んでしまいます


「悪いが貴族や有力者が集まってるこの場所じゃ迂闊に魔法を使う訳にはいかなくてな」


「そんな!?ロージさんの薄情者!!人殺し!!」


最後の最後に私を絶望に叩き落とすロージさんを力任せに上下に振っていると手の中に羽毛よりも固い感触が有るのに気付きました



「おえぇ…話は最後まで聞きなさいな…」


「す、すみません…」


手の中を確認するとぐったりするロージさんがポーションを抱えていました


「代わりにフルポーションをやるから、これをトロントに飲ませろ」


「わかりました……でもトロントさんは意識を失ってますし……どうやって飲ませれば…」


「それに関してはローションを飲ませるプロがあちらにいらっしゃるので御教授願ってくれや」


そう言ってロージさんが翼で指した先にはアイリッシュさんが…



私はポーションを持って直ぐ様アイリッシュさんに駆け寄り事の経緯を説明しました


「別に僕はプロじゃないよ…とりあえず経験談は教えるけど……あまり大きな声で言いたくないからちょっと耳を貸して」


言う通り私が耳を貸すと彼女は小声で手順を教えてくれる



「とまぁ、こんなところなんだけど…コツとしては上体はなるべく起こしておくとより上手くいくと思うよ」


「え、でも…それって…////」


「この大勢のオーディエンスの前だとかなり勇気がいるけど、適任者は君しかいないし……まぁ、頑張ってね」


方法は至って簡単でした

それこそ子供でも出来ます


しかしこの状況下では随分とハードルが…////




トロントさんは羞恥心を捨てる時間も心の準備をする時間も

私に与えてくれません



時は一刻を争う




私はトロントさんの元に戻ると意を決してポーションを口に含んだ




.







あの夜から1週間

私とトロントさんは正式に付き合う事になりました


それはもう…乙女が唇を捧げたのですから

責任は取ってもらわないといけません(本人には何があったか言ってません)



私達の関係は大きく、しかも劇的に変わったはずなのですが…

今のところ仕事でもプライベートでも実感は特に無く、以前と変わらない日々を送っています



トロワさんの一件は災難として割り切ったのですが…よくよく考えるとある意味彼は私達のキューピッドだったのかもしれません


あれくらいの出来事がなければ私達の交際は恐らくあと3年は先伸ばしになっていたでしょうからね…


………少々複雑な気持ちです



それにまだ1週間

過去にするには早すぎですし、余波はまだまだ続きます


一難去ってまた一難


直ぐに新たな不安材料が…




「どうだいセル…トロント、今度俺の稽古に付き合ってくれないか?」


「遠慮しておきます。僕では君の相手はつとまりませんよ」


この1週間、トロントさんが居る日は必ず店に顔を出すトロワさん


死合をしたとはいえ元親友

仲良きことは素晴らしいとは言いますが…どうやらそれだけではないみたいなんです



「確かに君は以前に比べても鈍っていた…ここはどうだろう、彼女を守るためにも俺と1から鍛え直すというのは!?このままではいざという時に困るんじゃないのか!?」


「なるほど…それは一理ありますね」


学習能力の高い彼は私の名を上げれば大義名分になることを学んでしまいました

…とても狡猾です



「これを期にまた剣を振るのもいいのかもしれません」


「そうだろ!それに時には汗を流すのも気持ちいいものだぞ?」


言葉巧みに(そそのか)されて揺れ動くトロントさん…

彼はまだトロワさんの企みに気付いていません



「君が汗だくになっても家には自慢の浴場もあるし、疲れたら俺の部屋のベッドで休めばいい!君の身体のケアもしっかり出来るぞ!」


でました…これが彼の本性


何を血迷ったのか…どうやら彼は開けてはいけない扉を開けてしまったようです



「流石にそこまでしてもらうのは気が引けてしまいますね」


「案ずるな!俺と君の仲じゃないか!!それに時には「裸の付き合い」というのも必要さ!」


彼は1人で背水の陣でも敷いているのでしょうか…後退など最初から選択肢に無いような……その姿勢は多少見習いたいですが………それとこれとは話が別です



「いい加減にしてください!!」


私はついにトロワさんの奇行に口を挟みました


「おやおやリーサ嬢、声を荒げてどうかしたのか?」


「白々しいですね…トロントさんはもう私のです!ちょっかいをかけないでください!」


「確かに今は俺の方が劣勢かもしれない…しかしいずれは覆す!!」


堂々たる宣言をあろうことか本人の目の前で…

敵ながら天晴れと讃えたくなりますが返す刀なら私にもまだあります



「トロワさんには跡取りが必要なはずです!」


「…養子という手がある!さほど珍しくもない!」


「生物として間違っています!!」


「障害は困難なほどやり遂げた時の達成感も絶大…俺は神が設けた壁すら乗り越えてみせよう!!」


流石は一代で伯爵にまで登り詰めた人…

その負けん気に()されていると彼は不適な微笑みを見せた



「それに、この気持ちは決して間違いではない」


万物を貫通しそうな真っ直ぐな思い

それを否定する事は私には出来ない



思わず「ぐぬぬ」と顔をしかめていると能天気に微笑むトロントさんが私達の肩に手を置きました


「何を言い争っているのかは解りませんが、ここは1つお茶でも飲んで落ち着きましょう」



同性とは言え隠そうともしない想いを完全にスルーされ曲がらない男にもダメージが入ったらしい


「………そう…だね」


出された紅茶を前に項垂れる彼は細く溜め息を漏らした



私が何年掛かったと思ってるんですか…

この鈍感男の牙城はちょっとやそっとじゃ崩れませんよ?


ましてや今は私という堅固な盾までついて

もはや鉄壁の不落要塞!


早く諦めた方が身のためですね!



「嬉しそうに笑って、どうしたんですか?」


恋敵の悔しそうな顔を見てついつい笑みが溢れてしまった…とは当然言えるはずもなく

人差し指を唇にあてがいながら含みを持たせて「秘密です」と返す



明らかに視線を反らして動揺するトロントさん


彼の淡い朱の頬を見てまたぞろ悔しがるトロワさん




彼らの顔を見ながら食べる御茶請けのフロランタンは


何だかいつもより甘く感じました





.


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