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切っても切れない縁

※トロント視点です

真剣を握るのは久しぶりでした


最後に手にしたのは…そう、彼と共に駆けた戦地

脚を失ったあの荒野



…………止めましょう

回想なんてつまらない思い出話でお茶を濁すのは野暮です


今はただ目の前に立ち塞がる親友ともと向き合うのみ



「覚えてるか、セルバ?俺と君の模擬戦の戦績を」


「すみませんがその名はとうの昔に捨てました、今はトロントです」


「ではトロントとやら、君は俺に1度でも勝てたことが有ったか?」


「有りませんね…23戦全敗です」



トロワ、彼には最初から才能が有った

そして努力家でもある彼は昔から僕に付け入る隙を与えてはくれない


剣の腕も頭脳戦も僕が彼に勝てたことなんて1度も無い



僕のような凡才では到底太刀打ち出来なかった




「そう、数字の上ではな」


「他に何か有るような言い方ですね…その数字が全てですよ」


「いや、俺は最後の最後に君に負けた…それも立ち直れないほど無残にボロボロにされたよ」



そんな記憶は持ち合わせていません


そしてそんな劇的な勝利を僕が忘れる訳もない



「あの時、君の脚を落とした敵の将…本来なら君ではなく俺が挑むはずだった」


確かに、僕の脚はその人と一騎討ちをして失ったものです


敗戦濃厚から出た苦肉の策

敵将との一騎討ち


だけどそれは僕が勝手にしたことです



「あの時の将は当時の俺より遥かに強かった」


「だから何ですか?今そんな話は関係ありません」


「あるさ…少なくとも俺にはな」



よく研がれたバスタードソード

少し触れただけで皮はもちろん、肉まで容易く斬れてしまうでしょう


両手で握って振りかぶれば肉はおろか、その下の骨まで断てる


僕はその切れ味をここに居る誰よりも知っている



そんな危険物のきっさきを彼は躊躇無く僕に突き付けた



「あの時、俺は足が竦んで立てなかった…腰が抜けて動けなかった」


まるで自分を臆病者みたいに言いますが

彼は断じてそんな男ではありません


戦場では部下の士気を上げるために最前線に身を投じる事も辞さなかった勇敢な男です


その反面、最小限の被害で勝利を掴み取る策士でもあった



ここは相手が悪かったと言うほかありません


例えるなら今の僕がボスに挑むようなもの…


あの時はどう足掻いても勝てなかった



「それは君に限った話じゃないでしょう…あの時は残兵の殆んどが戦意喪失してました」


「しかし君は違った」


「…誰かがやらねばならない事をしたまでです」


「だからそれが俺だったんだ!!」



僕の記憶の中では、彼は感情的に声を荒げる人ではありませんでした


僕には彼が何でこんなに怒っているのかさっぱりわかりません



「自分が腰を抜かすほどの相手に立ち向かう親友ともの姿…君にはこのえも言えぬ敗北感がわかるか!?」


「わかりません」


「助けてくれた親友えいゆうに何も出来なかった俺の無念を!?」


「だからわかりませんってば」


今更そんな事を言われても…

今の僕には出来る事は1つだけ


そしてそれは最初と何も変わらない



「すみませんね…どうやら僕は鈍感な男だったようなので、君がそんな風に思っていたなんて知りませんでした」



現在リーサさんを取り戻すため

過去トロワやいばを向ける



「俺は君を消し去りたい…俺の人生で唯一の汚点である君を」


「それは困るので精々足掻かせてもらいます」


過去ぼくを捨てたい彼と

過去かれと向き合う僕


同じものを見てるはずなのに…どうしてこうも食い違うのでしょう



やっぱり僕にはさっぱり解らない




「セルバァァアア!!!!」


「っ!?」



10歩ほど離れていた間合いなど彼にとっては無に等しく、一蹴りで僕の懐まで潜り込む


駿足の初撃を紙一重で防ぎはしたものの、僕はその重い一撃でガードごと客席まで吹き飛ばされた



「トロントさん!!?」


赤いワインを頭から被る無様な姿

…こんな姿はあまり彼女には見せたくありませんね



「衰えていませんね…」


「君と違って現役だからな」


パワー、スピード、共に足元にも及ばず

現役の頃ですら歯がたたなかったのに、日々デスクワークをこなす今となっては当然の結果です


唯一の救いは決闘において魔法は御法度ということ


このうえ身体強化系の魔法でもかけられたら目も当てられなくなります



「しかしセルバ、そんなところで寝ていたら直ぐに死んでしまうよ?」


「くっ!!」


容赦ない追撃は僕の頬を掠めてテーブルに突き刺さる


彼の一歩はおそらく庭園内なら隅から隅まで届くでしょう

ただでさえそんなに広くもないと言うのに…



逃げ場は無いですが、そもそも最初から逃げるつもりもありません


彼がソードを引き抜く前に反撃を…



「遅い」


僕の振った剣は彼の軽い身のこなしによって空を斬る


盾も鎧も無い今、彼の動きはアクロバットと同じ

みすみす反撃を許してくれるはずもない



「そんな動きじゃ俺は捉えられない」


そう言うと彼は僕の腹部の薄皮を裂いた



「今ので決めれば終わってましたよ…?」


「俺は君の敗走する背を見てこそ満足出来る、そうやすやすと死ねると思わないことだ」



要するに甚振いたぶられるという事でしょうか…?


…しかし笑えない冗談ですね


逃げなきゃいけない状況になるなら

僕は自ら彼の剣に飛び込みますよ




ぱっくりと割れた服


その先で薄らと控えめに血が滴る



僕は距離を取り直す彼から目を離さず

ゆっくりと立ち上がった



「しかしその義足はよく動くな、よほど腕の立つ技師に作らせたと見える」


「義足ではありません、この脚は正真正銘血の通った僕の脚です」


「なるほど、それはまた運が良い…そこまで完全に治せる者なんてほんの一握り、出会えただけでも豪運だな」



そうです、僕はとても運がいい


僕にまたチャンスを与えてくれる人に出会えたんですから



「そう、だからこの脚を逃げるために使ったらその人に面目が立ちません」


「そうか…ならば死んでから謝りに行くといい!」


初動こそ不意を突かれてしまいましたが二度目は何とか受け堪えました


彼の突撃の勢いを辛うじて殺した僕はそのまま鍔迫つまぜり合いに持っていきます



「手加減…してますか?」


「じわじわと血が減り続ければ君の考えも変わるはずだ」


受け切れない手数の剣が僕のガードをすり抜けて体の表面に無数の傷をつけ、ゆっくりと確実に体力を奪っていく


一振り一振り飛び散る血繁吹が緑の芝生を赤く染め上げた頃

遂に僕は地に膝を付いた



「そろそろ諦めろ」


首に押し当てられる剣に返り血は一切ついていない

まさに鮮やかな剣裁き


圧倒的な力の差を感じながら

それでも僕は徐々に重たくなる瞼を支えた



「さぁ逃げろ、そしたら背後から一思いに君を両断してやる」


「相手が自分より強いからといって…それは逃げる理由にはなりません」


「じゃあ逆に聞くが…どうすれば君は逃げてくれるんだ?」


「………そうですね」



どれだけ探したところで僕の中に逃げていい理由は見つからない


辛いから…?怖いから…?痛いから…?苦しいから…?



……やっぱりどれもパッとしませんね



「こういうのは…どうでしょう?」


「言ってみろ」



僕は首元の剣の諸刃を掴んで答えた



「勝ち逃げなら…ギリギリ許容します」


「ほざけ」



彼が剣を引くと親指が何処かに飛んでいった


これもまたとてつもない苦痛



しかし脚1本と比べれば可愛いもの



「その手では武器すらまともに握れないな」


「たかだか指1本…どうとでもなります」


僕は服の一部を引き裂き、手と剣を布切れで固定する

…これで多少の握力はカバー出来るでしょう



「…諦めの悪い」


「粘り強いと…言ってもらいたいですね」


強がってはみても殆んど余力は残っていません

このまま防戦一方ではもはや時間の問題



「1つお忘れかもしれませんが…僕はリーサさんを取り返しに来たんですよ…?」


「それがどうした?」


「僕は死にに来た訳でも負けに来た訳でもない…ましてや逃げるためでも…」


「意気込みは立派だが、現状君に策が有るようには見えない」


確かに策などありません

そんなものが有れば最初から使っています



「退路を全て…捨てましょう」


「まるで今まで退路があったみたいな言い方だな」


「ありましたよ…幾千幾万幾億も」


避わし、防ぐこと

それは損傷を逃れるための退路



「解りやすく言えば…僕はこれから肉を切らせて骨を断つ」


「有り体に言うと捨て身ということか…そんな事をしても無駄だ」


「無駄かどうかは…僕が決めます」


僕は両腕をダラリとぶら下げ構えを解いた



「それは…あの時と同じ」


そう言えば…脚を失った時も似たような姿勢を取っていました


今思えば

これは誰かを守りたい時に取る構えなのかもしれません



「知っているからこそ敢えて言う、やはりそれでも無駄だ」



捨て身だからと言って僕が強くなった訳じゃない…

それは百も承知


むしろ昔より確実に衰えています



それでも僕には昔の自分よりも…

そして今の彼よりも勝る物を1つだけ持っている





「最後です…」


「君の最後はいつもそれだな」




僕は助走をつけ、高い跳躍で彼に飛び掛かった


片手で振り下ろす剣は今日一番の攻手の剣



「終わりだ!!」


しかし彼の剣は僕の決意ごと呑み込む








肩からバッサリと切り放され

宙に舞う僕の腕


そして彼の勝ち誇る顔を見て




僕はこれが本当に最後なのだと悟った




.

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