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勇者暗殺.take2

午後3時、早めに仕事も終わって帰りに工具屋で大人買いをした俺はご満悦で帰路についていた


もちろんインパクトドライバーもエア釘打機(鉄砲)も電ノコも無いが、異世界は異世界で不思議な工具が有るし、それを揃えてしまいたくなるのももはや職人の性と言える


俺の場合固有スキルで直ぐに手に入れる事も出来るが、店頭に並ぶ商品を見て買うのもこれまた乙で止められない



数少ない趣味を満喫して御機嫌な俺が花にお土産でも買おうかとアクセサリーショップのショーウィンドウを眺めていると…




「やぁぁああ!!!」



甲高い少女の雄叫びが聞こえ、腰の辺りに硬い物が押し付けられた



見てみるとフード付きのローブを羽織った女の子がナイフを俺に押し当てている



「……………?」



少女の非力なステータスじゃ俺の体に傷は付かない


俺は気にせずガラスケースの宝石達に目を戻す



「あれ…?……えい!えい!」


懲りない少女は困惑しながら何度も何度も俺の体にナイフを突き立てた


そんなことをしても服に穴が空くだけだから止めてほしい



「あれぇ…?………っ!?」


自分の得物がなまくらなのかと疑い出した少女は自分の指に刃物を押し当てて指を切ってしまった


…馬鹿かこいつ



「ひゃっ!?」


こんな街中で血は似つかわしくない


俺は少女の腕を掴んでアイテムボックスから出した普通のポーションを彼女の指に数滴垂らした



「………???」


傷が治ったのを確認すると俺は帰路に戻る


すまん花…興が冷めたからお土産は無しだ



「…………」


しかし少女はついてくる


ひょこひょこと物陰に隠れながら下手くそな尾行…

…バレてないつもりなのか?



遂にはそのまま店にまでついてきた少女

最後は店の立看板の裏に隠れていたが、俺は丁寧に彼女と目を合わせながら扉を閉めた



「おかえりなさいろうじさん、早かったですね」


中には店番のリーサだけ

他はまだ出払っている


「服が穴だらけですけど、怪我でもしたんですか?」


「いや、怪我はしてねーけど…外にやたら可愛らしい殺し屋が居るから気を付けろよ」


「?…はい」


キョトンとするリーサにこれ以上の説明はしない


というか出来ない



「そう言えば今日はアイリッシュ来たか?」


「今日は見えませんでしたよ」


「そうか、じゃあまだおやつ残ってるな」


アイリッシュが来ない日の余ったおやつは俺が処理する


今日は変なのが居るから最悪これで餌付けでもしよう



「ろ、ろうじさん!」


俺が冷蔵庫におやつを確認しに行こうとするとリーサに先回りされてドアを塞がれた


「き、今日はお客様におやつのチーズケーキをお出ししてしまいました!」


「へー、その客におやつを出す必要があったのか?」


十中八九リーサが食べたのだと気付いているが面白いので泳がせてみる



「えーと…そう!貴族の方だったので失礼の…無いように…と」


嘘を重ねたところで良いことなんて無い

実際リーサ本人も罪悪感で押し潰されそうになっている



「すみません…私が食べました」


「リーサはちゃんと謝れて偉いなー」


反省するリーサの頭を撫でつつドアの前から退かすと俺は冷蔵庫の中からチーズケーキを取り出した



「えっ!なんで!?」


「最近はお前のつまみ食いを考慮して作ってるからな、それを二重構造の冷蔵庫の奥に閉まってたんだよ」


「なるほど、二重構造になってたんですね」


あ、しまった

余計なことを教えちまった



ともあれおやつも無事だったのでテーブルに置いて待機



「食べないんですか?」


「俺はな」


「じゃあ誰が?」


「外の殺し屋が腹を空かせるかもしれんからな」


「それこそ殺し屋さんにおやつを振る舞う必要は無いと思いますけど…」


言われてみればそうなんだが…


さっき見たローブの状態

やたらと薄汚れてたし、多分帰るところも無いんだろう


下手をしたら金すら持ってないんじゃないか?



殺し屋に優しくする義理は無いが野垂れ死なれるのも後味が悪ぃ…




「ただいまー、何かそこで変なの拾ったぞ」


ロイがさっきの少女の首根を持って帰ってきた


宙ぶらりんになってる少女は力無く項垂れている



「この子が例の可愛らしい殺し屋さんですか?」


「いかにも」


この子の正体は何となく察しはついているが、とりあえずローブを剥がしてみる



「うぅ…お腹空いたー」


整った顔立ちに紫色の綺麗な長髪

薄汚れちゃいるが黒いドレスとフリルの付いた大きなリボンは上等なもんだ



「あー、やっぱりお前か」


「知ってる子なんですか?」


「まぁ知り合いって程でもないけどな、名前も知らんし」



腹を空かせてぐったりしてる少女は頬をつついても反応が無い


これはケーキなんぞじゃ腹は膨れそうにもないので少し早いが夕飯の支度をする事にした



「リーサ、悪いけどこいつを風呂に入れてきてくれ」


「了解です」


「それと脱がした服は俺が魔法で超っ早洗濯しとくから先に持ってきてくれ」


「わかりましたー」


とりあえず少女はリーサに任せて俺は夕飯の支度に取り掛かる


献立はロイの要望に応えて鶏肉を使った料理

今回は安直にチキンステーキ(照り焼き)にする


同時にポテトサラダとコーンスープを作りながら一応パンと米の両方を用意しておく



片手間にリーサの持ってきた服を魔法で洗いながら乾燥まで終わらすとロイに頼んで持って行ってもらった




「どした?」


戻ってきたロイの頬に紅葉が貼り付いていたので気になって聞いてみた


「ちょっとタイミングが悪かった…珍しくラッキースケベが発動しちまったわ」


「おぉ…そりゃ悪かったな……たぶん気にしないと思うけど一応トロントには黙っとけよ?」


「わーってるよ…」



若干の一悶着がありながらも二人が風呂から上がってきて直ぐに飯にする


少し機嫌の悪いリーサが気になるところだけど…それよりも食卓についた少女が一向に飯に手をつけない



「どうした、食わないのか?」


ずっと黙っている少女に聞くと可愛い顔に似つかわしくない眼光で睨まれた


「………宿敵に…出された料理を…食べる貴族が……何処にいると言うの…?」


ここに居ると思ったんだが…どうやら的外れだったみたいだ

まだ子供だからといって貴族のプライドを甘く見ていた



「勿体ねー、こんなに美味いのによー」


隣でバクバクと美味そうに飯にガッツくロイを見て少女は涎を垂らす



涎というか…プライドが垂れ流されてる気がする


貴族としてもレディとしても口元は緩くしない方がいいだろ



「この子貴族なんですか?」


「おう、クロイシャん所の娘さんだな」


「クロイシャっつったら少し前に没落したって号外が出てたな」


残り少ないであろう体力で少女は力一杯歯を食いしばる


少女の鬼気迫る表情を見てリーサは呆れ顔を俺に向けた



「ろうじさん…今度はいったい何をしたんですか?」


「前に殺されそうになったから潰しといた」


別に隠す程の事でもなし

俺はあっさりと白状する



「誰も殺してねーし、一応自殺しないように暗示もかけたから安心しろ」


俺はただクロイシャ伯爵の家(豪邸)を荒地になるまで破壊しただけだ


邪魔者は多少痛めつけはしたが全員軽傷だし俺に関する記憶も消した


殆どの財産を失った伯爵は王国の端っこの安い土地を買ってそこに移り住んだらしいが威厳も権力も財産も失った伯爵は今や貧乏暮らしを強いられている


暗示も永久に効くもんじゃないけど、そんな環境でしばらく暮らしてたら暗示が解ける頃には性格も少しは逞しくなるだろう




ただ1つ

俺は取り零した


そのたった1つがこの少女


流石の俺も少女の頭の中を弄くるのは躊躇った



結果的に唯一の目撃者として新聞に証言されちまったが、今のところ大きな問題は起きてない


しばらく様子を見ようと思っていた事だし、悪い大人と違ってお嬢ちゃんには何の罪も恨みも無い


元々「ヤバそうだったら助けてやろう」くらいの気持ちはあった



「安心しろって…実際こんな年端も行かない女の子が路頭に迷ってるんですよ?……事情が有ったにしても少しは反省してください」


「うっ…すみませんでした」


まさに正論過ぎて反論の余地は無いし、する気も無い

俺は素直に謝った


「私じゃありません!この子に謝ってください!」


「…そうだな、その通りだ」



俺はテーブルに両手をついて頭を下げ


「この度は誠に申し訳ありませんでした」


少女におふざけの無い誠心誠意の謝罪を送る




「……許さない」


消え入りそうな声のあと、俺の頭にナイフとフォークが飛んできた


「…絶対に…絶対に貴方を殺す!それまでは絶対に許さない…!!」



迫真に迫っちゃいるが鳴る腹の音と相殺されて迫力は+-0と言ったところ



「ああ、別にそれでいい」


床に落ちた食器を拾いながら俺は言う


そして新しいナイフとフォークを持ってきてリーサに手渡した



「度々悪いが食べさせてやってくれ、どうやら俺の施しは受けんらしいから」


「いいですけど…私が食べさせようとしたところで根本的な解決になってませんよね、それ」


確かに穴だらけな策ではあるが後はもう無理矢理口に捩じ込むしかないぞ



「あまり俺を正論で捩じ伏せないでくれよ…というか最近どんどん俺に対する当たりが強くなってね?」


「まぁ非常識な人ともう三年も一緒にお仕事してますからね、手綱の握り方も上手くなりますよ」


「……つまみ食い娘が言うようになったなぁ」


「さぁ、今切り分けますからねー」


都合が悪くなって逃げたリーサにお咎めは無し

今回は痛み分けって事にしておいてやろう



少女は切り分けられていくチキンステーキを食い入るような目で追っていた


言動が本能に見事に負けちまってる姿は見ていて面白い



一口大に切られた肉がフォークに刺され、少女の口の前に持っていかれる


血走った目の少女はまるで池の鯉の様に大きく口を開けて今か今かと肉が口に入るのを待ちわびていた





「ごめんなさい…お母様」




少女の呟くような謝罪を聞き、俺は反射的にリーサの手を掴む



「急にどうしたんですか!?」


「足りない」


「量なら十分だと思いますよ?」


「違う」



圧倒的に足りない



「30分…いや、20分だけ待っててくれ」


「何処か行くんですか?」


「ちょっと後始末に」



俺はすぐに外へ出ると鷹に変身して天高く舞った


行き先はファルノーツの外れの街



とにかくスピードを上げるためのスキルを何重にも重ね掛けして全速力で飛んだ




焦っていた


息が詰まりそうなほど

冷や汗が止まらないほど

動悸が激しくなるほど


そのくらい焦っていた



風を切り空を切り

音まで切り裂いて急いでいたら目的地には10分足らずで到着した



翼を軋ませながら着いた先には民家を三軒ほど繋ぎ合わせた様な御粗末な屋敷があった



「残った金と一月の時間じゃ上等ってところか…」


調べた情報が正しければクロイシャ伯爵は今ここに住んでいる



俺は変身を解き、正々堂々正面から玄関をこじ開けて突入


執事とメイドが計四人、俺を取り押さえようとしたが微塵もこの歩を緩めない



前は護衛や警備がわんさか居たっていうのに…もうそいつらを雇う余裕は無いらしい



元々専門外の彼らに職務怠慢とは口が裂けても言わんから

…手足にしがみ付くのは止めてもらいたいね


ともあれ、使用人達を引き摺りながら2階に上がると俺は伯爵の反応が有る部屋の扉を開けた




「やはり貴様か…」



伯爵は以前とは違い俺の姿を見ても落ち着き払っていた


一月前は亡霊でも見るように怯えていたのに…

まるで人が違うみたいだ


あまつさえ紅茶を啜る余裕を見せられたが俺は気にせず中に入る



「何で俺だと思った?」


「娘の話を聞いた時に察しはついた…他に思い当たる人物もいないしな」


一月で随分とやつれたもんで、体重も10キロは減ってそうだ

小太りだった伯爵が少しはマシに見える



「して、今日は何用か?まだ奪い足りないか?」


「ああ、前は中途半端だったからな…今日は全部奪いに来た」


「そうかそうか、でも私にはもう何も残ってないぞ」


自暴自棄というか、以前とは比べ物にならないくらい毒が抜けててやり辛い



「いいや、まだ1つ残ってる」




隙間風が吹き荒ぶおんぼろ屋敷にて

俺は中年貴族に告げる





「クロイシャ伯爵、俺はお前を殺しに来た」






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