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ギルドの受付嬢さん、ただいま絶賛婚活中

※受付嬢さん視点

私はトルカ・アルデニド、小さな町でギルドの受付嬢をしています


ピチピチの22歳

彼氏無し


最近母からの「早く結婚しろ」という圧力が凄いです…


というのも、三人姉弟で家を出てないのは私だけ

姉も弟も既に相手を見つけ二人とも子供がいます



お父さんは唯一家に残ってる私を可愛がってくれるんですが…母は顔を合わせる度に「いい人見つかった?」とか「早く孫の顔が見たい」とか(孫なら既に三人いるでしょうに)…もはや挨拶代わりに言ってくるんですよ



私だってそりゃ結婚したいですよ!!


相手がいれば!!



最初は冒険者の彼氏でも作っちゃおうかと思ってギルドの受付嬢になりましたけど…


ただでさえ小さな町のギルドなんて冒険者の数が少ないのに、その半数はおじさんときたもんです


若い人はほぼ全員彼女居ますし…とんだ計算ミスでした



しかし全くノーチャンスって事ではありません




私に残された唯一の好機


三年ほど前にフラリと現れたソロ冒険者のスミヤさん



この方がそれはもうイケメンで

面食いの私としては超ドストライク!


以前然り気無く聞いた話で彼女がいないことも確認済み



これはもう私のために神様がこの人を遣わしたに違いありません!


絶対に私のものにしてみせます!!



と、息巻いてたんですが…


あからさまだったのか

しつこかったのか


スミヤさんはギルドに来てから3ヶ月程で全く姿を見せなくなった時期がありました



先輩(既婚者)に「あんたがウザかったんじゃないの?」なんて冗談混じりで言われた時は冷や汗が止まりませんでしたよ…



確かに手作り菓子を渡したり仕事そっちのけでスミヤさんに話しかけたりしてましたけど…


嫌がってる素振りは無かったと思います…

いや…そうであってほしい



そんな私の不安も薄れてきた頃

1年振りにスミヤさんがギルドに姿を見せた時は私も胸を撫で下ろましたよ


ギルドに来なかった理由を聞いてみると少し考えてから彼は「体調不良?」と、何故か自分でも曖昧な返事が返ってきました


怪我でもしてたのかと思ったのですがスミヤさんが受けるクエストは大体近場で済むような採取系か小型のモンスター討伐くらい


最初に確認したスミヤさんのステータスからして、そんなことで怪我をするはずはありません




少々疑問は残りましたが…


まぁそれはもう過ぎたこと


私は過去に囚われたりしません



今日も彼の素敵な顔が私を見詰めているのですから

これ以上望むものは無いでしょう



「トルカ…早く報酬を貰いたいんだが」


「あぁ、すみません…見惚れてました」


私はスミヤさんが持ってきた突撃兎の数を数え、彼に銀貨を二枚渡した


「確かに5羽居ますね、お疲れ様です」



スミヤさんの実力ならB級は堅いと思うのですが…

簡単なクエストだけをこなす彼のランクはC級止まり



彼は以前、三人しかいないB級以上の冒険者が全員出払ってる時に発生した緊急クエスト


冬眠に失敗したアルゴベアの討伐を1人でやってのけました



返り血を浴びながら何食わぬ顔でアルゴベアの首を持ってきた時は痺れるほど格好よかったですし、私もより一層惚れ直したもんです



そんな彼に「何故昇級しないのか」と尋ねたところ「死ぬ訳にはいかないし、怪我もあまりしたくない」と返ってきました



……非常に勿体ない



「スミヤさん」


「何だ?お茶ならしないぞ」


「んく…」


報酬を受け取るといつもそそくさと帰ってしまうスミヤさん


そんな彼を私は毎回の如く呼び止めます



しかし彼のガードは鉄壁

この三年で隙を見せたことなど1度もありません


流石はソロ冒険者…一匹狼は伊達じゃない



でも私は1㎜でもいいから彼に歩み寄りたい



「何で毎回すぐ帰っちゃうんですか?少しは愛想よくしとかないと皆さんに嫌われちゃいますよ?」


「……………1ついいか?」


「どうぞ」


スミヤさんは明後日の方を見ながら思案すると少し頬を朱に染めた



「近所付き合いの上手い女は良い嫁だと思うか?」


「?……それは良い奥さんだと思いますけど…スミヤさんと何か関係があるんですか?」


「いや、無い…今のは忘れてくれ」


摩訶不思議な問答でしたが、どうやらスミヤさんが珍しく食事に付き合ってくれるらしいので多少の違和感など全て不問です



私は急いでマスターに「スミヤさんとデートするから今日はもう上がらせてほしい」と言いに行き、寛大なマスターは笑いながら私を見送ってくれました



しかし私は油断した…

まさか千載一遇のチャンスに下着を上下揃えずに履いてきてしまうとは…


出来ることなら一旦家に帰って勝負下着に変えたいところですが…

…スミヤさんを待たせる訳にはいきません


スミヤさんの気が変わればそれこそチャンスを逃す羽目になる



「お待たせしました!さぁ行きましょう!」



大胆にもスミヤさんの手を引く私


又と無いチャンスを物にしようと完全な押せ押せモード



「知ってますか?ベラドンナさんの店のお肉料理は柔らかくて美味しいんですよ!」


「ふふっ」


意外だった


私に手を引かれるスミヤさんは楽しそうに微笑んでいた



いつもクールなスミヤさん


彼の笑顔なんてまだ片手の指で足りるくらいしか見たことがない



「スミヤさん、意外とノリノリですか?」


「あーいや、お前に手を引かれて妹の事を思い出したんだ」


「妹さん居たんですね」


「ああ、一緒に出掛ける時はよくこうして手を引かれたよ」


私にはスミヤさんの手を引く妹さんの情景が容易く想像出来た


こんなに格好いいお兄さんがいたのなら、それはさぞかし自慢気でいて楽しいだろう



「妹さんの話、聞かせてください」


「構わないが、別に楽しい話ではないと思うぞ?」


そんなことはない

少なくともスミヤさんの笑顔を引き出させる話題に無益なものなんて無いし


それに、将来私の妹になるかもしれない人の話は聞いておいて損は無い



その後、私は食事を楽しみながらスミヤさんの思い出話を延々と聞いていた



まず孤児院育ちだということ

大勢の妹さんと弟さんのこと

そしてお母さん代わりだった院長のこと


途中、お酒を飲ませたのが功を奏したのか

普段では考えられないくらい饒舌で

それでいて生き生きと笑っていました



「スミヤさんは家族が大好きなんですね」


スミヤさんが大きなジョッキを空にして、タバコに火を着けたタイミングで総評を述べてみる


「変か?」


「いえ、とても素敵な事だと思います」


「そうか…ありがとう」



酔っているからなのか…

頬杖をつきながら見せる彼の笑顔はとても可愛かった


普段格好いいのに、こんな可愛い笑顔も兼ね備えてるなんて…


反則じゃない?



私を中の母性本能が爆発しそうだ



「…話してる内に家族が恋しくなってきた、今日はもう帰る」


「家族って、この町にも居るんですか?」



孤児院育ちと言っていましたが、少なくともこの町に孤児院はありません


ということは他にも家族が居るということでしょうか…?


以前「彼女はいない」と言っていましたが…もしかして奥さんなら居る、という落とし穴!?



えー…そんなのあんまりですよ…

詐欺ですよ、詐欺



「ああ、娘が家で待っている」



そうですか…奥さんだけじゃなく子供もいたんですね…


そりゃ寄り道せずに帰りたくもなりますよね…



あぁ…これじゃあ完全に付け入る隙が無い



「ご結婚されてたんですね…」


「いや、してないが」



うーん…話が噛み合わない


結婚してないのに娘がいるという矛盾


複雑な理由でもあるのか…それとも



「えーと…娘さんは何処かから引き取ったんですか?」


「いや、娘は正真正銘血の繋がった俺の娘だ」


「失礼ですが…お相手の方は?」



恐る恐る核心に迫ってみるとスミヤさんは少し目を細めてタバコを揉み消す



「今は…遠くに居て会えない」



薄らと滲み出る哀愁にそれ以上の説明は要らなかった


「あの…すみません」


心臓が誰かに掴まれたようにキュッとなりましたが、私は辛うじて謝罪の言葉を捻り出す


でも人生経験の乏しい私にはそれ以上の言葉が出てこない



「別に謝る必要はない、もう三年だ…俺ももう何とも思ってない」



普段何を考えてるのか分からないのに、今回ばかりはスミヤさんが嘘をついている事が手に取るように理解出来た



「何も思ってない人が、そんな悲しそうな顔しませんよ」


「俺は今、悲しそうなのか…?」


「ええ、とても」


「…そうか」



スミヤさんはテーブルの上に銀貨を置くとおもむろに立ち上がる



「悪い…どうやら飲みすぎたみたいだ…帰る」



解ってる

彼の傷を癒せるのは愛娘だけ


きっとこのまま帰って娘さんの顔を見ることがスミヤさんにとっての最善



頭では理解しているのに…


私の手は彼の裾を掴んでいた



「……………なんだ?」


「あの…夜道は危ないので……送ってもらえると…助かります」



今の彼を引き止めてまでお願いする事じゃない


わかってる

わかってるけど…


このまま帰しちゃいけない気がした



「…まだ夕陽も沈み切ってないんだ、1人で帰れるだろ」


…これは苦しい

確かにまだ明るいです…



「……わかった、わかったからそんな顔をするな」


私が返答に困っているとスミヤさんは頭を撫でてくれた



「そんな顔って…どんな顔ですか?」


「とても…悲しそうな顔だ」





私が傷口を開けてしまったのに彼は優しかった


我儘に連れ回されているのに彼はしっかりと私の手を握っていてくれた


その手は少し硬くて

意外と細い


家までの道中、無言だったからこそそんな些細な事に気付いた



そしてあっという間に15分


自宅が見えてきて、私は不意に立ち止まる



「どうした?」


「…ここまでで大丈夫です」


「そうか」



繋いでいた手が離されて、私は最後に今日のお礼を言おうとした


言おうとしたのに…



「私じゃダメですか…?」


出てきたのは全く違う言葉


「私じゃ…スミヤさんの心の穴を埋められませんか…?」


「…………」



陽が沈みかけ、ゆっくりと夜に染まっていくスミヤさんは少し困った顔をしていた



「気持ちは嬉しいが……」



最初から期待はしてない


それでも言わずにはいられなかった


少しでも彼の支えになりたいと、本気で思ったから



さて…私は今からどんな風にフラれてしまうんだろう




「こんな男みたいななりをしてるが俺も女だったから…女のお前にこの隙間は埋められない」





思考停止とは正にこのこと


スミヤさんの言葉を理解するのに1分以上かかってしまった




「えぇ……」





こうして私は静かに失恋した



もはや燃えカスと化した私は遠ざかっていくスミヤさんが見えなくなるまでヒラヒラと手を振ると家の前から回れ右して酒場に向かう




こんなの…


…飲まなきゃやってられないよ




.









次の日

私は当然のように二日酔いで出勤すると、まずはマスターの部屋に飛び込んだ



「マスター!!なんで最初から言ってくれないんですか!?」


「あっはっはっはっ!!やっぱ予想してても面白い反応だな!」



人手不足で若干25歳の若さでマスターになったルアンさん


提出された書類に目を通す彼ならスミヤさんが女だと最初から知っていたはず


これは完全にマスターの悪ふざけだ



「マスターのせいで大恥かきましたよ!!慰謝料ください!!」


「大恥って何よ?まさか告っちゃったの?」


「…そのまさかですよ」



私は笑いながら床で転げ回るマスターのお腹に蹴りを入れる



「おっく…容赦ないな」


「私を道化ピエロにしたマスターに容赦などありませんよ」


「しかしまぁ、トルカちゃんの婚活もこれで振り出しに戻っちゃったねー」


膝を立てながら座り直すマスターは椅子を回転させながら私を煽る


見ていて腹立たしいですが追撃を食らわす程じゃありません



「何を言いますかマスター、私はまだ諦めていませんよ」


「え、どゆこと?」



確かにスミヤさんは女性なのかもしれません


しかし彼女を支えてあげたいと思った気持ちは嘘じゃない



「私は昨日、ヤケ酒をしながら新たな扉を開きました」


「えぇ…まさか」


「私のこの熱い想いは性別の垣根を越えました!!」



今度は椅子ごと笑い転げるマスターの肘関節を笑顔で決めてみます



「うぉ…ごめん、ギブ、ギブ…」


「しかしこうして関節を決めてはいますけどマスターには多少感謝してるんですよ?」


「今日のトルカちゃん面白いけど半分は何言ってるか解らないよ」



不幸中の幸いというか

怪我の功名というか



「真実の愛に気付かせてくれましたからね」



1回のダウンじゃ私はくじけない


第2ラウンド

はたまた延長戦



とにかく…





「私の婚活はまだ始まったばかりだ!!」



「ご愛読ありがとうごさいました、トルカ・アルデニド先生の次回作にご期待ください」



「勝手に終わらせるなっ!!」




私の心を写し出したかのような晴れ渡る空に


関節の外れる音とマスターの悲鳴が木霊した





「トルカー、クエスト受注してくれ」


「はーい、ただいまー♡」



受付の方から大好きな彼女の声がして、私はマスターのしかばねを放り投げる



「思ったより元気そうだな」


「もちろん、笑顔と元気が売りですから」


「ん、良いことだ」



私に対する敷居が少し低くなったその笑顔


ああ、この甘い笑顔を見れば私は何度でも立ち上がれる




そう


恋する乙女はへこたれない




.

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