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白黒ハッキリ着けようか

青く晴れ渡る空

まさに快晴


こんな日はピクニックにでも行きたくなる(行ったことないけど)


しかし俺の顔には昼間から雲がかかっていた



「おうデイジー!今日はお前に似合いのペンダントを買って来たぞ!」


「あらあら、いつもありがとうございますデルドレ様」


性懲りも無く、今日もデルドレがデイジー目当てで家に来ていた



「事ある毎に家に来やがって…そんなにデイジーが可愛いかこのお爺ちゃん系勇者が」


「誰がお爺ちゃんだコラ…」


「じゃあしゅうとめ


額をゴリゴリと擦りつけながら睨み合う俺達をデイジーがなだめる、これがもはや生活に組み込まれた一連の動作



「二人とも何で仲良く出来ないんですの?同じ勇者じゃありませんか」


「水と油」


俺がデルドレとの関係性をたった三文字で表すとデイジーは呆れた顔をしていた



「それは…交わりませんわね」


「デイジー、こんなやつ放っておいて買い物でも行かねーか?何でも好きなもん買ってやるぞ」


「おいコラお爺ちゃん、孫を甘やかすな」


今日のデルドレは少々強引だった


デルドレはデイジーの手を引いて立たせるとそのまま玄関に向かっていく



「なに勝手に決めてんだ、待て」


俺はデイジーの反対の手を掴んで引き止める


「あ、あの…一度言ってみたかった台詞があるので言わせていただいてもよろしいでしょうか…?」


「おう、そういうのは隙あらば言っておけ」


「では……わ、わたくしのために争うのはおよしになって…!」



自分で言っておいて顔を朱に染める聖女様

恥ずかしがるなら言わなきゃいいのに…


恥ずかしくても両手が塞がっているデイジーは手で顔を覆うことは出来ない


そんな彼女を見て俺もデルドレも一瞬だけ和んだ



「お前の孫はテレビとか本の見すぎなんじゃねーか?」


「仕方ないだろ、聖女ってのはそういうのに憧れがちなんだよ…シエスタもそうだった」


元来男を知ることの出来ない聖女様は夢見がちってことですかね…?


それはそれで悲しい運命だ



だけどそれとこれとは話は別


白昼堂々、俺の聖女をデートに誘うデルドレを許しはしない



「デイジーが顔を隠したいみたいだからその手を放せ」


「あ?お前が放せばいいだろ」


聞き分けの無い野郎だ(お互い様)


こういう脳筋野郎には魂に訴えかける作戦が一番

俺は先にデイジーの手を放しデルドレの顔に指を指した



「知ってるか?こういうのは先に手を放した方が相手を想ってるって事になるんだぜ?」


「マジか…そういえばカンクロウから似たような話を聞いた事がある」


カンクロウが誰なのかは知らんが作戦通り

デルドレは少し悔しそうな顔をしてデイジーの手を放した



「この際だから言わせてもらうけどな」


「お前はどの際でもわりかしズバズバ言ってくるだろうが」


馬鹿め、俺がズバズバ物申すのはお前くらいだ



俺はデルドレの額に人差し指を突き付けて言う


「俺の聖女に手を出すな」



デルドレは僅かに驚きすぐに尖った笑みを見せた


「お前こそテレビの見すぎなんじゃないか?」


「俺はあんまりテレビ見ない方だ」


「天然物かよ…末恐ろしいぜ」


俺はマグロか、とツッコもうと思ったが多分伝わらないから止めた



「まさかこんな平日のお昼過ぎに『一生に一度は言われてみたいランキング』第7位の台詞が聞けるなんて…感無量ですわ」


なにそのランキング…

中学生が考えるやつじゃん


…天下の聖女様が夜な夜な考えたと思うとちょっと悲しくなってくるな



「しかしお前も聖女を娶ろうってんなら気をつけろよ?」


別にそんな話をしたつもりはない


だけど確かに俺の言い回しはややこしかった…反省反省



「勘違いすんな、俺はお前が勇者じゃなかったら…聖女の勇者じゃなかったら、こんな事は言い出さなかった」


「俺が鬱陶しいのか、現役?」


「解ってるなら話は早いな」


簡単な話だ

俺は、横暴で粗暴で

どこまでも心配性なこいつが


本当に嫌いだ




「余計なお世話かもしれねーけどよ…俺はデイジーだけじゃなくちゃんとお前にも幸せになってほしいと思ってるぜ?」


デルドレは上着を脱ぎながら言う


「そしてお前はその可能性を秘めてる……そりゃちょっかいもかけたくなるしお節介も焼きたくなるだろうが」


拳を構えるデルドレ

ランスを持たないデルドレ


そんなのは初めてだ



「いつもの相棒は使わないのか?」


「お前こそ俺を勘違いしてるぜ」



俺は飛んでくる左ストレートをギリギリで避わす


掠めた頬は剃刀で切りつけられたように裂け、少量の血が滴った



「今の俺は勇者でも何でもない…他人に夢を託すしかなかった、デルドレ・ドスドレスっていう名のただの男だ」


以前みたいに俺の力を試すためじゃない


特別なものなんて何1つ無く

極々一般的でしょうもない


悔しさと妬み

そして誇りをかけた


男と男の喧嘩に過ぎない



「場所を移す……デイジー、今回は見届けてくれ」


「……かしこまりました」



俺は以前と同じ様にいつかの岩山に二人を連れて瞬間移動した


同じ場所、同じ相手

以前と違うのは連れて来たのがデイジーという事と、時間帯



「ルールは?」


「肉弾戦オンリーで」


俺としては別に構わないんだが…

それだと明らかにデルドレが不利なんじゃないか?



「いいのかそれで?」


「元々はこっち出身だからな、構わねーよ」


デルドレは得意気に拳を突きつける



「スペインで赤い物と言ったらトマト祭りとムレータ(闘牛士が持つ布のこと)、そして俺が通った道の跡だった」


「古臭い武勇伝ひけらかすな、俺がぶっ飛ばしたいのは今この瞬間のお前だけだ」


デルドレの過去になんて1㎜も興味無い

だから意味も無い昔話なんて聞く気もない



「それもそうだな」



口角を下げたデルドレは俺との間合いを詰めると左手1つで一瞬の三連撃を俺の腹筋に叩き込んだ


「カハッ!?」


えぐられるような鋭痛


刃物のような鋭さに大槌のような重さ

まるで腹に杭を打ち込まれたような感覚に内臓が悲鳴を上げた



耐えきれず反射的にうずくまる姿勢を取ると空かさず俺の頭を両手で掴むデルドレ


そして迫り来る膝を馬鹿正直に顔面で受け止めた俺は数m後方に飛んで仰向けに倒れた




まさかたった2つの動作でお天道様を仰ぎ見ることになるとは思わなかった…



そんな情けない姿の俺をデイジーが心配そうに覗き込む



「もう…お止めになった方が」


デイジーは取り出したハンカチで俺の鼻の下を拭う


元々白いハンカチが鼻血で真っ赤になって

俺はそれを見て微笑した



「相手はあのデルドレ、それでも俺を応援してくれるか?」


「…………」


目を反らすデイジーの返答は無い


「聖女様の応援が無いと勝てなさそうなんだけど」


「…そんなもので勝てるのなら苦労はしませんわ」



「そんなものっていうか、それだけが欲しいんだよ」



天高く舞うデルドレが太陽を背に落下してくる


おそらく目眩ましの意味も含まれてるんだろうけど…そんな工夫をしなくても多分今の俺じゃ避けれない

全くもって手を抜かないデルドレにオーバーキル必死だ



「ブガッ…!!」


まるで隕石にでもぶつかったかのような衝撃


デルドレの膝が俺の内臓を滅茶苦茶にして俺は口から噴水みたいに血反吐をブチ撒けた



そのまま馬乗りの体勢になったデルドレは俺の顔を容赦なく殴打し続ける



「ちょっとは…っ……反撃…っ……させて…っ…くれよ……っ…」


こんな願いをデルドレが聞き入れる訳もなく

ただひたすらに連打


連打、連打、連打


親の敵かと思っちまうくらい止まらない



「もうお止めください!死んでしまいますわ…!」



降りやむ拳の雨霰

腫れた瞼を持ち上げてみりゃ、デイジーがデルドレを必死に押さえる姿が映る



「デイジー、お前は1人で戦い過ぎた…だから3つだけ教えてやる」


今にも泣き出しそうなデイジーの腕を容易く振り払うデルドレは手にベットリと付いた俺の血を彼女の頬に擦り付けた



「どんな状況でも目を背けるな」


言いながら、デルドレはまた俺の顔を殴る



「自分の勇者おとこを信用できない女に聖女は務まらない」


もう1発、振り下ろされて返り血がデイジーを染める



「そして最後に、勇者ってのは聖女の悲しむ顔なんて…死んでも見たくない生き物なんだよ」



流石は前任者

よく解ってやがる




「………そういうことだ」



俺は最後に飛んできた拳を額で受け止めるとデルドレの腕を掴んで力一杯引き寄せた



「っ!?」


俺の頭突きが今日初めてデルドレにダメージを与える


その勢いで仰け反ったデルドレから逃れ、立ち上がった俺は折れた歯を二本口から吐き捨てた



「奥歯かよ…ツイてねーな」


歯だけじゃなく身体中ガタガタ

よくもまぁ2分足らずでここまでボロボロにしてくれたもんだ



「もう…貴方が傷付く姿を見たくありません」


俺の袖を摘まみながら、デイジーは声を震わせる


「勇者同士で傷付け合うなんて馬鹿げていますわ…何の意味もありません…!」


俺は俯くデイジーの頭を撫でようと思ったが綺麗なブロンドの髪を汚したくなかったから寸前でやめた



「確かに不毛だし、無駄かもしれねーけどさ…意味なら有る」


それは感情的で、何1つ合理的ではない



「俺が勝ったら、もうあいつの背中を追うな」


今までデルドレはデイジーの道標だったのかもしれない

武器まで揃えて解りやすく憧れている



「自分と誰かを比べるな」


でもデイジーはデルドレの様にはなれない

他の誰にもなれない


デイジーはデイジー・バレンタインにしかなれない



俺は未だに聖女達がどんな功績を残してきたのかよく知らないけど…

そんなもんは俺達には関係無い




「俺だけを見てくれ」



元から俺は先人が敷いたレールを辿る気はない


当たり前だ

俺だって俺にしかなれない


だから俺にしかなれない勇者になればいいし、デイジーにしかなれない聖女になればいい




「負けないで…いえ、死なないでくださいませ」


なんともこころざしが低い…

見事なブロンドをなびかせといて考え方が控え目な日本人みたいだ


俺としてはもっと胸を張ってほしいところ



「そこは「勝て」って言ってもらいたいね」


「……勝って」


デイジーは捻り出したような小さな声で呟くと曇りの無い眼差しで俺を見据えて力強く続ける



「勝って、私だけの勇者になってください!」



俺の聖女はやればできる子だ

でも最初から言えたら尚良しだけどな




「こりゃ目出度めでたいじゃねーの、結婚式にはちゃんと呼んでくれよ?」


鼻をさすりながらデルドレが立ち上がる


わざわざ声なんて掛けずに不意打ちでもすりゃいいところを…



「その予定は無いんでお構い無く…というか仮に有ったとしてもお前は呼びたくない」


「カーッ!連れないねぇ」


「私は呼びたいですわ!是非参加願います!」


「クアッ!聖女が優し過ぎて直視出来ねーよ…テメーもちっとは見習え!!」


いやいや…こんなボコボコにされてんだぞ

恨み辛みは言えど優しくしてやる義理はないだろ…


デルドレに優しく出来たらその瞬間慈悲深さ聖女超えだっつーの


今は精々…



「俺に勝ったらこころよく呼んでやるよ」


このくらいが精一杯の俺の優しさだな



「マジか…これは本格的に負けられねーな!」


獲物を見つけたチーターの様に嬉しそうな顔しやがって…


…こんな戯言で一層やる気出すなよ



「しかしよくそんな状況で強がりが言えんな、流石は腐っても勇者」


「勝手に人のこと腐らせんなよ…まだまだ元気モリモリ新鮮フレッシュだ馬鹿野郎」


「ボロ雑巾がよく言うぜ…このままケリ着けてやるよ!!」



俺はもうデルドレの飛んでくる拳を避けようともしなかった




「っ!?」


正面から顔面で受け止めた拳を押し返しながらデルドレの鳩一みぞおちに渾身の一撃を叩き込む


「カハッ…!!」


憎たらしい顔が苦痛に歪んだがデルドレは追撃を許さない


折れる身体の勢いを利用してそのまま逆立ちをすると俺のこめかみにデルドレの踵がめり込む



軽い脳震盪でぐにゃぐにゃと揺れる視線の中で俺はデルドレの足をしっかりと掴んで全力で振り回した



振り回して、叩き付ける

行動は単純だがスキル無しのパフォーマンスとしてはこれ以上無い


デルドレを叩き付けた岩場は大きくくぼんで無数の亀裂を刻んだ



ステータス差で言えば若干俺の方が優勢だろう

最初から上手く立ち回れれば俺の勝率は高いはずだ


しかしデルドレには豊富な経験値がある


それこそステータス差なんて簡単に覆せるほどの経験値が




デルドレは衝突直前に地面を殴って衝撃を和らげていた


それでもダメージは通せたみたいだが見た目ほど派手なダメージは無い



「カーッ!腕がお釈迦になっちまいそうだ!」


本当にお釈迦になりそうなら大声でそんなこと言わんだろ…



まだまだ余裕たっぷりなデルドレは俺の腕を蹴り払うとバク転を決めながら体勢を整えた



「無駄に格好いいことすんなよ」


「派手な動きで錯乱させんのも細かい戦法の内だからな」


へいへい、勉強になりやすね


「嘘だ、本当はデイジーの前で格好つけたいだけだ」


「暴露早いなおい…さっさと格好つかなくさせてやるよ」


音速で本音を吐露するデルドレ

それもまた潔し



「トロトロやってても3㎜くらい勝率が減る、次で決めるからな」


「たったの3㎜かよ、安く見られたもんだ…いいぜ、かかってこいよ!」



俺もデルドレも手ぶらで歩きながら距離を詰める



次で最後



手を伸ばせば届く距離

互いの息遣いまでハッキリと聞き取れる




不気味な程の静けさを先に破ったのはデルドレの方だった



全身全霊、大振りの左ストレートに俺も右ストレートで迎え撃つ




決着は綺麗なクロスカウンター…


いや、そんな生温い決着は俺達には無い




俺の拳はデルドレの拳を粉砕しながら頬を捉えてそのまま硬い岩場に沈めた



そんな状態でも最後の最後までデルドレはおぞましい笑顔を浮かべていて、それは地面の一部に成り果てて気絶しても消える事はなかった



俺は皮も肉も捲れ、骨の剥き出しになった右手を見ながら左手でポーションを取り出す


そしてポーションを一気に飲み干した俺は地面にめり込んでいるデルドレに完全回復を唱えると引きずり出して肩に担いだ




「勝ちましたよ、俺の聖女様」


見ればわかることをわざわざデイジーに報告する


「ちゃんと…見てましたわ」


既に泣いているデイジーは勝者に熱い報酬をくれた


美人の熱烈な抱擁

出来ればその胸当てを外して頂けると更に有難いが文句は言わない



「硬いハグをありがとよ、これだけで良い仕事したと思えるわ」


泣いているデイジーを和ませるつもりで冗談を交えたものの、彼女は笑ってはくれなかった


ただ、俺を抱き締める力が少しだけが強くなる



「貴方にとってこれも仕事ですの…?」


「ああ、めちゃくちゃ大事な仕事だ、誰にも譲れない」



「それはそれで…少しだけ悲しいですわ」




肩越しにデイジーがどんな顔をしているのか俺には見えない



何処までも晴れ渡る空とは裏腹にモヤモヤと晴れない気持ちに曇がかかる




俺は空いた片手で空を掴みながら

デイジーの悲しむ理由に気付かないフリをした





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