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着替え終わるまで  作者: 似見 正樹
8/69

8、八田の苦悩

登場人物

剣道部二年

○村瀬 翔也

本作の語り手。

○八田 幸太郎

喜怒哀楽、表出人間。


○メンが痛い女の子

中学生。剣道教室に通っている。


関連エピソード

第5話


「なんなの。皆んなの頭割るまでは通うとか、そんな自分ルールあるの?」

 八田幸太郎は虚な目で、床の木目を見ながら言った。

 我が剣道部に、街の剣道教室に通う女子中学生が来るようになって数日が経った。彼女のメンがとんでもなく痛くて、八田は初日から音を上げていたが、それは今でも続いていた。

「なんかもう、石野のメンが優しく思えてきたよ。はあ、あの子が来なくなるのと、俺の頭が割られるのと、どっちが先なんだろう」

 完全にブルーだ。

「まあほら、あの子も来ると言った手前、簡単に辞められないだろう。察してやれよ。それに、石野のメンが効かなくなったってことは、頭が強くなった証拠だろ」

 励ましたつもりだったが、逆効果だった。

「俺は別に頭を固くしたかったわけじゃないの! 頭は賢くするのが正解なんだよ! もー、本当にやだ! なんなの、なんなの!!」

 八田は「なんなのー!」と叫びながら、床を転がり回った。

「お前がなんなんだよ」

 その声は本人には届かなかった。

 転がっている八田を見ながら、その女子中学生のことを思い返してみた。彼女は初日こそすぐに帰ったが、最近では女子部員と仲良さそうに話していて、交友が深くなった様子が見られる。今日も部活が終わって、女子たちとどこかに行ってしまった。だからこうやって、八田が文句を言い始めたわけだが。まあ普通に考えたら、馴染んできたので来なくなる理由はない。これからも通うはずだ。八田には気の毒で言えないが。

「だってさあ」

 少し離れたところで動きを止め、寝転がったまま八田は話し始めた。

「こういうのって犠牲者が出ないと分からないんだよ。一番頭が弱いのは俺なわけじゃん。てことは、俺が犠牲になるシステムなんだよ。もう決まってるんだよ。あー、泣きそう」

 とんでもなく病んでいる。

「アフロのカツラ買えよ」

 そんな気休めを言うと、彼は黙ってしまった。

「なあ、八田ー。そんな落ち込むなよ。人間の頭なんて、そんな簡単に割れないからさ」

 近づいたら、彼はぷいと反対側を向いてしまった。

「ほら、起きろよ。そんな落ち込んでもどうにもならないだろ」

「分かってるよ」

 小さな声が聞こえた。

「まさか弱めにメン打ってくれなんて言えないし。あの子も皆んなと仲良くやってるから、もう来ないでなんて言えないし。我慢するしかないのは分かってるよ。でもさ、ちょっと愚痴りたくなったんだよ」

 八田も内心では分かっているようだ。

「分かった分かった。俺で良ければいつでも聞くよ」

 俺がそう言うと、八田は勢いよく立ち上がり、そして抱き着いてきた。

「翔也は良い奴だなー! 最高の友達だよー!」

「や、止めろ! 誰かに見られたら……あ」

 着替え終わって更衣室から出てきた山下が、冷めた目でこちらを見ていた。

「仲いいじゃないか」

 それだけ言うと、山下はスマホを触り始めた。

「いや、違う。待って!」

 抱き着く八田を振り払って、慌てて山下に詰め寄った。

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