表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
着替え終わるまで  作者: 似見 正樹
5/69

5、メンが痛い女の子

登場人物

剣道部二年

○村瀬 翔也

本作の語り手。

○八田 幸太郎

喜怒哀楽、表出人間。


○メンが痛い女の子

中学生。剣道教室に通っている。


「なあ! なあなあなあ、翔也! あの女の子いつまで来るのかな! あの子の面受けた? マジで頭割れるかと思ったんだけど!!」

 背後から俺を呼ぶ声がきこえる。このやたらと大きな声は、八田幸太郎だろう。振り返ろうとすると、それよりも早く、八田は俺の背中に飛びついてきた。

「もーもーもー、嫌だ!! マジで痛かった。頭割れるかと思った。嫌だぁぁぁぁあ!」

 俺の肩を揺さぶりながら、彼はそんなことを言った。

 八田の言う女の子というのは、近所の剣道教室に通っている中学生で、顧問の先生の人脈によって高校まで練習に来ている。やたらと痛いメンを打ってくるのが特徴的だ。

「止めろよ、離れろよ」

 強引に引き離すと、八田は悲しそうな顔をして、ちょこんと隣に座った。

「本当に痛かったんだよ。後二発食らってたら、頭割れてたと思う。危ないところだった」

「良かった。殺人現場にならなくて」

「茶化すなよ!」

 八田は口を尖らせる。

「ごめんごめん。まあでも、確かに痛かったな」

 そう言うと、八田の表情がぱあっと明るくなった。

「だろ! そうだろ! エグるような痛さなんだよ! 俺、石野よりメン痛い奴初めて見たよ。痛すぎて走馬灯見たよ」

「それは嘘だろ」

「本当だって!」

「この前、シーブリーズが目に入って、走馬灯がっ! て言ってただろ」

「そうだよ。俺の走馬灯は、頻繁に流れてくるんだよ」

「そんなにゆるい走馬灯は聞いたことない」

「ゆるい言うな! そもそも、ゆるい走馬灯ってなんだよ! 悪口が独特過ぎるんだよ!」

「はいはい、ごめんごめん。それで何だっけ?」

「だから、あの子いつまで来るのって話!」

「知らないよ。本人に聞けよ」

 ちなみに、本人は既に帰宅している。まあ本人がいたら、こんな話は出来ないのだが。

「聞けないよ。人見知りだもん。あー、もう本当に嫌だ。新人戦があるから、ただでさえ練習が厳しくなってるのにさあ。このままじゃあ頭破壊されちゃうよ」

 八田は涙ながらに頭を押さえる。

 そして、ポツリと呟いた。

「何で皆んなは、耐えれるんだろう」

「うーん、まあ痛いんだけど、そんな騒ぐほどでもないかな」

「なんだよ、俺の頭が弱いのか。アフロのカツラでも買ってこようかな」

「緩衝材?」

「そうそう」

 思わず笑ってしまった。

「な、何、どうした」

 八田は頬を紅くした。

「面白い発想だなと思って。あ、ほら、帰るぞ」

 全員の着替えが終わったので、俺は先頭に立って武道場を出た。

「あ、待って。なあ、いつまで来るのか聞いてくれよー!」

 八田は道中で別れるまで、ずっとこの話をしていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ