罰と処刑
とうとう処刑が実行された。
処刑の見届け人が処刑の理由、処刑方法を無学な者でもわかるよう、遠くの者にも聞こえるよう、大きな声で宣言をした。
魔法使いを先頭に、申し訳程度に木の棒をもち布一枚の男たちが魔王へ向かって進んでいく。
魔物は見えるのに襲って来ない。
男たちががエサであることを理解しているのだ。
そのために見届け人が、わざわざ魔法で声を大きくしてまで処刑方法を宣言したのだ。下手につついてとりこぼしてはならないと、魔王に伝わるように。
魔王の群れは統率されている。そして魔王や強力な個体は知恵が働く。
その事実を裏付けるように、魔物たちはエサたちをつまみ食いしたりはしなかった。
エサである男たちが破れかぶれに襲いかかっても、殺さずに追い立て、どんどんと奥へ誘導していく。
まるで人が魔物たちにしたことをやり返しているようだった。
奥に進むにつれ、人のものではない建築物が確認されてくる。
木製のトーテムから、木や獣の皮で覆われた家らしきもの、魔法で作ったのだろう石の壁に描かれた何かの絵、家畜と思しきシカに、同じく繋がれた人。
巨人が狼の魔物からイノシシを受け取り、さばいている姿もあった。
さばかれた肉はすぐに別の魔物がひきとり、奥へと持っていく。
その先に広場があり、魔王とその配下の魔物が集まっていた。
脇には先ほど見た肉が積まれており、何匹かの魔物は肉を食みながらエサたる男たちを取り囲んでいた。
魔法使いは魔王の知恵に感心した。
先だっての魔王討伐では魔王は洞窟の中にいたらしい。
洞窟内で奇襲を受け、精鋭たち一人、また一人と削られたと報告されている。
今回のこの場所は人側の物見台からも確認できる距離だ。
そして後方の国々が騎馬で攻めてきても、魔物の足の速さならば簡単に逃げられるが、人の足では逃げられないであろう距離だ。
今回の人側の意図を組み、魔法使いたちを生きたまま引き入れられるギリギリだろう。
これ以上奥では、魔法使いと王族の死を確実にするため、処刑として各国の騎士たちが来るかもしれない。
もしかしたら、各国の処刑人たちは我々が魔王に与するのではとやきもきしているのではないかと考えを巡らし、それができそうなくらいに魔王の知恵が高いと評価している自分に驚いた。
とうとう魔王の目の前まで来た。魔王は一つ目の魔物で、笑っているように見えた。
エサである男たちは追いたてられ焦燥仕切っている。
はじめは隊列も組めていたが、今ではほとんどがただの人の集団だ。
隊長格がまとめようとしているが、効果はでていなかった。
恐怖から怒号が飛び、耐えきれなかった者が泣きながら叫び魔物に飛びかかるも、軽くあしらわれて返される。
そのうち、部下や魔物にあしらわれた者を痛めつける者が現れる。
もっと上手くやれ、じゃあお前がやれと今度は殴った者が魔物へ投げられる。
魔物は軽くあしらうと、またエサを元へ返し、逃げないよう追い立てる。
人が殺した死体は手を出してもいいのか、植物型の魔物が蔦で引きずりだしてどこかへ持っていってしまった。
魔物たちの恐ろしげな歓声が上がる。
知りたくもないが、そのまま食べられたか、先ほどのような肉屋へ持って行かれたのだろう。
完全に魔王たちの余興だった。
人を広場へ追い立て、自滅や仲間割れするまでおちょくり、死んだら取り出す。
そういう見世物なのだろう。
魔王は――魔物は――やられたことをやり返して楽しんでいるのだろうか?
年若い王子にはそう思えた。
王子は折った棒を短剣のように魔王へ向けていた。
魔王を倒せば皆許してくれる、そう王(父)や兄たちから言われ、必死になっているのだ。その家族は今日までに死んでしまったが、せめて自分を守ってくれた家族の願いを叶えるのだと必死だった。
忠誠心の厚い近衛騎士団だった者たちによって身を守られ、魔王に一矢報いるどころか、自国の民にも殺されそうな状況だったが、それしかないと思っていた。
魔法使いは年若い王子を勇者にすることにしていた。
魔法使いは王族から恨まれていたが、年若い王子は魔法使いとは面識がなかった。
年若い王子を守っていた王も他の王子たちが死んでしまったことも都合が良かった。
もう彼らは自分を信じてはくれないだろうから。