魔王誕生
世界は魔王の脅威にさらされていた。
魔王とは魔物を増やし、統率する存在である。
魔物には動植物と同じ姿をするもの、それらの死体が動くアンデッド、さらには非生命であるゴーレムなどが存在する。その全てが魔石という魔力が固まった石を持っており、魔石の有無で普通の獣たちと区別されるのである。
通常魔物は自然発生し、単独で行動するが、ときおり強力な個体が発生すると、周囲の魔物を種族関係なく含む群れを作り、異種族の魔物が連携して人間や野生の獣などを襲うようになる。そういった群れのボス同士が縄張りを争い、勝った方が敗けた方を群れごと吸収して大きくなっていく。その群れの最上位が『魔王』と呼ばれるのである。
不思議なことにどんなに大きな群れであっても、ボスを倒すとその群れの魔物は一目散に方々へと散ってしまい、その先で死に絶えてしまう。
そしてまた魔物が自然発生して少しずつ増えていくのである。
人々は魔物の群れが小さなうちにボスを倒し、生活圏を広げ、国を作ってきた。
そんなある時、とある高名な魔法使いがこう考えた。
「ボスは縄張り争いをすれば片方は倒す必要がなくなる。ならばボスたちを追いたて、一つの縄張りに押し込むことで魔物同士を争わせよう。そして最後に残った魔王を倒せば一網打尽ではないか」
その考えに人々は賛同した。
魔物に家畜や子どもを攫われる村人は魔物に怯える生活がなくなると喜び、
武勇を誇り鍛練に励む戦士たちは平和のための戦場にむけ一層腕を磨き、
国の安寧と発展を望む各国の王たちは悠久に続く人の世界を夢見た。
そうしてその魔法使いの考えは実行に移された。
魔王誕生の地は発案した国が提供した。大陸の中心にある盆地である。
大陸中の国々から兵士や傭兵により魔物が追い立てられ、盆地へと集められる。
魔物たちが逃げることの無いよう、周囲には各国の騎士や魔法使いといった戦士たちが包囲網を張った。
魔物たちは人々の目論見どおりに争い、『魔王』が誕生した。
人々は魔物たちが群れで争うことがなくなったことを確認し、魔王討伐を行い、
―――失敗した。