ゲーム
俺、成瀬龍之介はフリーターをしている。大学こそ出たものの、同期が就職やら進学やらと忙しい中、それをのんびりと静観していたらこうなっていた。そして就職に失敗してから2年経って、ついに家を追い出されてしまった。今はこうして安アパートで暮らす日々を送っているというわけだ……一緒について来た、彩と共に。
「また私が一位ですね。全く、兄さんは駄目駄目です」
そう言って彩は、そのAサイズもないであろう胸を誇らしげに張る。可愛らしい光景だが、そんな光景が俺の加虐心を煽る。兄は、時には妹をいじりたくなるものなのだ。
「でも彩、マ◯カー以外のゲームはからっきしじゃん」
「そ、それは……」
彩は指と指を絡めて、上を向いて狼狽えている。
感情が行動に出やすいのも、妹のかわいいところだ。
「確か彩が特に苦手だったのは……あった、これこれ」
そう言って俺は、引き出しからス◯ブ◯を取り出した。いわゆる格闘ゲームだ。自キャラを選択し、pvp形式で相手を倒したら勝ちというルールである。
「私はちょっと用事を思い出したのでコンビニにでも」
「逃げるのか、彩」
負けず嫌いな彩は、この言葉にとても弱い。現に今も、こちらを睨みつけている。
怒る彩も、いつもと変わらずかわいいのだが。
「……誰が逃げると言いましたか?コンビニでカル◯スを買って、喝を入れてくるだけですよ!」
力強く扉を閉めて、出ていってしまった。少しからかいすぎてしまったかもしれない、心の中で反省する。
少しして、カル◯スを片手に彩が帰ってきた。我慢しきれず、帰る途中で少し飲んでいるのが、とてもかわいらしく思えてしまう。
「さあ兄さん、我らの長きに渡りし戦に決着をつけましょう!」
彩はそう言ってゲーム機を持って、両手で天へと掲げる。
俺の影響でアニメを見ている彩は、好むジャンルまでも俺と被ってしまったらしい。そう、厨二ジャンルを同じように好んでしまったらしく、その影響を多大に受けている。日々の言動、特にゲームをする時に厨二が垣間見えることがある。カル◯スを美味しそうに飲みながらそんな事を口走る妹は、それでも変わらず可愛いのだが。
「これが俺達の終着点と言うならば、俺はそれを甘んじて受け入れよう」
意味もなく立ち上がって、彩を指差してそう言う。
俺も厨二ジャンルが好きなので、何だかんだで乗ってしまう。まあ、こうして家の中で楽しむ分には問題はないだろう。
「では行きますよ。来たれ!私の下僕よ!」
そう言って彩は、大袈裟な動作でAボタンを押し、キャラの選択を終えた。いつもと同じ、ピンク色の丸い生物、カー◯ーだ。
「甘い!甘いぞ彩よ!来たれ、我が眷属よ!」
彩に倣い大げさな動作でボタンを押し、キャラの選択を終える。選んだのはむ◯び◯で、眷属とは縁も所縁もないのだが、そこはまあ雰囲気というものだ。
二人で睨み合って、構える。特に理由はないが、強いて言うならその方が雰囲気が出るからだ。
「「開戦!!!」」
午後6時の成瀬家に、開戦の合図を告げる声が上がる。龍之介と彩、運命の女神はどちらに微笑むのだろうか。それは神のみぞ知る、いや、本当はとうの昔に定められていて……
「これで150勝0敗か」
肘と膝をついている彩の肩をぽんと叩き、そう言う。
「でも、マ◯カーの分も含めればまだ!」
「無駄だ。マ◯カーでの彩の戦績は158勝36敗。足し算しても0勝28敗になる。お前は負けたんだ、彩」
そう言って勿体ぶった動作でゲーム機を閉じる。
「そんな……私の生きてきた16年間は一体……?」
絶望に顔を歪ませている彩に、俺は追い打ちを掛けるようにして言う。
「お前の過ち、それは俺に挑んだことただ一つだ。さらばだ、好敵手よ」
そう言って手をピストルの形に曲げて、彩に打つ動作をする。
「ぐぁぁぁぁ」
彩は迫真の演技をして床に倒れる。
だが次の瞬間、何事もなかったかのように起き上がる。
「そんな馬鹿な……お前は一体……?」
動揺する俺を見ながら、彩は手を腰につけて、尊大な口調で言う。
「私は吸血鬼の真祖、その血を引く唯一の者。私を倒すには後2億発は銃弾が必要……って、もうこんな時間。そろそろ特売が始まる頃ですよ、兄さん」
「本当だ。大分熱中してたんだな、俺ら」
こうしてどちらかが先に賢者モードに戻って、俺達は元の日常に戻る。