プロローグ
他の作品と並行して書くので、不定期更新になると思います
「おおきくなったら、おにいちゃんのおよめさんになる」
「ああ、大きくなったらな」
かわいい妹だ。身内贔屓と言われればそれまでだが、恐らく世界一、いや宇宙一かわいい。思わず抱きしめたくなる衝動に駆られる。
「彩は今日で6歳か。もう五年もすれば、彩も好きな男の子が出来ると思うぞ」
「おにいちゃんがすき!」
「そ、そうか」
俺と彩の親は海外勤務をしている。彩が俺に懐くのは、ある意味当然なのかもしれない。それにまだ6歳だし、恋愛感情と兄妹愛が区別できていないのだろう。
こんな妹も、きっと将来はイケメンの彼氏なんかと挨拶に来たりして、俺から離れていくのだろう。
自ら口に出しておいて、猛烈に気分が悪くなってきた……これ以上考えるのはやめよう。
それから夕食を取って、今は二人で彩の部屋にいる。
「けっこんして!」
「はいはい、いつもの結婚ごっこな」
「ちがうもん! ほんもののけっこんしきだもん!」
「まだ結婚できる歳じゃないぞ」
「……できるもん」
そう言ってグスってしまった。妹の涙に弱くない兄など、この世にいるはずがない。
「分かった分かった。結婚しよう、な?」
「……うん」
.
ーーー
「お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる」
「大きくなったらな」
「もう十分大きくなったと思うけど……」
「まだ11歳だろ。小学五年生が何を言う」
「学校で聞いたけど、昔の人は11歳でも結婚する例があったって!」
「今は今、昔は昔。というかそんな話、誰が言ってたんだよ」
「お母さんみたいなことを言うね……。国語の竹下先生だよ」
うーん、これは。後で苦情の一本でも入れておこう。
夕食を取って、彩に引っ張られるようにして部屋に入る。
「彩、もう遅いしそろそろ風呂に入って寝よう」
「誕生日なのにこんな遅く帰ってきたんだよ!?せめて一緒にお風呂に入って、そして同じベッドで寝てよ!」
「お風呂は流石にマズくないか?同じベッドで寝るのもそうだ。俺みたいなおっさんとは、そろそろ別々に寝るべきだと……」
「19歳はまだお兄さんだよ。とにかく、これは誕生日命令!」
「何だそれ……仕方ないな、今日だけだぞ?」
「うん!」
妹に甘えられて、NOと言える兄はいない。全てはこの満面の笑顔を見るために。
そしてこんな、歳を取るにつれて魅力的になっていく彩も、いつかはイケメンの手に……
つらくなることを考えることはやめよう。
ーーー
「結婚しましょう、兄さん!」
「……」
「兄さん?」
「俺、実は彼女が出来たんだわ」
「……」
それを言った途端、彩の目から完全にハイライトが消えた。
「ま、まあ、嘘なんだけど」
俺は慌てて修正した。
「良かったです、手に持っていたスマホを粉砕するところでした」
「女の子がはしたない。こんなにかわいいのに、そんな様子じゃ嫁の貰い手がいないぞ」
「いなくて結構です。私は兄さんに貰われるので」
「お前なぁ……」
16歳の誕生日。ついに、彩は兄離れすることがなかった。