フランス南東部リヨン郊外
夜遅くなって事態は急変した。ドラゴンの群がリオン市内に侵入したのである。ここにいたって、行方不明者の捜索は絶望的になった。そのため、ホセ・サンティアゴ一等兵とジェームズ・ラフィル伍長の捜索は完全に中止せざるをえなかった。ドミニク・メイスン曹長が依然として意識不明のまま、デリンジャー分遣隊は朝を待ってリオンを離れることとした。
「私のことを怨んでいる?」
坂井美春伍長がスーザン・ガルシア伍長に尋ねた。坂井伍長は二人の死について、なにか後ろめたいものがあった。
「とんでもないわ。美春の意見でリヨンを出たから、私たちはドラゴンと戦わずに済んだのよ。あなたを怨んではないわ。本当よ」
坂井伍長はガルシア伍長が本心から言っていると確信して安心した。そんな坂井伍長を見かねてか、ガルシア伍長は少し笑みを浮かべながら話題をかえようとした。仲間同士が信じられなくなったら、この世界では終わりなのだ。
「でも、本当は市内に残りたいと考えていたのでしょう? 確かめたいことがあったのではないかしら? ドラゴンの秘密を……」ガルシア伍長は続けた。「何かがリヨンにいた。それは、おそらくドラゴンとなにか非常に密接に関係するものだったはずよ。だから今、ドラゴンはあんなに集まってきたのでしょう? 違っている?」
「どうして、それを?」
坂井伍長は驚きを隠そうともしなかった。
「あなたといっしょに〈デリンジャー〉に乗り込んで、けっこう長いのよ。わからないわけがないわ。秘かにドラゴンに関心を持っていることをね。だから、あなたはリヨンにドラゴンが集まってくるかもしれないと気が付いていたのかもしれない。そうでなければ、あなたがリヨンを出ようなんて言うわけがないわ。あなたって、優しすぎるのですもの。仲間を見捨てることになることを言えるような人ではないわ」
「なんだか、少し買いかぶられているみたい」
坂井伍長は照れくさそうに顔を赤らめる。
「とにかく、メイスン曹長が回復するのを待ちましょう。今、彼は〈ライオット〉で治療中なのでしょう?」
「ええ」
その後、ガルシア伍長は休憩するために部屋に戻っていった。