表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンリング  作者: 坂井美春
第壱章 ルテチア
4/154

フランス北部ルテチア南東セーヌ川河畔ムラン郊外

「ドラゴン・ガルグイユが動いた。繰り返す、ヴァンセンヌの森のドラゴン・ガルグイユが動いた。前線指揮所が燃えている。ローランド地対空ミサイル部隊が反撃を開始。発射、続けて発射。命中するも、目標は健在。反撃第二段階を開始する」短い間。「五十メートル後退した。反撃第三段階。ミストラル対空ミサイル発射。さらに、ミストラル発射。失敗、目標は接近中。対空機関砲射撃開始」また間があり、ついに静かな口調で、「救援は不要。後を頼む」後はスピーカーから雑音が流れるだけだった。

「まだ、続いている。やはり撃退できないのだ」

 レイモンド・コリンズ軍曹が叫んだ。坂井美春伍長は聞くに耐えられないのでスピーカーのスイッチを切った。どのチャンネルも似たようなもので、聞いているだけでも気が滅入ってしまうものばかりだった。

「ルテチアに戻りましょう」

 副操縦手のスーザン・ガルシア伍長が言った。彼女はルテチアにフィアンセがいるのだ。

「それは、だめだ」

 指揮官であるローレンス・カーン准尉は強い口調で言い張った。

「私たちが戻れば、ドラゴンを撃退できるかもしれないわ。今まさに、ルテチアは苦戦を強いられているのよ。撃退してから、援軍の要請でもなんでも命令に従うわ」

 それは、そこに居合わせたすべての人の心を揺さぶった。誰もが心の中で考えていたことをズバリ言われたのだ。

「確かに、それも一つの案ではあるが……」と、カーン准尉。歯切れが悪い。「それも考えないわけでもないが……。ないのは、火砲だ。おそらく、ブレンヌス戦車の搭乗員たちはここへ来ることはあるまい。我々も、次は無事に脱出できるとは限らないのだ」

「そうよ。体当たりした無人偵察機スペルウェールのオペレータは、私たちに願いを託して残り少ない機体を犠牲にしたのよ。今戻るのは簡単だけれども、それではルテチアに助けは永久に来ない。振り出しに戻るだけ。変わるのは、仲間の死体の数だけなのよ」

 坂井伍長は悲しそうに瞳をうるませて、耐え切れずに顔を伏せた。

「伍長の言う通り、弱気は禁物だ。我々が、今、しなければならないこと、すべきこと、することができること、と選択肢は数多くあるが、将来に道をつなげることができることはただ一つだけだ。すなわち、必ず援軍を連れて戻ってくることだ。しかも、少しでも早いほうがより良いという、かなり厄介なものだ。そのためにはここにいる諸君全員の力が必要なのだ。わかったなら、各員配置に戻れ。出発する」

 しばらくは、誰一人として動こうとはしなかった。だが、まず坂井伍長が動き、一人一人従い始め、最後には全員が動いていた。

 デリンジャー分遣隊の出発を見送るのは、戦闘による火災で赤く染まったルテチアの空だけだった。それは、彼らの行く手をまるで象徴するかのようにも思われた。

 坂井伍長は、最後にルテチアに向かって武運を祈る連絡を送信することは忘れなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ