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007・花火

「おい、どうしたんだよ」

マドカは倒れたまま、動かない。

彼女を抱き起そうとした手から鉛のように、重たいイメージが走った。

突然頭に入り込むイメージが出来事の全てを理解させた。


マドカは俺を二年前の陸上部大会で見かけて知っていたらしい。

そのままなんとなく俺のことを気になっていたままお互い接点もなく時間が経ち、マドカが思いを告げたいと考えるようになったのは半年前から両親が別居を始めた頃からだった。

孤独を埋めるように想い人を探し求めたのは、初めはゲームのような気分だったらしい。付き人の黒服たちに命じることで、俺の居場所、そしてケガで引退をしたことはすぐにわかった。

そこへあの死神が現れた。


「私の名前はルナ。人の死を司る死神だ。

 マドカ。お前は六カ月後のちょうど一時に、死ぬ。

 お前が死ぬ運命を避ける方法があるぞ。武田晴彦の最も大事なものを奪え」


ルナの指定した人物にとって、大事なものが何なのかは、誰の目にも一目瞭然だった。晴彦の隣にはいつも木刀で武装した黒髪の少女がついていた。

死の宣告と共にルナはマドカに洗脳の魔術を与えた。その術でマドカは妖子を使って俺を襲えば妖子を嫌いなると考え、襲撃をさせていた。

しかし、俺はいつまでもそうはならなかった。そして、遠くから眺めるうちにマドカの想いはより強いものへと募っていく。

さっきマドカがしたキスは、俺にマドカを好きにさせる魔術に違いなかった。苦肉の策としての、最後の悪あがきだった。しかし魔術が利かないまま、深夜一時を迎えた。俺とマドカが共に死の宣告を受けた時刻だ。

マドカの最も大事なものとは、晴彦と共に過ごす未来だったのだ。俺と妖子がこのまま結ばれてしまうのは、それが永久に叶わなくなったということを意味していた。


「おい、死神。出てこい。馬鹿野郎」

俺はめちゃくちゃに叫んでいた。広々としていてホテルのスウィートルームのような赤松邸を、生活感のない空間を、あちこち歩きまわってルナの姿を探し回った。

「お前、ふざけるなよ。こんなのってありかよ」

闇の中で叫んでも叫んでも、死神ルナの不気味な影は現れることはなかった。


-エピローグ-


十分も待たずに警察が駆け付けた。

ガラスの破損と俺の大声で近隣住民からの通報を受けたのだろう。

亡くなっていたマドカのそばで暴れていた俺は、住居不法侵入罪で逮捕された。

俺は、警察の取り調べにも、弁護士との接見にも、一切何も答えず完全黙秘をつらぬいた。

黙秘する必要があったと言うわけではない。話す気になれなかったというのが本音だ。第一、死神が現れたなどと話しても誰も信じてもらえないだろう。

事件から二週間ほど後に処分保留により釈放された。

監獄行きは回避したものの、テスト期間中の不祥事につき全教科0点という何とも不当な処分を受けてしまい、見事留年が決まった俺は、地裁から届いた「不起訴処分通知書」という紙を燃やしながら近所の河川敷かせんじきで焼きイモを焼いた。

「さ、寒い…」

いざやってみると意外に快適とは言えないもので、俺は一斗缶いっとかんの温もりだけを頼りにして、ただガタガタと震えていた。すると、

「チェストー」

と、後ろから声がして、暖かい缶コーヒーを頬に当てられた。

妖子だった。俺は振り返って返事をした。

「イモ、持ってきたか?」

「持ってきてないよ。それより、花火をやりたいと思って」

学校鞄から季節外れの花火セットを取り出して彼女は笑った。


いつかまたあの死神が現れて、俺か妖子の寿命を宣告していく。たとえ死神など来なくても、別れの日は必然としてやってくる。それが何十年先の遠い未来であるのかもしれないが、すぐ先のことという可能性だってある。

残り時間の中でできることは少ないのかもしれない。その前に俺は二人でできることを何でもやりたいとそう思った。


なんとか最後まで書けました!応援ありがとうございました。

現在執筆計画中の次回作は、

「高校生にもなって脳科学者のお兄ちゃんとお風呂に入っています(仮)」です。

お楽しみに。

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