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006・夢から醒めて

「お願いします。あなたの大事なものを俺に下さい」

今までに人にこんなに頭を下げて真剣に頼みごとをしたことはなかった。

「わかりました。武田晴彦さん」

マドカは俺の名前を知っていた。

「ルナから聞いたんですか?」

マドカはこくりとうなづく。そして俺の正面に立ち、目をまっすぐに見つめた。

「交換条件です。当然ですよね。女の子から一番大事なものをもらおうというんですから」

暗がりの静けさの中でマドカがクスっと笑ったのがわかった。

「えっと、ありがとう。条件って何ですか。できればこちらのお願いを優先してください。もうほとんど時間がないんです」

「一緒に来ていた女性は、武田さん、あなたの大事な人なんですね」

「妖子のことですか」

「武田さんなら信じてくれると思ってお話します。実は私は魔術師なんです。魔力を高める術式に協力をしてくれるのが条件です。約束の代償はすぐにお渡しできます。大丈夫、時間はそれほどかかりません。」

マドカは反論の余地がないほど早口で言葉を続けた。死神とは違い、爽やかな笑顔に見えた。

壁の時計と自分の腕時計を見ると、まだ話すくらいの猶予ならありそうだ。

「どうすればいいんですか」

俺もぎこちなくだが微笑み返した。

「目をつむって、妖子さんのことを考えてください。落ち着いて、少しづつ時間をかけて、彼女といて嬉しかったことを順番に思い出して。ゆっくり言葉で説明してください」

何のことだかわからないが、協力しておいた方がいいだろう。

目を閉じて思いついたのは二人でカラオケと動物園に行ったことだった。

「ええっと、嬉しかったというか、たまに二人でカラオケとか行きますね。今週のテスト前にも一回行きました。ふぁぉ!?」

女の子の柔らかな抱擁の感触だった。マドカが俺を優しく抱きしめているのだ。

女の子の小さな声で、動かないで…と耳元でささやき声が聞こえた。

「絶対に目を開けないで下さい」

「な、なんなんですか。セ、セクハラですよ。お、俺は妖子が好きなんですからね。言っときますけど・・・」

声の主が、落ち着いて、話を続けてください…と再びささやいた。

「あ、あーあの、今年の夏はプールに行きたかったんですけど、同級生と会って茶化されたら恥ずかしいのでどうしていいかわかんなくて、結局動物園に行ったんですよ。むむぅ!?」

今度はキスの感触だった。うおー、これはマズイぞ。

「絶ッ対に目を開けないで下さい」

暗闇で誰かの声がまた念を押していた。

これって魔術となんか関係があるのだろうか。

意図が何が何だかよくわからない。

俺は妖子のシャンプーの香りをかいでいた。

初めてのキスは妖子の唇だと思えた。夜中のためか眠気を感じる。まだ目を開けたらダメなんだろうか。

せめて相手の身体を少し放そうと伸ばした手を逆にしっかり握りしめられ、俺は完全に抵抗力を奪われていた。

「好きだよ、晴彦…」


―バタンッ

そこへ部屋のドアが勢いよく開き、妖子とルナが掴み合いをしながら部屋に転がり込んできた。

ルナは倒れ込みながらも放った妖子の一閃を軽々と交わす。そして同時に赤黒い妖気の弾を不規則に放った。花瓶や照明が次々と割れてガラスのこなふりりかかってきた。銃弾のような威力があるらしい。

「危ない!」

俺は思わずマドカの手を取り、家具の影に身をひそめた。ガラス片などが舞うのを手元にあった大きめのクッションで防いだ。

妖子の木刀がシューシューと音と煙を上げている。あまり見えていなかったが、先ほどのルナの妖気を受け止めたようだった。

「バカな、何だその木刀は」

木刀はメラメラと青い炎を上げている。あの木刀はひょっとしたら、由緒ある神社の神木を切り出して作ったような名刀なのかもしれない。

「よく知らないわ」

妖子はことも無げに言い切った。

「行くわよ」

妖子は、ルナの妖弾のエネルギーを蓄えた木刀を構え、一進に飛び掛かった。

「ぐっ」

一瞬で剣先がルナの喉を突き、体当たりで身体を跳ね飛ばした。なおも勢い余って窓ガラスへぶつかったかと思うと、なんとガラスをそのまま突き破り、共に窓の外へ飛び出して行った。

「妖子!?」

俺は慌てて窓の外を見た。雲一つない夜だった。ビルや街の明かりの群れが一望できる。

真下を見渡してみたが、妖子とルナの姿はどこにもない。さすがに死んだかと思ったが、地上に落下した形跡がないので、あの妖子なら大丈夫だったのかもしれないと考え、マドカの方へと視線を戻した。

カラコンを入れたように赤い目がかすかに輝いて見えた。

「ごめんなさい」

少女のか細い声。

彼女と目線が合った。そして、またあの視界の暗転が襲ってきた。

バットで殴られて昏倒したかのような、昼間と同じこの感覚は忘れようもない。

マドカは、ルナのような相手の頭の中を操る能力者なのだと悟った。こいつ、まさか死神だったのか。

昏睡させられたかと思ったわずかな瞬間、視界が切り替わった。目の前で倒れていたのは俺ではなく、マドカの方だった。

スマホでセットしていた一時ちょうどのアラームがやかましく鳴る。視界も頭も明瞭だった。


あけましておめでとうございます。青春っていいですね。

間もなくの完成を目指します。

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