001・彼女の校内暴力事案発生
(今回のお話は、2分で読めます)
「チェストーーー!」
北国随一の剣豪、跡部妖子の一撃が俺、武田晴彦のカバンを貫いた。
今日は期末テストの最終日なので、授業は午前で終わりである。
俺は近頃 放課後はかなりの確率でこの妖子からの襲撃を受けていたため、ダッシュで生徒玄関を出たところを案の定、襲撃されてしまった。さっさと帰りたいんだが。
他の生徒たちは何事かとばかりにざわざわと騒動の一幕を覗き見たが、晴彦と妖子の顔を確認すると、ああいつものこいつらの奇矯が始まっただけねと納得して、それぞれ部活へ、帰路へと去っていった。
さて、この日本に「チェストー」って言われながら木刀で殴られる男子はそうはいないだろう。
しかも美少女の幼馴染からである。
妖子の家は道場を経営しており、こいつも一端の剣豪として木刀の一閃でカバンを突き破るくらいの芸当は心得ている。
肩までかかる黒髪ロングのストレートヘアをなびかせながら、木刀を突き付けて妖子は言った。
「もう。今日は待っててって言ったのにぃ!」
妖子は少し涙ぐみながら声を震わせて言った。思わずたじろいでしまった俺は、
「ご、ごめん」
と謝罪した。
理不尽な暴力を受けたのはこちらだが、ここは一応謝るしかないだろう。
でもこういう手口ってデートDVの常習者の手口じゃないかな、と俺は思った。結局、男ってのはカワイイ女の涙に弱いのだ。
「妖子。こないだから逃げ回って悪かったけど、いきなり殴りかかるのはよくないぞ」
「晴彦。そうね。ごめんね。もう乱暴はしない。」
妖子はそう言って俺の前にひざまづいて頭を下げた。そうだ。妖子は根はいいヤツなのだ。
二人で出かけたときに不良にからまれたときは助けてくれるし。
そして今は優しく俺を抱きしめて…って、うおー、何してくれてんねん。人前で抱き着かれて、ますます恥ずかしいじゃん。
「あ、あの。妖子さん。俺は妖子のこと好きだけど、急に、ええと俺はどうしたら」
「黙って。晴彦」
妖子の黒髪から甘い香りが伝わってくる。残念ながら胸のふくらみはそんなに感じなかった。
スゲー恥ずかしい。今の自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。
思わず告白してしまっていたことに気づいて顔はさらに赤くなっていた。
妖子とは、一緒に映画を見たり、ショッピングをしたり、お茶したりという、そういう友達だと思っていたのだが。
「よし、うまく縛れたわね。暴れないでくれてありがとう」
「は?」
いつのまにか俺の体は白いロープでめちゃくちゃに縛り上げられていた。
幼馴染の女の子に抱き着かれていたのかと思ったら、どうやら緊縛プレイだったようだ。
気が付くとあたりには生徒は誰もいなかった。
こんなおかしなところをだれにも見られずに幸いだと思ったが、ここのところいつもこういう目に合っていたので気にもされなくなっている。それもどうかという感じがする。
「妖子!?一体これ何」
さすがに恐ろしくなってきた俺は、大声をあげて抵抗しそうになるも、妖子はすかさずガムテープで口を巻きつけてきた。
人質の口をテープでふさぐときは、テープを十数センチに何枚も切って貼るよりも、首廻りをいっきに三周ほどぐるぐる巻きにすればよい。妖子のやつ、どうしてこんなに手慣れているのだろう。
俺を拉致する手口を妖子は誰かからレクチャーされているのではないか。俺はますます怯えた。
さらにテープを巻く前に口に何か固形物のようなものを押し込んでいた。
ハイチュウのレモン味である。これは俺の好物で、とてもおいしい。
妖子は幼馴染だから俺が好きな食べものもわかるのだ。
「赤松様。妖子です。晴彦を確保しました。玄関前です。生徒はいないけど、先生に見つかるとまずいので二分で来てください」
妖子がどこかに電話をかけると、二分も経たずに黒いセダンが現れた。
車から降りてきたサングラスに黒いスーツの男たちに俺は羽交い絞めにされた。
妖子は本当に俺のことが好きなんだろうか。
いやそれよりも俺は一体どうなってしまうんだろう。
(第二話は6月30日の更新を予定しています。次回もぜひご覧ください。執筆が遅れましたら小欄にて追記いたします)




