千年の孤独#3
これからどうなるのか、自分でもわかりません。
夕焼けに照らされる小夜子が、こちらに気づいて怪訝そうに僕を見た。
見惚れていた事は気恥ずかしくてとても言えなかったが、小夜子が誘ってくれたので同じテーブルでコーヒーを飲んだ。
小夜子は出勤前、二時間ほどこの喫茶店で「風俗嬢の小夜子になる準備」をするのだと言った。
邪魔をして済まなかった、と席を立とうと思ったが、小夜子は口角を少し上げて
「誰かに話を聞いてもらいたい気分なの」
と言った。
小夜子がいつも着物を着て働くのは、「着道楽な母への当てつけ」だそうだ。
小夜子の母親は着物を沢山持っていて、それを小夜子に着せるのが好きだったらしい。
小夜子が持っている着物の何枚かは母親のお古だと言う。
「母は好きなんです、だけど嫌い。
だからこの仕事を選んで…
着物を着ている事で母を汚している気分になれるから。」
と小夜子は口にした。
だけれども小夜子は、稼ぎのほとんどを母親に送金しているのだと言う。
「自分でも何がしたいかわからないの。」
そういう小夜子は目は精一杯の力で笑っていた。
内心では泣いているのだろうが…
小夜子が出勤する時間になり、僕は奢ろうと思ったが、小夜子が
「カウンセリング代だから」
と笑ってさっさと済ませてしまった。
少し小夜子の事を知ってしまったせいか、もっと深く知りたいと思うようになった。
これから小夜子が客を取っていかがわしい事をする事を考えると、胸がひどく痛んだ。
去り際に僕は、
「あまり自分を汚すな」
と言ったのだが、小夜子が自分を汚しに行く背中を見てしまったからだろうか。
まるで戦場にでも行くような、ぴんと伸びた背中を。