千年の孤独#1
僕が小夜子という存在を知ったのは、裏ぶれた十三のホテヘルでの事だった。
僕は風俗店専門誌のライターをしている。
大抵の場合はプレイもせずに適当な取材のみで終わるのだが、あの日は違った。実際にプレイをして感想を書いて欲しいと店側から依頼を受けたのだった。嬢は雑誌に自分のレポートが載る事も知らないのだと言う。
この業界ではよくある事だ。
十代よりは衰えたとはいえ、僕も男だ。無料でそのような事を体験できるなら、とイチもニもなくその依頼に飛びついた。
自動販売機と硬いソファーしか無い部屋で待つ事三十分、ようやく小夜子と会う事ができた。
小柄な身体に牡丹の模様の着物を纏って現れたのが小夜子だった。
よろしくお願いします、と口角を少し上げた唇の朱色を今でもはっきりと思い出せる。
小夜子に腕を組まれホテルに着く。
随分薄汚れた部屋には古いフォークソングが流れていた。
ビニールのソファーがあるのに、小夜子は床に膝をついて名刺を丁寧に書いていた。
白いうなじから覗く産毛を見て、自分で髪を切っているのだろうと推測した。
「髪の毛は自分で切っているの?」
と聞くと、小夜子は悪戯がバレてしまった子供の様に笑って、
「バレてしまいましたか?今まで気づかれなかったんですけどね。」
と答えた。
渡してくれた名刺には、
「目ざといんですね、そういう男の人好きです」
と細長い文字でメッセージが書かれていた。
僕はその文字の輪郭が小夜子の体型とそっくりだったので、少し笑ってしまった。