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3章

2017/1/11誤字修正


 夜会の次の日。ギルハルトは早々にデルタ国王ベルオットに私的な謁見を申し出ていた。


 ベルオット王はリシュベリーとは十五も年の離れた異母兄妹である。

 ベルオット王を生んだ先の王妃はベルオットを生んだ直後に亡くなり、後妻となったリシュベリーの母に可愛がられて幼年期から少年期を過ごした。

 その後、なかなか子宝に恵まれなかった義母王妃にリシュベリーが生まれ、年の離れたこの妹を目に入れても痛くない可愛がりようなのであった。




「私的に話とは・・・リシュベリーのことかな?」


「さすがにわかりますか。」



 ギルハルトの謁見に、理由は一つしかないと思っているベルオットである。

 ギルハルトとも長い付き合いであるし、近い将来同じ立ち位置になる友好国の王太子。

 人となりはよく知っているつもりだし、可愛い妹の思い人でもあるが・・・




「まだ君にあげたくはないなぁ・・・」


「いきなり正直に本音を言いますか・・・あなたは。」


「いやぁ・・君に取り繕っても今更だしねぇ。

君が生まれたときからの付き合いだからねぇ。

でもそれはそれで、まだもう少し離したくないなぁ。」



 にっこりと人好きのする笑顔で言うベルオットであるが、ギルハルトにしてみれば承諾したくない内容である。





「今すぐ連れ帰ると言うつもりはないですが・・・

彼女が18になったら、奪い去りますよ。」


「私の承諾なしで奪っていくのかい?」


「あなたの許可を待っていたら、彼女が老婆になるまで待たされそうですから。

 これでも俺はかなり長く待ったつもりなんですが?」



 ギルハルトは多少不機嫌そうにベルオットに言うが、ベルオットは楽しそうに喉を鳴らした。




「まぁねぇ・・・・

でもさすがに12だったあの子を、君にすぐあげるわけにも行かなかったからね。

 あの当時は、オリシオンもまだ5歳で議会から立太子認定されていなかったからねぇ。


 リシュベリーが優秀過ぎてを次期女王にと推す声も強かった時期だったからねぇ。


 はいどうぞ、と君にあげるわけにはいかなかったよ。


 ところで君、幼女趣味でもあったの?」



「そんなもの生まれてこの方、持ったつもりはありませんが?

後にも先にも、我が君と決めたのは彼女唯一人。


 まさか彼女があの時、まだ12になったばかりだと思いもよらなかっただけです。」








------------5年前------------



 幼少の頃から度々訪れていたデルタ王国に、父王の名代として新王即位の儀にギルハルトが出席したのは20歳になった年だった。




「やぁ、ギルハルト王子。健勝そうでなによりだ。」


「この度はご即位おめでとうございます、ベルオット陛下。」


「堅苦しい挨拶はいいよ。お父上もお母上も元気にしているかな?」




 慶事の挨拶もそこそこに、ギルハルトとベルオットはベルオットの私室で世間話をしていた。


 そこに突然やってきたのが、リシュベリーなのであった。


 リシュベリーはこの時12歳。

 まだ社交界には出ておらず、病気療養中の王太后と共に離宮で暮らしていたため滅多に王宮では姿を見ることはなかった。





「お兄様・・・あっ・・申し訳ございません。

お客様がいらっしゃるとは思わず、失礼いたしました。」


 軽くドアを叩いたあと、返事も待たずに扉を開けて入って来たリシュベリーは、兄王と楽しそうに話しているギルハルトを見て、礼儀正しく謝罪した。




「リシュベリー、ちょうどよかった。

紹介しよう、リンガ国第一王子のギルハルト殿だ。

 友好国の王子だからね、度々遊びに来ているよ。



ギルハルト王子、私の義母妹のリシュベリーだ。

王太后さまと一緒に普段は離宮で暮らしているから、王宮には滅多にいないので君と会うのは初めてだね。」





「リシュベリー・リアラ・デリテルでございます。

ギルハルト殿下にはご機嫌麗しく。」



 優雅に礼をして、自己紹介するリシュベリーにギルハルトは目を奪われていた。

 恐らく、この一瞬ですでに心も奪われていたのだろう。

 まさに一目惚れした瞬間なのであった。





----------------------------------




「とにかく、俺はもうこれ以上待てませんし、このまま正式に婚約発表もしないで彼女の不安を煽るつもりもありません。

危険要素も多々あるんでね。」



「まぁ、仕方ないか・・・。


 君以上にあの子を幸せに出来そうな男は今のトコ見つからないし、第一あの子が君じゃないと嫌みたいだからねぇ。


 もっと手元に置いときたかったのに、私の可愛いあの子が奪われちゃうのかぁ。」




「最愛の妃と王子が二人、更には可愛い姫が二人もいるあなたが何を言ってるんだか・・・」


「それはそれ、これはこれ。あの子への愛情は別物だよ君。」



 若くして公爵家の令嬢と恋に落ち、貴族達の反対を押し退けて結婚した妃との間に、リシュベリーと年の近い第一王子を筆頭にして4人の父親なのがベルオットなのであった。




「うちのチビ姫たちはもう少し手元に置いておきたいねぇ・・・・」


「そちらは王妃と相談でもしてください。

では、俺は最愛の姫君を手に入れさせていただきますので。」



「はいはい、どうぞ。

何なら今回の帰国でもう持ち帰ってくれてもいいよ。

婚礼準備はあとで手配するしね。」



 なんとも投げやりな態度のベルオットであったが、リシュベリーの一番の幸福を祈っているのも間違いなく彼、兄であるベルオット王なのであった。








「姫さま。ギルハルト殿下がお越しです。」


「お通しして、お茶の用意を。」




 前日の醜態を思い出すと多少気恥ずかしいリシュベリーであったが、自国での公務も疎かに出来ないギルハルトがそろそろ帰国するだろうと思い、おそらくは帰国の挨拶に来たのだろうギルハルトの訪問を断るわけにはいかなかった。


 次にいつ会えるかなど、何も約束はないのだから。





「麗しの我が君、帰国のご挨拶に伺いました。」


 いつものようにリシュベリーの左手の甲に口付けて、ギルハルトはそう切り出した。



「そろそろお帰りになられる頃と思っておりました。

陛下へのご挨拶はもうお済みに?すぐにご出立ですの?」


「陛下へは昨日のうちにご挨拶を、出立はこの後すぐに。」



「そう・・ですか。


またお逢い出来る日を楽しみにしております。

お身体にお気をつけて・・」



 落胆を隠せそうにないリシュベリーは顔を俯かせてそう言ったが、ギルハルトはそんな彼女の顎に指をかけて上を向かせた。



 上を向かされてギルハルトの蒼い瞳と視線が絡み合うと、恥ずかしくてリシュベリーは下を向きたくなったが、ギルハルトの指がそれを許してくれず、変わりにリシュベリーは瞼を閉じてギルハルトの視線から逃げ出したのだった。



「姫・・・我が君、リシュベリー姫。

陛下に宣言してきましたよ。」



「えっ?・・・・ぅん・・・」


 ギルハルトの言葉に驚いて目を開いた瞬間、目の前にはギルハルトの顔があり、咄嗟にまた瞼を閉じてしまった時、唇に温かく柔らかいモノが触れた。


 それがギルハルトの唇だと気づいたのは、次に目を開けた瞬間だった。



「ギルハルト様・・なに・・を・・」



「君を奪い去って行くと、陛下に宣言してきました。

愛しい我が君、君をリンガ国へ今から連れ去ります。


 陛下には婚礼準備は後から送るから好きにしろ・・と最後に言われましたが。」


 くっくっと喉を鳴らして楽しそうに笑うギルハルトに、リシュベリーは呆然として、彼は今なんと言ったのだろうと頭の中で反芻していた。






 まだ呆然としているリシュベリーの手を取り跪き、ギルハルトは恭しくこう言った。




「愛しい我が君、リシュベリー・リアラ・デリテル姫よ。

この私の妃になってくれますか?」



「でも・・私とは・・・」



 ギルハルトの言葉を嬉しく思いながらも周囲の状況から即答できないリシュベリーに、ギルハルトはいつもとは違う柔らかい笑みを浮かべ




「君以外は俺には何も必要ない。


君だけが俺を惑わせ、俺を狂わせる。


これほど欲したのは君唯一人。


リシュベリー、君だけをずっと愛している。


誰からも否やは言わせない。


何があろうと君を守って見せる。


だから、俺と結婚してくれないか?」




と、淀みなく告げる。


その言葉はギルハルトの本心からのプロポーズであった。




「はい・・・・はい、ギルハルトさま。

私も・・お慕いしております・・・」



 金色の双眸からはらはらと涙を流し、それでも笑顔でギルハルトに答えるリシュベリーなのであった。




デルタ王国が舞台の話はここで終了

次から主役達の舞台はギルハルトの母国リンガ国に移ります。

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