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2章

本日二話目投稿

少し乱暴な場面がありますのでご注意ください。



 この日の夜会はデルタ国王主催の舞踏会。

 各国の王子や姫君、貴族の子弟や令嬢たちが数多く顔を連ねていた。


 お目当ての姫君や王子が出席すると聞いてやってきている出席者も少なくない。


 中でも一番の注目の的は、リンガ国の第一王子であるギルハルトと、主催国デルタ王国国王の年の離れた妹であるリシュベリー。この二人である。



 ギルハルトはリシュベリーに夢中だと専らの噂であったが、未だ婚約が整っていない現状では、まだ自分にも機会があると思う令嬢や、妃がダメなら妾妃でも構わないという令嬢までもいるほどだ。


 またリシュベリーにも同じように求愛する殿方が数多くいた。



 デルタ国王ベルオットの挨拶の後、まずはベルオットとシャイナ王妃、そしてリシュベリーとギルハルトがパートナーとなってダンスを踊り始める。


 それを舞踏会の開始の合図として、各国の王子や姫、大使夫妻などが踊り始めた。




 そんな一曲目のダンスが終わった途端、リシュベリーは各国の王子達に取り囲まれて挨拶攻め、ダンスのお誘い攻めになるのであった。




「リシュベリー姫。ご機嫌麗しく。」


「これはアインス殿下、ようこそお越しくださいました。

ご活躍はいつも兄王から聞いておりますわ。

今度は、デイル王国にご留学だとか・・」


「立ち話もなんですし、次の一曲をご一緒によろしいですか?」


「殿下のお誘いをお断りしては、周りの令嬢方に叱られてしまいますわね。

喜んでお受けいたしますわ。」




 そしてギルハルトもまた、ご令嬢方に同じく取り囲まれていた。



「ギルハルト様、先日は素敵な反物を贈っていただきましてありがとうございます。」


「これはこれは、ミアーナ姫。

お気に召していただけたなら幸い。新しく職人を雇いいれましてね。いい腕なので、宣伝がてら各国の姫君に送らせていただいているのですよ。

気に入っていただけたなら、今後は贔屓にしてください。」





 リシュベリーにしろ、ギルハルトにしろ、国の中枢に生まれた者として各国要人の接待は欠かすことの出来ない仕事の一つであった。

 そこに何一つ感情がなくとも、笑顔で接するように育ってきている。


 それを己に対する好意と勘違いする者も、少なくないのが大問題であったが・・・








「ふぅ・・・・」


 引っ切り無しに来る賓客の対応とダンスの誘いに、さすがに疲労を隠せないリシュベリーであったが、笑顔は崩さず火照った身体を冷ますために少し夜風に当たってくるからとテラスに逃げてきた。


 そんなリシュベリーを追うようにテラスに出てきた影が一つ。




「姫・・・」


 不意にかけられた声にビクッと肩を揺らして振り向いたそこには、身分はそこそこらしい身なりのよい男が立っていた。



「これは、ブライト様。御機嫌よう。」


 国内有数の貴族の息子で、この春に騎士団に入隊したと聞いている。

 羽目を外して飲みすぎているのか、足元が少し覚束ないようだ。




「姫・・・・」


「どうかされましたか?」



 一応は自国の中枢を担っている貴族の子弟である、いくら酔っているようだとはいえ扱いを疎かには出来ない。


 しかし、少し様子がおかしいその貴族に、リシュベリーが眉を寄せたとき、男は不意に動いた。

 そして、そのままリシュベリーをテラスから庭園へと引きずり倒したのだった。



「・・な・・何を・・・」


「姫・・私は・・・・・あなたをお慕いしております!」



 リシュベリーの身体を押し倒し、馬乗りになったまま男はどれだけ自分がリシュベリーを慕っているかを告白する。


 自分がどれほど無体なことをしているのか理解しておらず、ただ己の望みだけをリシュベリーに向けて吐き出そうとしていた。




「おやめなさい!!・・・人を呼びますよ!!!」


「あなたを手にいれられるなら、この命も惜しくない!!」


「やめ・・いや・・・」


 そのままリシュベリーの身体を組み敷こうとする貴族の身体が、ピタリと止まった。




「お前のような輩に、触れられては困る。」


 リシュベリーの上に跨る男の首にピタリと短剣を突きつけて、ギルハルトはそう言った。

 その視線だけでも、男の息の根は止まりそうなほどの鋭さだ。




「さっさとそこをどけ!今すぐ切り殺されたいか!!!」


「ヒッ・・・も・もうしわけ・・・」


 わたわたと腰が抜けたのか四つんばいで逃げていく男には目もくれず、ギルハルトは倒れたままのリシュベリーを抱き起こす。





 ギルハルトの腕の中、リシュベリーは血の気の失せた顔でカタカタと小さく震えていた。




「姫・・」


「だ・・大丈夫・・・です。何とも・・・」


 ありませんから・・と言う前に、リシュベリーの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。


「ごめ・・・い・・・すぐ・・」


 落ち着きますからというリシュベリーの身体を、ギルハルトがきつく抱きしめる。

 そして、震えるその背中を優しく撫でた。



「助けるのが遅くなってすまなかった。君をこんな恐ろしい目に・・・」


「ギル・・・さまのせいでは・・・・っく・・・う・・」


 落ち着くつもりが、ギルハルトの腕の温もりに安心してしまい、逆に嗚咽が漏れる。


 そんなリシュベリーの背中をギルハルトは愛おしそうに撫で、更にきつく抱きしめる。






 しばらくして落ち着いたリシュベリーは、泣き腫らした顔が恥ずかしくて、ギルハルトに顔を見せることが出来なかった。



「申し訳ございません。酷い顔をしていると思いますので、このまま部屋に戻ります。

ギルハルトさまは、どうかお召し替えを・・・」



 自分が泣きついてしまったせいで汚した衣装を着替えてもらい、ギルハルトには会場に戻るようにと促すリシュベリーであったが、ギルハルトはそれを由としなかった。




「俺が今の君を一人で部屋に戻すと?心外だな。」


 そう言って、スッとリシュベリーを抱き上げて歩き出す。


「ギ・・ギルハルトさま!一人で歩けますから・・・」


「俺は今の君を歩かせたくない。誰の目にも触れさせたくないくらいだ。


 あの男、あの場で切り捨ててもよかったくらいの大罪だが、君の目の前で殺傷は避けたかったから耐えただけだ。」


 そういうと、そのままリシュベリーの部屋まで抱きかかえたまま歩いていったのだった。








「姫さま!!どうなされたのですか??」


 ギルハルトに抱きかかえられて戻ってきた主の姿に、ラナは驚きを隠せなかった。

 そして泣き腫らしたと思える化粧も崩れてしまった顔を見て、顔色をなくした。


「何があったのです!ギルハルト様、まさかあなた様が何か!?」


「違うわラナ、ギルハルト様は私を助けてくださっただけよ。」


 ギルハルトに食いつきそうな勢いのラナをリシュベリーは宥める。




「あぁ、姫さま・・・とりあえず湯浴みいたしましょう。

ギルハルト様、ご無礼いたしました。

謝罪は後ほど、まずは姫さまを・・」


「構わんさ、温めてやってくれ。」



 リシュベリーをラナに預け、ギルハルトはそのままリシュベリーの部屋のソファに座った。






「あ・・あの・・お茶を・・・」


「ああ、すまんな。」



 少し怯えた侍女の声に、どうやら自分は随分と険しいオーラを放っていたようだとギルハルト自嘲する。



「彼女が絡むと自制が効かんな。恋は盲目とはよくいったものだ・・・

全く・・・・やはり早く手元においておかないと、安心できんな。」


 片手で額を覆い、ギルハルトはそう呟いた。






 しばらくすると、部屋着に着替え多少落ち着いた様子のリシュベリーがラナを伴って戻ってきた。



「ギルハルト様、ご迷惑をおかけいたしました。」


 スッと頭を下げて謝罪をするリシュベリーに、ギルハルトは何を言い出すのかと思った。




「我が君。俺は君に迷惑をかけられた覚えは一つもないんだがな?


むしろ、もっと早く気づいていれば君を怖ろしい目に遭わせなかったものをと、自分に憤っているくらいだ。」



「そのようなこと・・・ギルハルト様のせいではありません。

私が軽率だっただけで、ギルハルト様が謝られるようなことはなにも・・・


幸い何もございませんでしたし、この件はなかったことに・・」



 国の中枢を担う貴族の子息に対して、王妹と言えども簡単には処罰は出来ない。

 処罰するためには、それ相応の理由と証拠が必要なのであった。

 全ては、国王の気分だけで国政を左右させないために作られた王立憲法によって・・




「君が良くても俺の気は治まらないんだが・・・かといって、他国の人事に口出しするわけにもいかないしな。


この件は、不問にしておこう。」



 仕方ないとばかりにギルハルトがそう告げると、リシュベリーは礼をした。



「その代わり・・・君には少し俺のワガママを聞いてもらおう。」


「なんでしょうか?」


 突然の我が侭宣言に、目を瞬かせてリシュベリーが聞くと、ギルハルトはニヤッと笑い






「早々に俺との婚約を承諾してもらおうかな。」



 と言ったのだった。









「君に正式な婚約者がいないことが、現状一番の問題だと思うのだが・・。

引く手数多の君が、未だ誰の者とも決まっていないというのがね。


 俺とのことはあくまで噂と思い、手を出してくる輩が多いのは夜会を見ればよくわかる。


 なら、噂が本当になったら?

諦めの悪い者以外は手は出さないんじゃないかな?」




「ですが・・・私の結婚は陛下の意向を・・・」


 生まれながらに政略結婚を定められていたリシュベリーにとって、自分の意思など、想いなど無意味と、初めから諦めていたのである。


 だからこそ、ギルハルトに長年淡い想いを抱きながらも、どこかで実るはずのない恋と諦めてもいた。


 そう、高祖父の代から親交の深いリンガ国に今更自分が嫁ぐ必要性がない・・・と。




「では、俺が陛下に宣言してこよう。

君をリンガ国へ奪い去ってもいいか・・とね。


君を他の誰にも譲らない、君の全てを俺のモノにしたい。」



 リシュベリーの左手の甲に口付けてそう言ったあと、そっとギルハルトはリシュベリーの頬を撫でて部屋を去っていった。



「ギルハルト様・・・・」




誤字脱字など、見つけられましたらご連絡ください

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