最終章
「姫さま、少し城下へ出てみませんか?
護衛も付けていただけますし、デルタ王国とは違った雰囲気に気分転換にもなりましょう。」
「でも、勝手に出歩くわけには・・・」
「ギルハルトさまにはお許しいただいております。
私も目新しい物を見て回りたいですし、珍しい物も多くあると聞きます。」
「ラナがそんなに行きたいというなら・・・」
自分に付き合って知る者のいない他国まで来てくれたラナが、自分のせいで王宮に篭っているのは忍びないと思ったリシュベリーは気分転換という名目でラナと二人の護衛の兵士を伴って城下街へとやってきた。
商業国家、交易都市と言われるリンガ国である。
城下街の活気は溢れ、人種も多様、それに伴って扱われる商品も多種多様であった。
「リシュベリーさま、見てください。
刺繍糸がこんなに色とりどりに・・・」
「本当ね。同じ緑、同じ青でもこんなに違う色彩があるのね。
この蒼はギルハルトさまの瞳のよう・・・」
「リシュベリーさま、あちらには布を扱っている店もございますわ。」
「ラナ、そんなに急がせないで・・・あっ・・・」
人ごみの中、ラナに手を引かれて歩いていたリシュベリーであったが、行き交う人にぶつかってしまいよろけた。
そこをすかさず、護衛の兵士の一人が抱きとめる。
「ありがとうございま・・・ギ・・ギルハルトさま!?」
「おや・・もうバレてしまったか・・・
あなたを護衛とはいえ他の男に任せるわけにはいかないからね。
兵士のふりして付いてきたんだが、こんなに早くバレる予定ではなかったんだがな。」
「私を押し退けてまで、姫さまを抱きとめに行くからです。
まぁ、バレるのもすぐだとは思っていましたが・・・」
そう言って呆れた声を出したのは、同じく護衛の兵士の服装をしたデイルであった。
「な・・何をなさっていらっしゃるんですか?」
「我が君の散策の護衛を。」
まだ驚き覚めやらぬリシュベリーの手をとり、手の甲に口付けてそう告げる。
「他にも護衛の兵士が見えぬように控えているのでしょうか?」
「俺とデイルだけでは不安ですか?」
「当たり前です!ギルハルトさまの身に何かあっては・・・」
心配そうにそう言うリシュベリーの言葉がギルハルトには何より嬉しいことだった。
「自分の身ではなく、俺の心配をされるか?」
「ギルハルトさまにもしものことでもあったら・・・・私は・・・」
「私は?・・・どうされる?」
口の端だけで笑いながらも、リシュベリーの手を取って人ごみからスルリと広場へと誘っていく。
「私は・・・・」
「俺が命を落としたなら、我が君は自由だ。
俺のわがままでこの国まで姫を連れてきた。
まだ婚儀は済んでいない今、俺が命を落としたなら君は自由になれる。」
「何を・・・なぜそのようなことを・・・・
私は・・・・私は・・・・」
「姫・・・俺は、自分の命よりも君が大事だ。
君だけが大事なんだ。
君が必要ないというなら、この命も、この国も、この世界の全てが俺には必要ない。
全ては俺のわがままだ。
姫、君は何も悪くない。
だからこれ以上、自分を責めるのはやめてくれないか。
俺は、君の笑顔を守るために、この国を治めて行きたい。
そのために、俺の隣には君にいて欲しい。
だから、リシュベリー姫。
俺のわがままを聞いてくれないかな?」
リシュベリーは唇を戦慄かせて涙を湛える瞳でギルハルトを見つめる。
「姫のわがままではない、俺のわがままだ。
リシュベリー・リアラ・デリテル姫。
ギルハルト・ジオ・リンデールの妃になってくれ。
俺がこの国を治めるために、俺の隣で笑顔でいてくれ。
俺がこの国の民を幸せにするために、俺の隣で幸せになってくれ。
この国と国民のために、俺の生涯の伴侶になってくれないか。」
リシュベリーの悩みが、自分のわがままを通せないというものならば、他の者のわがままとして叶えてくれとギルハルトはいうのだ。
自分よりも他人を思いやるリシュベリーだから、叶えて欲しいとギルハルトは言うのだった。
「答えはもらえるのかな?」
「は・・い・・・・・喜んで・・・・お受けいたします。」
ハラハラと涙を流しながら、リシュベリーは応じる。
「やっと手に入れたよ、愛しの我が君。」
「ギルハルトさま・・・」
「君だけが大事だ。
約束しよう・・・君に幸せを・・」
~FIN~
本編はこれにて完結