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11章



 時を遡ること、リシュベリーがちょうどリンガ国に到着した頃。



 デルタ王国王宮、玉座の前に数名の騎士と共に宰相バルモンが整列していた。

 リシュベリーの婚礼道具が揃い、リンガ国へと向けて出立するため、国王ベルオットへと挨拶するためだ。


「それでは陛下、行って参ります。」


「頼んだよ、バルモン。式には私と王妃も出席すると、お伝えするように。」



 バルモンが頭を下げると、後ろに控えて整列していた騎士達も最敬礼をして玉座の間を後にした。


 城門からはすでに、リシュベリーのためにベルオットが特別に注文した調度品や衣装、小物の数々、その他リシュベリーの持参金となる宝石類や反物などを積み込んだ荷馬車が出発し始めていた。



「我らが王妹殿下の為の大事なお品ばかりだからな!

 くれぐれも丁重に扱うように、皆心してお運びしろ!!」


「「「はっ!!」」」


 並走する馬上から、隊長格の騎士が荷馬車を操る兵士たちに注意を促す声を掛ける。


 荷馬車は王都の街道を端から端まで続いていたが、バルモンにすればそれでもまだ少ないと思っていたくらいであったが、ベルオットが



「まぁ、ギルハルト殿下がこれでもかとリシュベリーには贈り物をするだろうから、少ないくらいでちょうどいいと思うよ。」



 と言った言葉で納得したのであった。






 リシュベリーが思い悩みギルハルトに涙を見せた日から3日、デルタ王国から宰相バルモンが婚礼道具の数々を運び出してから20日目、フィルフィがギルハルトの元へと再び飛んで来たのだった。



「そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ。


 さて、我が君をこれ以上悲しませないために、父上には早々に動いてもらわないといけないな。」



 ベルオットからの手紙を受け取り、ギルハルトは早朝の王宮を足早に移動していた。


 無論、父王に会うためだ。



 リンガ国王ジオラルは、まだこのとき就寝中であったが、ギルハルトはお構いなしで取次ぎの侍女を押しのけて父王の寝室へと押し入った。



「な!・・なんじゃ、こんな朝早くから!!

 少しは立場をわきまえんか!!」



「まだ起きてらっしゃらないとは、夜遊びが過ぎますね。」


「そなたが早すぎるだけだ!!」



「まぁ、それはさておき、父上。


 デルタ王国より、近日中にベルオット陛下からリシュベリー姫の持参金と婚礼道具の数々が到着しますので、早々に婚礼の日取りを決めたいと思います。


 式にはベルオット陛下自らご出席くださるそうですので、陛下が足をお運びくださるだけの日数の猶予も考えまして、三月後ということでよろしいですね。」



 勝手にどんどん話を進めていくギルハルトに、ジオラル王は暫し言葉を発することが出来なかった。





「な・・何を勝手に決めておるか!!」



「決めなくてどうします。


 先方からはすでに婚礼道具と持参金が出立、明日にでも到着するかもしれないのですよ?

 これで、まだ婚約も許していませんじゃ、話にならないでしょう。


 それとも、父上。

 デルタ王国との友好関係に亀裂が生じてもよろしいと?


 ここまでベルオット陛下から準備を進められ、あとは式を待つばかりという状態で、ベルオット陛下にリシュベリー姫との結婚を断れと言われるので?」




「ぐぬぬぬ・・・・」



「陛下、もうそれくらいで諦めなさいませ。」


 唸るジオラル王に向けて、いつの間にやってきたのかナーシャ王妃が声を掛けた。




「今現在ギルハルトに釣り合う身分の姫の中で、リシュベリー姫以上の姫がいないことは、陛下もわかっていらっしゃるではありませんか。


 それをいつまでも未練たらしくなさっていては、ギルハルトをデルタ王国に婿入りさせてしまいますよ!」



「俺は別に婿入りしても構いませんがね。

 王位はカインが継げば問題ないですし、デルタ王国の発展に努めましょう。」



「馬鹿を申すな!!


 そなたがデルタ王国に行ってしまっては、そなたが交渉して連れてきた王都の職人や商人たちが挙ってデルタ王国に移民しかねんわ!!!」



「では、三月後にリシュベリー姫との婚礼ということで、よろしいですね父上。」



「好きにせい!!!」




 今現在王都で働く職人や商人の多くはギルハルトが自ら各地に赴き、交渉し、王都へと連れてきた者たちの繋がりで成り立っている。


 その職人や商人たちはギルハルトが気に入っているからこそ、リンガ国の首都オレリオで暮らしているのであって、ギルハルトがいなくなってしまえば忽ち離散しかねないのであった。








 その日の午後、リシュベリーの元を訪問する集団があった。

 事前にギルハルトからは訪問の旨を伝えられていたラナは早速とばかりに準備を手伝い始める。



「ラナ・・この方達は?」


「お初にお目に掛かります。

 我々はギルハルト殿下の御要望により、姫君の婚礼衣装をお創りする者でございます。」



「婚礼・・衣装・・・」


「おぉ、早速来てるな。」



 驚くリシュベリーの呟きをかき消すように、ギルハルトの声が聞こえてきた。



「ギルハルトさま・・これは・・・いったい・・」


 自室に現れたギルハルトに、呆然としたまま事の成り行きを問うリシュベリーであった。




「今日も美しいな、我が君。


 婚礼の日取りが決まったので、急ぎ衣装を作らせる手配をしたところだ。


 生地などはすでに姫に似合う物を決めていたのだが、やはり細かなデザインや採寸は本人をちゃんと見てからとこいつ等が言うのでな。」



「姫君は変に飾りがないデザインの方がより一層お美しさが際立つかと思われますので、殿下の選ばれたとおりの生地に仰っていた通りの刺繍を施そうかと思います。」


「間に合うか?」


 あと三月しかないことを伝えた上で、ギルハルトは仕立て屋に問いかける。



「針子達を総動員して、間に合わせてみせましょう。

 他国に店の名を売る大きな機会でもありますので、最高傑作を作り上げて見せます。」






 呆然としている間にデザインも決められ、細かな採寸も終わり、仕立て屋の集団が出ていった後、リシュベリーはわけがわからないという風にギルハルトを見た。



「驚かせてしまったようだね。」


「ギルハルトさま・・・婚礼衣装・・と申されましたか?」



「あぁ、俺と姫の婚礼の日取りが決まったのでね。


 急いで衣装を仕立てさせるために、呼び寄せた。

 俺の衣装は一月もあれば、別の仕立て屋が姫の衣装に合わせて作り上げる。」



 ラナから茶器を受け取り、ギルハルトはソファの上でくつろぎながらリシュベリーが落ち着くのを待つ。



「陛下が、お許しくださったのですか?」


「父上のはただの意地だからな。

 最後は母上の一言でぐぅの音も出なかったよ。


 だから姫、もう安心するといい。

 あなたを悩ませる問題は何もない。


 あなたが俺の妃になることに異を唱える者は誰もいない。


 愛しの我が君、だからもう一度言うよ。」



 そう言ってギルハルトはソファから立ち上がると、リシュベリーの目の前まで来てリシュベリーを立ち上がらせ、そしてその左手を恭しく持ち上げると跪いた。


 そして、真剣な目をしてこう告げたのだった。



「リシュベリー・リアラ・デリテル姫、

 この私、ギルハルト・ジオ・リンデールの妃になって共にこの国を治めてくれないか?」





「姫、返事をもらえないかな?」



「・・私・・・・」



 震える声でリシュベリーが答えるのを、ギルハルトは跪いたままジッと待つ。



「本当に・・・私でよろしいのでしょうか?

 この国の将来を思えば、他国の姫たちの方がよろしくはございませんか?」



「俺はあなた以外を妃にとは望まない。

 我が君、あなただけが俺には必要で、大事だと言ったはずだ。


 あなたが俺の妃になれば、我が国とデルタ王国との繋がりもより一層強固なモノになる。

 この大陸でこの二国を敵に回す国は存在しない。


 この二国が友好関係にあれば、この蒼の大陸内では戦争も起こりえない。

 そしてそれは、朱の大陸の国家への牽制にもなる。

 いいことはあっても、悪いことなど何一つないはずだが?


 あとは何が足りないのか、教えてくれないかな姫。」



 これほど条件も揃い問題も解決しているのに、なぜ即答してくれないのかとギルハルトは少し困った表情をしていた。



 そんなギルハルトを見下ろし、リシュベリーはギルハルトの胸に以前のように素直に飛び込めない自分を呪った。



 ギルハルトを慕い続けてきた。


 妃になれる日を夢見てもいた。


 一度はその胸に飛び込み、素直に想いも告げた。



 だが、一度絡んでしまった自分の悩みは、すぐには解けてくれそうになかったのだった。



「姫、君はもう名実共に俺の婚約者となった。

 それはもう、婚礼の招待状を他国へと使者が出立した時点で決定事項だ。


 今日はどうやら驚かせすぎてしまったようだから、また後日返事を聞くことにするよ。」



 この世で一番大事な女性に、今にも泣き出しそうな表情を自分がさせてしまったのかと、ギルハルトは苦笑を漏らしながらそう告げて、リシュベリーの部屋を後にしたのだった。




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