月の光は朧気に微笑む
こんにちわ。もはや就職関連の勉強に耐えきれず諦め始めたルノです。
数学と英語なんか、嫌いだ。国語は好き。
さて、今回はあらすじの通り本編ではあまり語れそうにない二人の話。
前回は作品内に名前を出しませんでしたが今回は出します。
私的には色々と思い入れのある二人です。
月が街を照らす夜。街灯の輝きに負けた星の光は自ら闇に隠れた。そんな中、チラチラと消えかかる街灯に降り注ぐ光。月光。
静かな時間を公園で過ごすのは、何もこれが初めてという訳じゃない。数えてみれば、片手で数えるには足りないくらいの回数。多分、両手で数えてやっと。
ベンチに座る二人を、月が見守る。
御知は私の隣にゆったりと座りながら、何処か遠く……分からない所を見ていた。その様子からして無意識に行動しているのだとおもう。
今日は何月何日何曜日?
そんな事気にしなくたっていい。
今私達は幸せな時を過ごしているだけ。
この時だけ、時間が切り離されているかのようになる。
私はちらりと御知の目を見た。
何か、迷っている……??目に光がない。
ぼんやりとしたその瞳の奥に、何か隠しているような気がする。
「何かあったんですか?」
心配になって尋ねてみるけれど、御知はこちらを見て微笑み、何もないよ。と言うだけだった。
心配の種が消えず、段々と不安になってきた。御知が何を考えているのかが気になる。けれど御知をまじまじと見つめる事が出来ない私は、周りの風景や空を見るしかなかった。
今日の月はぼんやりと霞が掛っている。何とも言えない美しさがあるように思った。そうして、私自身も先程の御知のように無意識にただ月を眺めた。
どうして月はこうして直視出来るのに。
御知の事は直視出来ないのだろう。
「氷椏は……?何かあった?ボーッとしてるみたいだけど」
絞り出したような微かな声で御知が聞いてきた。私はそれに「何でもないよ。」と皮肉と照れ隠しとを混ぜながら答える。
正直になれない自分がキライ。
本当はいつだって何でもいいは“何でもなくない”。
気付いて欲しいけど、自分から言うのは嫌。心配も掛けたく無い。だからこそ、大丈夫じゃない時も大丈夫と、辛いことがあった時にも何でもないと答えるの。だけど、大体の時は気付いてくれなくて、ちょっとショボンとなる。
御知は……どうなの?
「月、綺麗だね」
いつまでも月を眺めていた私に御知が耳元で囁いた。パッと御知の方を見ると、顔が近い。いきなりの展開にドキドキして、言葉に詰まる。
「ーーッ、き、綺麗ですね」
「ねぇ、敬語やめようよ?俺、氷椏の彼氏でしょ。まぁ、無理にとは言わないけどーー。」
少し拗ねたような、さみしそうな目をして御知が言うものだから、とても愛おしくて、私が後輩なのに先輩である御知の頭を撫でたくなってしまう。今すぐにでも抱きつきたくなってしまう。だけどそんな事をする勇気がなくて、ちょっと右手を御知の方に出して、すぐひっこめた。
「なに?」
その行動を不思議そうに眺める御知。首を傾げる仕草に愛おしさがまた増す。
……本当、犬みたい。
いつも側にいたくて。甘えさせてくれるけどそれより甘えてくることが多くて。可愛くて。それなのに歳上だなんて、信じられない。
「先輩。何でそんなに可愛いんですか。」
「…また敬語。って俺、可愛いよりカッコ良いって言って欲しいな。」
「先輩が可愛いのがいけないんですっ」
そういってちょっとだけ御知の方に寄りかかると、御知は私に首を凭れてきた。
私が男で、先輩が女の子だったらきっとお互い素直になれたんだろうな。
先輩のぬくもりが、肩らへんに伝わる。
すごくあったかくて、何だか安心してしまう。
「ね、氷椏。俺の事さ、先輩じゃなくて名前とかニックネームとかさ、付けてよ。」
「えーと、じゃあみっくんで。」
御知の“み”で、みっくん。
たったそれなんだけれど、何だか特別な気がした。ただ、当の本人はあまり気に入ってくれなかったみたいだけれど。
「そーすると、俺の兄もみっくんになっちゃうからなぁ……御知って呼んでよ」
「やだ。みっくんはみっくんだもん」
みっくんというあだ名が気に入ってしまったのと、御知なんて呼べるはずがないという思い。そんな事をしたら、御知が私の“彼氏”だということを意識してしまう。そんな事になったら余計に話せなくなっちゃうから。だから、みっくんはみっくんなの。
そんな言葉をきゅっと心の中に押し込むと同時に御知から少し離れ、公園内にあるブランコに座る。ひんやりとした鎖部分を握り、今の気持ちを、この月に掛かる雲のようなモヤモヤを振り払うべく、目一杯地面を蹴った。するとブランコは勢いよく振り子運動を始める。
座ってこいだり、立ってこいだり。自分なりのやり方で恥ずかしさを紛らわせようとしたけど、失敗みたいだ。
「ね、氷椏?」
隣に同じようにブランコに座る御知が言った
彼にはブランコは小さかったらしく、足はブランコの勢いをつける役割を果たせないでいる。
「何ですか?」
「……なんでもな…」
「先輩も、何でも良くなんてないのにそう言ってませんか?」
先輩が反応した。少し身体をビクつかせる程度の……動揺。ブランコに繋がれた鎖が僅かにカシャリと鳴った。
「ほら、動揺してる。」
「そういう氷椏は先輩も、って言ったよね。て事は氷椏も、なんだ?」
そういう時だけ鋭いの?
動揺し地面を蹴り損ねて宙ぶらりんになった足がふらりとブランコの軌道に沿って揺れた。
「そ、そうですよ。私も、です。」
自らの足でブランコを止めると、ザザザーッという音と共に砂煙が舞う。
砂は街灯の光で照らされ、まるで妖精の撒く金の粉のように足元を舞った。
そう、魔法を掛けた時のように。だから…今なら何でも言える気がした。
「先輩。私のこと、本当に好きですか…?」
ずっと心配だった。近頃何処か遠くを見つめる瞳に、私でない誰かが映っているのではないかと。
だからこそ、夢を見ている時のようにぼんやりと遠くを見つめていたのではないかと。
私に何でもない、と誤魔化したアレは……別れ話なんじゃないかって。
御知はしばし目を見開いて驚いた後、ゆっくりとブランコを揺らし言った。
「そんなこと、聞くまでもないでしょ。俺は、氷椏の事好きだよ。逆に聞きたいくらいだよ。氷椏は本当に俺のことが好きなの?今までに一度も好きだと言ってくれたことがないじゃん。」
そんなの、恥ずかしくて言えないだけで内心では常に思ってる。
“良かったら僕と……付き合ってください”
そう言われたあの日からずっと。いや、その日より前から。
私は御知の事が大好きで大好きで。
でも私は正直にそれを言えずに、カッコいいは可愛いに。大好きは安心するに言葉を変えて御知に伝えていた。でも御知には伝わってなかったみたいで、かえって不安にさせてしまったみたい。
「わ、私は……御知の事……」
勇気を出して言ってみようとするけれど、やはりダメだった。
何でって嬉しそうに待つ、御知の顔が見えちゃったから。その途端に言葉を飲み込んじゃったみたいに黙ってしまう。全く、悪い癖だなぁ…。
でも御知はいつもならショボンとするはずなのに、今回は微かに微笑んで私の頭に手を乗せ撫でた。
「氷椏、ちゃんと伝わってるよ」
その言葉は私の心に直接届き、その衝撃で涙が出そうになる。所謂、嬉し泣き。
それを見兼ねた御知はここぞとばかりに私を抱き寄せて、目一杯泣かせてくれた。
御知の腕の中は温かくて、優しくて、そして落ち着く。私の、私だけの場所。
「氷椏はさ、無理しすぎなんだよ。本音は漏らさないし辛くても我慢するし。そんなことしなくていいよ。どうしても直せないなら、俺と一緒にいるときに少しづつ直せばいいよ。俺がついてるから。な?」
「うん…っ、うん!そうする…っ」
「ツンな氷椏も良いけどさ、俺はやっぱりデレて欲しいな。こんな感じでさ」
「私はツンデレじゃないです…っ」
泣いているのが段々おかしくなって来てしまって、私は涙を流したまま笑った。
目に映るのは嬉しそうな御知と、見事に雲が晴れ綺麗な姿を見せた月だった。
私はこの時を忘れないだろう。
例えいつか離れる時が来ようとも。
……という訳で、今回は氷椏と御知のお話でした。
比較的のほほんな感じのCPですね。多分。
あらすじや最後の言葉にも意味がありますがこれは本編に繋がったり。繋がらなかったり。
因みに、氷椏と御知は全く喧嘩をしません。
何故ってお互い平和主義だからです。
何故設定が細かいのかって?さて、何ででしょうね。