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二章 義妹




「今日は誘ってくれてありがとう、ルウ」


 “白の星”、環紗郊外にあるオーガニックレストラン。一見民家の店は、中に入ると真っ白なテーブルが二つきり。彼女の説明では完全予約制の隠れ家だそうだ。

 デザートの有機人参シフォンケーキに蓮華蜂蜜を掛けつつ、義妹は何処かぎこちなく笑う。

(相変わらずね、この子は。まぁ私も昔はこうだったけれど)

 神様の話では“魔女”、だったかしら?“緋の嫉望”や“黒の絶望”に比べれば可愛らしいぐらいだけど、あの宇宙では異能、被迫害者の一類だった。種類は違うが同じ偏見を受けた身、気持ちは良く分かる。

(でも、血の繋がっていない私をこうして気遣ってくれるんですもの。根はとっても優しい子だわ)

「メノウ姉さん、口紅変えた?」

「え?ええ、分かる?」

 化粧に興味の無い彼女が気付くとは思わなかったので、素直に驚く。

「全然違うじゃない。その色、エレミアにいた頃付けていたのと同じね」

 それはそうだ。以前会った時はワインレッド、今日塗っているのはローズ。赤は赤でも明暗が真逆。

「そっちの方がいいわ。前のは黒過ぎて、まるで―――喪に服しているみたいだったから」

 はっきり言ってくれるのがこの義妹の長所だ。他の兄弟や妹達ではこうはいかない。


「―――会ったのね、彼に」


 断言し、ケーキの最後の一切れを口に放り込む。

「知っていたの?ウィルネストがこの宇宙にいるのを」

「ええ。面と向かって会った事は無いけどね」

 どうして教えてくれなかったの?などと責める気は更々無い。以前の私なら知ったが最後、宇宙の果てまで追い掛けた上、灰になるまで焼き殺していたでしょうから……。

「誠は元気にしてる?」

「……ええ、多分」

「?」

「最後に会ったのは一週間以上前だから―――家出されちゃったの、私。あ、でも大丈夫よ。ウィルネストが面倒を見て……くれているんだもの」

 矛盾。裏切られたのに信じている。殺意と同時に押さえ切れない愛情が湧き上がってしまう。

「姉さん……」

 義妹はエメラルド色の髪を癖で掻き上げ、若干眉を顰めた。

「ルウ。私変よね?息子を殺した相手を未だに好きだなんて」 

「そんな事無いわ。メノウ姉さん、真実から目を逸らさないで」

 右手に埋まった魔石“緋の嫉望”、“炎の魔女”の力の源を睨みながら強く言う。

「真実……?何を言っているの?」

 食後のコーヒーを一口啜る。苦い。私の中の感情と同じくらい。


「私、この目で見たのよ!ウィルネストが血だらけの剣を持って、息絶えたまーくんの胸に刺し傷があったのを。それの何処が嘘なのよ……!?」


 両目に熱い物が満ち、零れた。

「本当にそう?なら、何故今姉さんは泣いているの?」

 真剣な眼差しで質問をぶつけてくる。

「負けちゃ駄目。思い出して―――二人と、私達のために」

 嫌々と首を横へ振る私に、義妹はそう言い切った。





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