序章 葬式当日
数ヶ月振りにしたネクタイが窮屈で仕方ない。
「今日は来てくれてありがとう」
俺より数サイズ大きい喪服を着た四が頭を下げた。
「構わないさ。手伝いは焼香が終わってからだったか?」
「ああ、済まない……葬儀屋も特別に車を出してくれるそうだ」
喪主の宝爺さんと話し終わったオリオールがこちらに来る。下ろしたてのブカい白シャツ黒ズボンを着た少年は一礼し、お悔やみ申し上げます、子供ながらにしっかり弔辞を述べた。
「オリオール君も、今日はありがとう」
「ううん、僕に出来るのはこれぐらいだから……。思ったより皆元気そうで良かった。大きなお姉さんもちゃんと朝ご飯食べてたし」
最も被害を受けた彼女も、肉体はともかく精神的には大分立ち直っていた。
「誠君は?」
「……遺族含めてこの人数だ。終わるまで付き添うように言ってある」
懊悩、悲嘆、絶望……心優しい天使がとても長時間耐えられる場ではない。
「そう、だな……あの子ももう少し落ち着けば、自分からまた政府館へ顔を出しに行くだろう。―――店は当分開けられないしな」
病室に行く前立ち寄った、惨劇の証拠が半ば片付けられた屋内。三人で黙祷を捧げた。
『ごめんなさい……』
連れて来なくて本当に正解だった。この場に漂う重い氣だけで卒倒しかねない。
十数人分の木棺が部屋の奥に並べられ、遺影を纏めて飾った花祭壇と焼香台が手前に置いてある。葬儀開始三十分前の時点で、参列者は既に五十人程。入口に立てられた葬儀花輪の名前から言って、来ているのは店の取引関係者が多数か。個人のは各自、自宅に棺が届いてから改めて行うらしい。
「よう」
義息も慣れないスーツに身を包んで登場だ。四に追悼の意を述べた後、これが終わったら一区切りだな、と言った。
「ああ……ケルフ君もこの間は色々済まなかった。時間があれば後であの子の顔を見に行ってやってくれ」
「勿論」
受付で義兄の分も記帳していた栗色の髪の黒いワンピース、リーズもこちらに歩いて来た。爺さんと四に一礼し、お悔やみ申し上げます。
「リーズ君も来てくれたのか。今日は平日だが、学校の方はいいのか?」
「はい。学校と院長先生にはちゃんと許可を貰いました」どうやら今回ばかりはきちんと欠席の申請をしてきたらしい。「大変だった、ですね……」
そう言って瞳を伏せる。
「君までそんな顔をしないでくれ」
辛さを堪えるように拳を握り締める四を見て、俺はこの合同葬儀の発端を思い出した。