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婚約破棄は金貨三万枚の得

掲載日:2026/05/27

「メリーナ!君との婚約を破棄してやろうか!?」


 ジキルド伯爵は舞踏会会場で、私を脅すようにそう言った。周りで優雅に踊っていた貴族達が、皆動きを止めてこちらを見る。

 顔を見れば分かる。あれは悪巧みを考えている時の顔だ。どうせまたお金関係なのだろう。ジキルド伯爵を生物に例えるなら、金にたかる蝿のようなものだ。自分より地位の高い者の前では手をコスコスとすり合わせ、自分より地位の低い者に対しては、煽るように周りを動き回りブーブーと愚痴を垂れる。汚い手を使うと言う意味では、蝿すら凌駕しているかも知れない。そういう奴だ。


「君の私に対する態度がなってないのが原因だ。先ほどだって、この私にエスコートされていたのにつまらなそうな顔をして!だから私は婚約破棄を宣言しているのだ。君に非があるのだよ。……何か言い分はあるかな?あまり長引かれても面倒だが」


 どうやらジキルド伯爵のように、手をコスコスとすり合わせて欲しかったらしい。そんなに手をこすり合わせている所が見たいなら、洗面所まで見に来ればいい。そうすれば女子トイレに不法侵入したと、王国内の晒し者にしてやれるのに。


「いえ、とくに。婚約破棄、了承しましたわ」

「ま、待て!そう早まるな!よし、分かったから!」


 「待て」だの「よし」だの、私は訓練中の犬か何かか?


「いったん冷静に考えるんだ。――婚約破棄されると困るだろう?」

「いえ?」

「なっ!君は何も分かっちゃいないんだ!良く考えて見ろ!スベロイア帝国から物を仕入れているのは私だ!君の家の子爵領は帝国に接していないだろう?――だが、君の所は帝国の物を王国内に売りさばいて財をなしている。私が君たちに卸しているからだ!」

「そうですね。帝国に近い伯爵家が輸入をし、王都に近い我々が売りさばくというのは、昔から続いてきた商売方法です」

「そうであろう!?――まさか婚約破棄された後でもこのような良好な関係が続くとは考えていないだろうな?」

「さすがに婚約破棄後は関係を切る事になるでしょうね」

「そうであろう!つまりお前は婚約破棄などしてはいけないのだ!――よし、それを分かった上でだ。婚約破棄されたく無ければ、もう少し商品の卸値を上げさせろ!」


 周りの貴族達に思い切り睨まれてますけど、その話、ここでしない方がいいんじゃないですか?と思ったが、心の中にしまっておくこととした。おそらくこれは運命なのだろう。蝿は人間から嫌われる運命なのだ。


「も、もちろん正当な理由はある!最近帝国では魔術の研究が盛んでな。ある程度の距離なら、不可能とされていた瞬間移動も実現出来るようになったそうだ。そんな素晴らしい技術が手に入るのだ。少しお金が上がるぐらい正当な報酬だ!」


 さすがに周りの貴族の目線に気が付いたのか、良いわけがましくそう言う蝿。正当な報酬って、あなたは何もしてないじゃない。


「そうですか。――ですが、申し出は断らせていただき、婚約破棄させていただきます」

「な、何故だ!おかしいだろう!スベロイア帝国の物品はどうするつもりだ!」

「スベロイア帝国との貿易は続けさせていただきますよ?」

「な、何を言っている!?」

「つまり――ジキルド伯爵を介さず、直接帝国と貿易をさせていただくと言っているのです」


 呆けた顔をしたジキルド伯爵。頭の上を星がクルクル回っているのが、顔からありありと分かる。


「お、おかしいだろう!我が領地を介さないと帝国とは貿易なんぞ出来んぞ!」

「先ほど、ジキルド伯爵自身が言っておられたでしょう?――帝国はある程度の距離の瞬間移動が可能になったと。ある程度の距離とは、大体ジキルド伯爵領ほどです。つまりですね。我々はこれから直接帝国から商品を卸せるようになったのですよ」


 ジキルド伯爵の開いた口は塞がる気配が無い。がま口みたいな開き方。多分顎は外れているだろう。


「帝国も乗り気でした。どうも、どこかの前任の王国窓口さんは料金をいちいち渋ってたみたいで、担当と料金が変わって嬉しいと、それはそれは幸せそうでした。――もちろん国王からの許可も取っています。瞬間移動は隣国にとって脅威ですから、交易に瞬間移動を使わせ、その特徴を洗い出してこいと(おお)せつかっています。もちろん仲介がいなくなったので、王都にも安く品が流通しますよ」


 周りの貴族から「おお!」と喜びの声が上がる。目の前のただ一人は、閉じない口を無理矢理口で閉じながら、私を睨みつけることしか出来なかった。

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― 新着の感想 ―
せこい商売してる割には頭わりーなジキルド伯爵
瞬殺♪
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