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後編 きらきらのきみへ

 

「うーん、そうね。かなたくんは、とってもとおいところにすんでいるから、すぐには会えないね」


 と、お母さんが言いました。


 そして、そうだった! といちかちゃんは思い出しました。かなたくんは、ここから500キロもはなれたところにすんでいるのです。それはそれは遠いところです。新かん線でも2時間かかるのです。


「そっかぁ……」


 それならし(かた)ありません。そういう遠いところには、「おとな」になってからしか行けないのです。いちかちゃんは、早くおとなになって、かなたくんに、会いに行こうと思いました。


 そして、いちかちゃんは、こんなお手紙を書きました。




 ---


 おへんじありがとうございます。あなたも、かぜをひかないようにきをつけてください。あなたのすんでいるところは、ゆきがたくさん、ほんとうにたくさん、1メートルくらいもつもるとききました。わたしたちが、うまってしまうくらいつもりますね。うまってしまうと、さむくてかぜをひいてしまうとおもいます。

 だから、かぜをひかないようにきをつけてほしいです。でも、わたしのほうはあんまりゆきがつもらないので、すこしうらやましいです。いつかゆきだるまをつくってみたいので、たのしみにします。


 それで、もらったおへんじに、しつもんがかいてあったので、それにおへんじします。


 ぶどうのゼリーのほかにすきなものは、ショートケーキです。わたしはあまいものがすきですが、ケーキだと、ショートケーキがいちばんすきです。これもきらきらしています。てっぺんのいちごと、あいだのいちごと、りょうほうすきですけど、てっぺんのほうがおおきいので、こんどあげます。てっぺんのいちごをもらうと、うれしくなります。たぶん、おおきいからだとおもいます。


 あなたのきらきらはなにかをききたいので、わたしも、はやくあいたいなとおもっています。びっくりして、うれしくなるものがなにか、こたえあわせをするのをたのしみにしています。たぶんあっているとおもいます。たのしみです。


 さいごですが、わたしもピーマンの肉づめをつくってもらいました。ピーマンはちゃんとのこっているのに、にがくなかったので、おいしくたべられました。おしえてくれてありがとうございます。こんどいっしょにたべたいですね。会う日をたのしみにしています。


 ---




「いちかちゃん、かわええなぁ」


 かなたくんは、そう言って、ふふっとわらいました。

 かなたくんは、いちかちゃんがピーマンがにがてなのは知っていたので、いちかちゃんでも、食べられるようなものはないのかな、とお母さんに聞いてみたのです。

 そうやってしらべたことを、いちかちゃんがやってみてくれていると思うと、心にじわじわ、なにかが広がっていくような、そんなかんじがして、かなたくんはうれしくなります。

 そして、とどいたお手紙を、スマホでしゃしんにとって、お手紙を入れるふくろにいれました。かなたくんは、いつもそうやって、お手紙をだいじにとっておいているのです。


 なぜなら、かなたくんは、いちかちゃんのことがだいすきだからです。


 ほんとうに、すっごくすっごくだいすきで、いてもたってもいられずに、いちかちゃんのお父さんとお母さんに、「いちかちゃんと、お手紙の交かんをさせてもらえませんか?」とたのみに行ったほどです。


 ことしの8月、かなたくんは、いちかちゃんにひとめぼれをしました。

 まっすぐな目でこちらを見て、すぐに、ふいっと空へ()()()をうつしたそのすがたから、かなたくんは、目がはなせなかったのです。それはちょうど、きらきらしたほうせきから、目がはなせなくなる人のようでした。

 というわけで、かなたくんの、いちばんのきらきらとは、いちかちゃんのことなのです。


 そして、かなたくんは、いちかちゃんとお手紙の交かんをはじめました。

 いちかちゃんからのお手紙は、これで7まい目です。本だなに入っている、教科書の、そのとなりに入れてあるケースに、ふくろごとしっかりと入れておきます。


 今日は何、書こかな、とかなたくんは考えます。

 今回のお手紙には、いちごのショートケーキがすき、と書いてあったので、いちかちゃんのすんでいるところの、近いところにあるケーキやさんをしらべてみることにしました。

 かなたくんは、パソコンや、スマホをつかうのがとくいです。文字をうつのもすばやくおこなえます。いちかちゃんに会ったとき、もたもたしていたらかっこわるいかな、と思ったので、たくさんれんしゅうしたからです。


 さて、かなたくんがしらべたところによると、そこのいちごのショートケーキは、うられている時間がかぎられているそうです。


 そこで、かなたくんは、しようにん――めしつかいのことですね。かれは、アカギという名前です――をよぶと、こう言いました。


「アカギ、ちょっとここのオーナーとつないでくれへん? やりたいことがあって」


「かしこまりました」


 すぐにでんわがつながり、かなたくんは、ケーキやさんの店長さんとお話し合いをして、いちかちゃんが、いちごのショートケーキをいつでも買えるようにしました。「きかんげんていしょうひん」から、「つうじょうしょうひん」に、つまり、一年中うられるようにした、ということです。


 こういうふうに、かなたくんは、いちかちゃんによろんでもらえるよう、いろいろなことをしていました。

 かなたくんは、いちかちゃんと会える日を、ずっとずっと楽しみにしているのです。




 お手紙の交かんが、十回をこえたころ。


 かなたくんの、おじいさまが、いちかちゃんくらいの年の女の子をつれて、かなたくんのところへやってきました。長いくろかみに、気のよわそうな、たれ目の女の子です。


「かなた。こんかい、くすのきの家とこんやくすることになった。なかよくしなさい」


「……よろしゅう」


 かなたくんはおどろきました。まさか、いちかちゃんいがいの人とこんやくをするとは、小ゆびのさきっぽほども思っていなかったからです。

 そして、どうやってかいしょうするか、そればかりを考えはじめました。いちかちゃんとしかこんやくしたくないし、ほかの人とこんやくしてしまうと、いちかちゃんとはけっこんできないですからね。


 なので、女の子が、いたずらを思いついたかのように、きらりと目をかがやかせたのにも、気づきませんでした。


 かなたくんのおじいさまが、かなたくんと、女の子をのこして、へやを出ていったあと。

 女の子は、さっきまでの大人しさがうそだったみたいに、にこにこしながら話しかけてきました。


「ねえ、あんた、うちとこんやくしたないんとちがう?」


「……そないなことあらへんよ」


 かなたくんは、女の子のその(こと)ばに、おどろきながら、とりあえず、ちがうと言っておきました。

 女の子に、「わたしってだめだよね」と言われたとき、「うん、だめだね」と答えてはいけないというのは、()をもって知っていたからです。かのじょたちは、「そんなことないよ」の(こと)ばをほしがっているけれど、自分で言うのははずかしいから、そういう言い方をしているだけなのです。


「あらそう? うちはあんたとこんやくなんかしたないけどな。うちはすずちゃんと()()()()()()()をちかってんねん」


 なんだか、話のながれがかわってきました。どうやら、女の子は、かなたくんとこんやくしたくないようです。じゃあすぐやめにしよう、とかなたくんは言いかけました。


「じゃあ」


「でもな、うち、ぜっっっったいこんやくしたないんやけど、こんやくしてないとこれからどうなってくかのよそうもつくねんな」


 しかし、女の子はとちゅうでそれをさえぎって、そんなことを言いました。

 かなたくんは考えてみます。だれともこんやくしないで、小学校をそつぎょうして、中学校に入学する自分のことを。


 ……なんということでしょう! おそらく、そのままだと、かなたくんのお家をめあてに、たくさんの女の子がよってくるよかんしかありません。じっさい、小学生の今でさえ、学校に行けば女の子たちにかこまれて、もううんざりなのです。


「やからうち、あんたとこんやくせなあかんねん。もっとめんどくさくなるから。あんたもそうやろ?」


「……せやな」


 というわけで、かなたくんは、こんやくがおわる、中学校のそつぎょうまで、いちかちゃんに会えなくなってしまったのでした。

 こんやくしゃがいるのに、ほかの女の子に会いたがる人を、いちかちゃんはきっときらうだろうなと思ったのです。


 かなたくんの、いちばんのきらきらに会える日は、一体いつになることやら。


 さて、この話はこれにて終了です。

 高校生になったかなたくんと、いちかちゃんが出会うお話は、また今度ということで。閲覧ありがとうございました!

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