まさか それが ほんとうだった とわ
僕の村には、ミズカミさんという予言者がいた。
水車小屋に住んでいるお爺さんである。
白い髭と細い身体つきをしていて、仙人のような風格があった。
ミズカミさんの予言はよく当たった。
作物の収穫量や家畜のお産、干ばつや大雨のことなどである。
みんなミズカミさんを崇め奉り、なんでも言う事を聞いていた。
だが……。
ミズカミさんの予言が、だんだん当たらなくなってきたのである。
しかも、内容が変なのだ。
「曲がり角の家は祟られている。若い嫁さんに、水車小屋まで毎晩酒を持ってこさせろ」
とか。
「庄屋さん所の犬が死んだのは、倉に米が多すぎるからだ。このままだと家族が死ぬから水車小屋に奉納しろ」
とか。
「おかずを水車の横に、一品備えれば死なずに済む」
などだ。
このところずっとこんな調子なので、爺さんボケたか、と囁かれる。
曲がり角の嫁は酒を持っていくのをやめ、庄屋さんの米も奉納しなかった。
そして……。
「水車小屋を新しく建て替えて、同額の金をワシに奉納しないと、村人みんな死ぬ」
と言い始めた時、爺さんは欲ボケしたと村人たちは確信する。
庄屋さんを筆頭に、誰も言う事を聞かなくなった。
しかしながら……。
ある日、庄屋さんが倒れて亡くなった。
翌日奥さんが胸の発作を起こし、その次の日に若旦那が事故で、と、次々に死んだのである。
同じ時期に、曲がり角の家の嫁さんと子供達が熊に食われた。
その熊を退治しようとした夫の鉄砲が暴発し、命を落とす。
唯一外出中で生き残っていた祖母も、絶望して後追い自殺をしてしまった。
それからは、流行り病や食中毒、落雷と、村人がどんどん死んでいく。
もしやこれはミズカミ爺さんの予言が?
と、思った時にはもう遅かった。
水車小屋を新しく建て替える暇もなく、村人のほとんどが亡くなったのである。
もちろんミズカミさんも村人なので、水車小屋が豪雨で流された際に死んでしまった。
村人が全滅状態のなか、ただひとり……。
死ななかった者がいる。
ぼくだ。
ぼくはミズカミさんの予言を信じていた。
夕食のおかずをこっそり残して持って行き、水車の横にお備えしたのである。
だからぼくだけ死なずに済んだ。
だけど……。
あれから三百年経った現代。
まわりに江戸時代生まれの人は誰もいない。
ぼくだけ今も生きている。
ミズカミさんの予言通り……。
とわに しなない のだ