異世界にはシルバー人材センターがなかったので冒険者ギルドに登録した。
ふと気が付くと
どこかの荒地にいた。
手には『旅のしおり』という冊子が握られていた。
なんじゃこれ。
旅のしおり(異世界編)
作 一願地蔵
Q ここはどこ?
A 異世界です。ちなみに近くの村はイタマ村
Q 言葉は?
A 翻訳精霊を入れてるから、ふつうに会話したら通じるよ。
Q どうやって帰るの?
A その機能は実装されていません
Q 仕事とかは?
A こちらの世界は定年が50歳~それ以上は冒険者ギルドか自給自足~シルバー人材センターはないよ。
Q お金について
A 元いた世界の家や土地や家財道具と貯金。全部売ったお金をこちらの貨幣に換算して使えるようにしておいたよ。冒険者ギルドに登録するといつでも引き出せるよ。
Q ステータスとか見れるの?
A なに言ってるか…わからないのですが。
Q チート能力とか貰えるの?
A キャンペーン期間をすぎたので貰えません。
Q どうしても困った時は
A オンカカカビサンマエイソワカ って唱えてね。あとこれ覚えなくても自動的にインストールされてるから。
Q なにをしろというの?
A えー特にないけど…うーん運命かな?ちなみに地蔵を普及してくれたらうれしいかなw
Q 常識が違うのでは?
A 元いた世界とは多少常識が違うけど、割とふつうに理解できるよ。
Q 向こうの知り合いとか、光熱費とかサブスクとかの契約は?
A 提携している弁護士が基本解約してるし、1年もしたら記憶がなくなるからだいじょうぶだよ。
以上――――
ってなにが以上だよ。
としおりを地面に叩きつけると
しおりが粉々になり消えていった。
「わっなにこれ…怖わ」
てか…
定年50歳…って、若すぎんだろこの世界
指輪は?あっ!あった。よかった。
―――――――――――――――
仕方がない。
とりあえず、近くの村――イタマ村とやらに行くことにした。
荒野と砂漠…
そしてちょっとした森が混在する世界。
どういうのだろうか…
もうすぐ砂漠にのみこまれる地域といったところだろうか。
日本でも限界集落というのがあるが
ちょっと似た雰囲気があるかもしれない。
村はざっと見渡した感じでいうと
100件ほど建物があった。
人口は多くても500人程度だろう。
すべての建物の壁は白でしっくいのような仕上げ。
屋根は赤色だった。
統一感があり絵になる。
「しゃれとるの――。
そういえば
しゃれおつという言葉は
まだ使われておるのか?」
とふと呟く。
おっ人がいる。
第一村人発見。
「すいません。冒険者ギルドはどこですか?」
「あそこじゃよ」
「ありがとうございます」
――――
【冒険者ギルド:イタマ店】
冒険者ギルドは村の端にあった。
ワシは受付で
「冒険者に登録していんだが」
と聞いた。
「身分証明書はありますか?」
と聞かれた。
「いや…ないんじゃが」
ないと…無理かな…
無理ならいきなり詰みじゃな。
「ではこの冒険者証が身分証明書代わりになるので、大事にしてください」
いけるんだ。
あせった。
85歳にして身分証明書がなくって…
とか最悪じゃ。
冒険者ギルドなかなか便利だ。
「それで…なんかワシの金を。この冒険者証に入れたとか言われたのだが…」
「うーん。そうですね。こちらに手をかざしてもらえますか」
そう石板を出される。
ウイーン
石板が光る。
えっなにこの機能?
スキャン???
「はいはいはい。えーと坂上茂吉様ですね。年齢は85歳…って85さい???」
なにそれ。
なんでわかんの?個人情報…
入力もなんにもしていないんだけど。
日本より進んでね?えっここ――ほぼ中世設定なのに?なにこれ?
ラノベ???
「はいはい。85ですが…」
気を取り直して答える。
ここは年配者の余裕を見せなければ。
「まったく見えませんね。50歳くらいだと思っていました。あっ失礼。ちゃんとお金入っています。これだけです。引き出すのは私に言ってくださればいつでも」
と受付嬢は見せてくれた。
5680G
なるほど…
って5680Gってゴールド?
あっそれより…
泊るところ。
道具ないし
野宿とかムリだし。
「あのすみませんが…この村って宿とかありますか?」
「ありますよ。冒険者さんが泊ってるところが…あそこがたしか0.1ゴールドくらいだったかな」
やっぱGはゴールドなんだ。
「ごめん。あそこの民宿っていくらだったっけ」
「あーあそこの民宿か…宿泊に朝夕の食事付きで0.3Gだ。じいさん…俺もあそこに泊ってるから、連れてってやろうか?」
おっなんか良い奴いる。
「あーありがたい」
「じゃあ案内してもらってから、またこちらに来てください。説明したほうがいいでしょ」
「あーわかったよ。ありがとう」
しかし…
ここみんな感じいいな。
茂吉は計算していた。
1日の生活費が0.4Gだとして1年で146G
5680Gあるということは38年は遊んで暮らせるか…
まーいい。
こんな計算…何百回としたが
どうせワシは暇が嫌いじゃし働くに決まっとる。
「なーじいさん。じいさん。いくつなんだ?もう50くらいか」
いきなり聞いてくる。
「ワシは85歳じゃ」
「85歳って…。ウソだろ。そんなん」
いやそんなに驚く感じか?
たしかにワシは若いけどな。
同じくらいの歳のやつは
「身体のどこがいたいか」
「持病が…」
「孫が…」
「昔は俺も悪かった…」
とかしか話さんが
ワシは
・今期のアニメ
・最近はまったラノベ
の話とかできるしな。
たしかに若い。
「いやほんまじゃって」
「そうか…。なんか若いな…。でも85歳で冒険者職は厳しいぞ」
「そうか。心配してくれてるのか、ありがとうな」
「いや。そんなんじゃねーけど。あっここだよ。じゃあ俺クエストがあるから」
「ありがとうな」
こいつ割とツンなのかな――。
――――
【民宿イタマ】
民宿イタマは2階建てだった。
部屋数は外観からして20くらいか…
中に入ると
35歳くらいの女性に声をかけられる。
「いらっしゃいません。ようこそ民宿イタマに
お泊りにされます。
食事にされます。
それとも…」
「それとも…」
坂上茂吉は身構えた。
妻と死別して25年が経つとはいえ、男としての反応はまだ鈍っていなかった。
そんな―――
しかも異世界で―――
茂吉はネックレスに通した指輪を握りしめる。
「お食事とお泊りのセットですか?」
そっちかい――。
「セットで」
こうして、ワシは宿を確保した。
次は冒険者ギルドだ。
――――
【冒険者ギルド:イタマ店】
「どうも。宿は大丈夫でした」
「ありがとう。うまくいったよ」
「それでは、クエストの説明をしますね」
「あそこに貼られてあるのがクエストです。
どのクエストでも受けれますが…
すべて自己責任です。
説明は以上です。
なにか質問があれば、その都度お尋ねください」
えっ雑すぎない??
「ランクとかで受けれるのが決まってるとか…そういうのは…ないの?」
「ないですね。冒険者をランク付けするのは、コンプライアンス的に問題があるので…」
えっそれ…コンプライアンスなの?
「でも…危険度が髙いのは、新人冒険者にはダメだとか。そういうのは?」
「ですから…コンプライアンス的に問題があるので…」
ワシは苦笑いするしかなかった。
坂上茂吉は再び計算した。
今の蓄えがあれば、一生遊んで暮らせる。
「だから…ワシは面白そうな仕事しかやらん」
そう決意したのだった。
坂上茂吉は報奨金ではなく
クエストの内容を見た。
どれが
ワシの心に刺さるか?
たぎらせてくれるか?
上から下までじーっと見る。
上から下までじーっと見る。
上から下までじーっと見る。
…
坂上茂吉に刺さるような仕事
そんな仕事は一つもなかった。
「なんじゃこりゃあ…」
仕方がないので
ランダムに選ぶことにする。
「すいません。サイコロで決めたいんだじゃが…サイコロとかある?」
「サイコロというのが、何なのか、わかりませんが…仕事が決めれないのであれば、ガチャってのがありますよ。
ここのレバーを回すと、ランダムに仕事がでてきます。
ただしその仕事を断るのはダメ。
あとたまにレアな仕事が当たるケースもあります」
「それ…課金は?」
「課金ってのがよくわかりませんが?お金でしたらかかりません。タダです」
「よしわかった。やってみよう」
ワシはガチャを回す。
ピカピカ
急にギルド内が光だす。
バー―ン
「おめでとうございます」
これはレアな仕事来たかーーー。
緊張が走る
「薬草採集です」
やっぱりねーーー。
そうだと思った。
「はい…」
坂上茂吉の異世界初ガチャは、薬草採取だった。
この世界でもガチャは派手な演出だった。
とりあえず当面の資金として5Gを引き出し
冒険者ギルドを後にする。