第二話 転校生
教室がざわめいていた。何事だろうか、と錫は思いながらも席に着く。すると隣席のあたかも俳優の卵のような青臭い演技を日ごろからしている変人――大場 噤はまた変な口調で問いかけてきた。
「なあ、錫ちゃん。今日はなんでこんなにがやがやしているか、分かるかい?」
たまらず舌打ちしてしまった錫。
それに怯えた大場。目を白黒させている。怯え方もいちいち大袈裟だ。
「で、何なの? 簡潔に言ってくれる?」
「思わず舌を噛み切ってしまいそうだが、まあいい、答えてやろう‼ っ――痛い」
本当に喋っている途中で舌を噛み切った大場。馬鹿はたくさんだ、と彼女は思ってしまった。
「いちゃい」
「あ? なんて?」
「き、君は鬼だよ。悪魔だよ。死に神だよ」
「死に神だったらあなたの名前をノートに書いて六十秒後に殺してやろうか?」
「ああ、集英社ネタはもうたくさんだ」
「すまぬな。私のバイブルなのだよ」
「というか、君は古い漫画しか読まないのでは?」
「一応、小学生のころから週刊誌は全部チェックしているから」
「……はあ」
「なに溜息なんか吐いているの。早く答え教えろ。なんで、教室がカイジのようにざわざわしているの?」
「て、転校生が来るらしい。どうやら美形でね。それとこの学校の恋愛指数テストで、あの莉々華を超えたという噂だ」
「へえ」
「あれ、それだけ。俺の舌の痛みの分まで驚いてほしかったんだけど」
「そんなの、意味わかんないから。それにそんな才能がある人、どうせ私には興味ないだろうし……」
どうしてか大場が眉を顰めた。その意図を問いただそうとしたとき、前方の扉が開いた。
担任教師の高来 光がポニーテールを揺らしながら教壇に立った。
「みんな座ってくれ。そして新しい仲間を紹介する。その子と学生生活を切磋琢磨や、一蓮托生をだな――」
「先生、早く呼んでください」
光は咳払いを二回して、それから廊下にいたたぶん百九十センチほどの高身長男子、兼おおよそロシア系のハーフの風貌。鼻が高く、碧眼である。
女子は黄色い声を上げ、男子は羨望の眼差しを投げる。
それらを一身に受けたハーフイケメン男子は、笑顔一つ浮かべず、淡々と自己紹介をする。
「坂上・ジョージ・クルーガーです」
錫はその少年のことをじっと、見据えていた。