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11 ヴェーク先生

「リリアーナは、先生がトレストに処方していた薬を見たんだろ?」


 リリアーナは、嫌がるトレストの横でお医者様の取り扱う薬を眺めていたので、だいたいの光景は覚えています。

 その薬は、ゼフィルが調べた一般的にこの病気に使われる処方薬リストに無いものでした。


 推測の範囲ですが、トレストが処方されているのは新薬か、ただの痛み止めのどちらかでしょう。

 アザが広がっていたという証言からいけば、後者の可能性が高いとゼフィルは考えました。


 ゼフィルは、あの医者はトレストに対して積極的治療を施していないように思っていました。

 だとしたら、どうして?という疑問が湧いてくるのですが。



 それらの経緯を聞いたリリアーナは、先生の弁護に走ります。


「きっと、新しい治療法を試しているんだよ」


 ゼフィルは、過去に先生が担当した患者や、ほかの先生からトレストの主治医の情報を集めていました。

 そして、医学界隈からの噂を聞いていました。



「リリアーナ、事実だけを言うね。


 あの主治医の先生は、近い将来、王国立医療機関への主任のポストに就く予定なんだ」


 ゼフィルは、カップの珈琲をスプーンでかき混ぜます。


「かといって、トレストを誰かに引き継げない。

 完治の見込みが薄い患者を、他の医師に引き継げば、そういう患者を見放したというレッテルを張られる。


 積極的に治療したところで、完治するかはわからない。延命してトレストの治療が長引いても、やはりさっきの問題が出てきてしまう。

 下手に経歴にキズが付けば、王国立医療機関の主任の話が消えてしまう。


 今の医学界は、途中で患者を投げ出すことを極端に嫌うし、噂次第では経歴に簡単にキズが付く。

 だったらこのまま時期を調整して、良いタイミングで主任のポストへ着いたほうがシンプルだ」



「時期を調整って、なんの時期?」


 リリアーナは、冷静を装おうと努めますが、やはり感情の高ぶるのを抑えられません。



「ねえ? 良いタイミングって、なんのタイミング?」


「それは……」


 リリアーナの質問に、ゼフィルは上手く答えることができません。


 二人の間に沈黙が流れます。



 ゼフィルは、出されていた珈琲を口に付けたあと、話を続けます。


「僕はね。一生懸命やったんなら、結果がどうであれ残された人は納得すると思うんだ。そりゃ、最初は取り乱すかもしれないけど。

 でも、誰も知らないところで運命を左右されるのは、やっぱりダメだと思う」


 再びの沈黙を先に口を開いたのは、リリアーナでした。


「かといって、どうするの? 先生を問い詰めるの?

 はっきりした証拠もないし、医療のことは私たちは素人で、何か言われたところで、それが正しいのか、間違っているのかの判別もつかない」


「一応は他の先生を当たるけど、どうだろうね」


 ゼフィルは、トレストの主治医と昔ぶつかり、折り合いが悪くなってほかの村へ追い出された医者がいることを突き止めていました。


 やるだけのことをやってみようと、ゼフィルは考えていました。




 日を改めて、リリアーナとゼフィルは一人の医者を訪ねて、とある村のお医者様を訪ねました。

 昔、トレストの主治医と意見が対立して、事実上は街の医学界から追放扱いされている方と聞いています。



「あの、サトミ先生という方は、ご存じないですか? このあたりにお住まいと聞いたのですが」


「ああ、サトミさん? ほら、あそこで畑仕事してる、あの人。あの人がサトミさんだよ」


 リアリアーナは、道すがら通りがかった人にサトミ先生のことを聞いてみると、意外とあっさり見つけることができました。


 その方、この道から見える少し離れた畑で、農作業に従事していました。



「あの、サトミ先生でいらっしゃいますか?」



 若い女性は、リリアーナに気が付き、仕事を一区切りしてくれました。


「先生って呼ぶってことは、あなたたちはこの村の人じゃないね。隣の街かい?」



 その女性はサトミという、以前はトレストの主治医の弟子として治療に同行していたという方です。

 とあるきっかけで、サトミさんは街を後にして、


「その後は、どうしてたんですか?」


 ゼフィルは間髪入れずに質問攻めにします。



「わざわざ来たってことは、何か込み入った事情かい?

 ここではなんだから、私の家に寄っていかないかい?」


 二人はサトミの自宅に呼ばれることになりました。



「その後だっけ? ご覧の通りさ。ここへ居を移して、畑仕事だよ」

 サトミは、二人にお茶を淹れてくれました。


「お医者様も続けられているんですか?」


 リリアーナの質問には少し時間を置いたようです。少し複雑だとゼフィルは思いました。


「医者を名乗っていないし、特段治療に当たることはないよ。医師免許は持ったままだけどね。ここへ来たってことは、知ってるんだろ?」


 ゼフィルは、苦笑いを浮かべています。


「失礼ながら、調べていくうちに、サトミ先生に行き当たりまして」


「ふ~ん、ヴェーク先生のことを調べているのかい?」




 リリアーナとゼフィルは、顔を見合わせます。


「ああ、ヴェーク先生っていうんだ、知らなかった(苦笑) 今知りました」


 そして、なぜ師匠であるヴェーク先生とサトミ先生は、意見が対立して決裂していったのか。


「正解は無いんだ。目の前の患者を研究して何百人を救うすべを見つけるのか。

 それとも、一人一人向き合って、全身全霊で治療に当たるのか。

 ヴェーク先生は前者で、私は後者だった。そこで意見が対立したのさ」


 サトミ先生は、ため息交じりで、二人に打ち明けた。

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