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終末、また会えたら  作者: 紙野七
第三章 幸せなふりができたら
33/35

3-13

「なんだよ、ここ……」

 開かれた壁の先にあったのは、隠されていたとは思えないほど広い空間だった。

 円柱型の透明な水槽のような装置が立ち並び、薄暗い空間の中でその水だけが青白く光っている。ニシナはその光景を眺めながら既視感を覚える。大量に置かれたその装置はツクバで見た『ハコニワ』にあったのと同じものだった。

「おい、まさかこれって……」

 部屋の中へと進んでいくと、ツクバで見たものとは大きく違う部分に気付く。

「ええ、これは……」

 そこに並べられた水槽に入っていたのは、人間の赤ん坊だった。

「……最悪だな」

 さらに奥にはより凄惨な光景が広がっていた。頭部の一部が不気味に盛り上がった奇形の赤子、右足の先が欠損した少年、片目が潰れたまま眠る少女。脳や内臓、眼球など、臓器だけが沈められた場所もあった。とにかく人間であろう何かが、人間らしからぬ姿で保管されている。

「そうか。そういうことだったのね」

 滝川はようやくすべて合点がいったというように言う。

「これが、滝川宗助が自分の身とともに葬ろうとしたものだったんだわ」

 その場所はいわば人体実験を行うための施設だった。この『研究所』ではクローン技術に関する研究が行われていたが、それはあくまでも食糧難への解決手段としてのものであり、倫理的観点から世界的に禁止されていた人間のクローンは対象外だった。

 しかし、本来的にはこの人間のクローンを研究することこそが、この施設の目的だった。滝川たちが担っていたのは、それをカモフラージュするための外箱に過ぎなかった。

 おそらく宗助を含む創設期のメンバーだけは、このことを知っていたのだろう。あるいは、彼らこそがこの研究の実働部隊だったのかもしれない。それを我が子や孫に引き継がせないために、彼はすべてに蓋をしてこの世を去っていった。

「でもなんで動いてるんだ? あんたのじいさんはとっくに死んで、管理する奴なんていなかったはずだろ」

「どうやらここはずっと自動で管理されていたみたい。定期的にどこかへデータを送っている形跡もあるから、遠隔で指示を送ってきていたのかも」

「遠くから高見の見物ってか。ムカつく野郎だな」

 ニシナは思わず隣にあった水槽に拳を突き立てる。鈍い音がしてガラスが少しだけ揺れたが、中で眠る少年はぴくりとも動こうとしなかった。

「これは、写真、かしら……? おじいちゃんや創設期の人たちが写ってるみたい」

 部屋の奥に置かれた机の上に飾られた古い写真を見つける。白衣を着た人が二十人ほど並んでいて、その中心に宗助の姿もあった。

「ん? なんかこいつはどっかで見たことある気がするな……」

 その写真を見て、ニシナは一番端に立っている男を指差す。

「これ、伊部道隆じゃないかしら?」

「伊部って、あのイブ鉱石の?」

「そう。もっとも彼の功績はイブ鉱石だけじゃなく、他にも数えきれないほどあるけれど。あらゆる学問に精通し、すべてで最先端の研究を塗り替える大発見を繰り返して、当時はガリレオ・ガリレイの再来とも言われた大天才よ。でもまさかそんな大物まで関わっていたっていうの……?」

 その後この部屋で行われていたことを詳しく調べようとしてみたが、あまりに強いプロテクトがかかっていて、それ以上のことは何もわからなかった。

「本当に、私はただ可愛い孫でしかなかったのね……。おじいちゃんは私たちがその存在すら見えないほど強大なものと対峙していた」

 ずっと知りたかったことを知り、祖父が抱え込んでいたことの重大さを目の当たりにして、滝川は途方に暮れて水槽を見つめることしかできなかった。安らかな顔で眠る少女の顔の先に、祖父がいかに悩み苦しみながら死んでいったのかを想像する。

 滝川は涙がこぼれそうになるのを必死に抑える。そして、自分の不甲斐なさへの後悔、祖父への想い、目の前にある科学の罪、様々なものに後ろ髪を引かれながら、今は前を向くために、踵を返してその部屋を後にした。

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