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終末、また会えたら  作者: 紙野七
第三章 幸せなふりができたら
21/35

3-1

 旧現代に使われていた、コンクリートで舗装された大きな道を歩いていく。遠い昔はここを自動車がものすごいスピードで飛び交っていたが、今ではひび割れた地面の間から生命力の強い植物たちが顔を出し、道と呼べるかも怪しいほど荒廃してしまっている。

 錆びついて崩れかけた看板を見上げながら、地図と照らして現在地を確認する。どうやらこの道を進んでいけば目的地のコウフ辺りまで辿り着くことができそうだった。

「そろそろ休憩するか」

「じゃあ私が食糧を取ってくる。さっき動物がいそうな場所を見つけたから」

 手近なところに腰を落ち着けると、莉葉が率先して食糧調達に向かった。残ったミツネは周囲から枯れ枝を拾ってきて火を起こし、ニシナは荷物の整理をしながら疲れの溜まった身体を伸ばして息を吐いた。

「ねえ、このままでいいの……?」

 一通り作業を終えて落ち着いたところで、ミツネが唐突に口を開く。

「いいって、何が?」

「莉葉のことだよ。なんかすっかり馴染んじゃってるけど、このまま連れていくつもり?」

 町での復興作業を終えたあと、莉葉とはそこで別れるはずだった。しかし、いざ町を出ようとするミツネたちに、気付けば彼女もついてきていたのだった。

「行くあても、帰る場所もないから、しばらくあなたたちについていくことにしたの」

 困った顔で見つめるミツネに対し、莉葉は有無を言わさぬ雰囲気ではっきりとそう語った。

「でも前にも説明した通り、決して楽しい旅じゃないんだ」

 正直言って、ミツネは彼女を連れていくことに気乗りしなかった。旧友を殺しに行くための旅に全く無関係の彼女を同行させることは、彼女自身を苦しめてしまうことになると考えていた。

「わかってる。だからこそついていきたいの。あなたたちの行く末を見届けたい」

 しかし莉葉の決意は固く、何度ミツネが説得しても聞く耳を持たなかった。彼女はミツネたちに恩義を感じており、同時に自分と近しい境遇にある彼らのことをもっと知りたいと考えていた。そんな彼女を無理に引き離すこともできず、結果的にそのままの流れでともに旅を続けている。

「ニシナはどう思ってるの?」

 なかなかこうして二人で話すタイミングがなく、ニシナの意見をまだきちんと聞けていなかった。莉葉が同行を申し出たときも、いいんじゃない、という適当な返事をしたのみで、その真意がいまいち掴めていなかった。

 この旅がどれだけ苦しいものになるのかを誰よりも理解しているし、その苦しみを自分が受けるべき罰だと捉えている。だから本当なら、ニシナこそ部外者が入り込むことを嫌がるのではないかとミツネは考えていた。

「まあ、そう邪険にする必要もないだろ。あいつがついてきたいって言うなら、好きにすりゃいいよ」

ところが、意外にもニシナは莉葉に対して好意的なことを口にした。

「でも……」

「もし俺たちが放っていったら、あいつはまた一人になるだけだ。まさかあの町で暮らそうってのも無理がある」

 町に現れた化け物を倒し、町の復興を手伝ったとは言え、莉葉はあくまでも『悪魔の娘』で『怪物の娘』だった。ゆえに、町の人々が向けるまなざしも厳しい。それはミツネもあの町で過ごして十分すぎるほど感じていた。

 莉葉自身もそのことを理解しているし、自分の故郷だからこそ、これ以上迷惑はかけられないと考えているようだった。だからあえて町に留まることはせず、旅に出ることを選んだ。

「とりあえずは俺たちについてきて、その道中で自分の居場所を見つけりゃいいさ。俺たちとしても人手が増えるのは悪いことじゃない。お互いのことを上手く使い合っていけるなら、そんなに悪くはないだろ」

 そんな風にニシナに説得されて、ミツネは渋々納得する。

 彼としても、莉葉とともに旅をするのが楽しいのは事実だった。だからこそ、そんな楽しさを覚えてしまっていいのかという違和感があった。だからと言って、自分から苦しい方向に向かおうとするのはあまりにも自罰的すぎる。ともかく今は何も考えずに旅路をともにすることにした。

「ちょうどこの辺で、改めて莉葉にもこの後のことを説明しておくか」

 狩りを終えた莉葉が戻り、三人で食事を終えたところで、ニシナが改まった様子でそう語り始める。

「このままペースでいけば、明日には『研究所』に辿り着くはずだ」

「そこにあなたたちの昔の友人がいるのね」

 ミツネたちが探す『研究所』とは、あの日散り散りになった彼らが連れていかれた場所のことを指していた。詳しいことはよくわからず、確かなのは何かを研究するための施設が全国各地に点在し、そのどこかに旧友が眠らされているということだけだった。

「でもそんな施設まだ生きているの? こんな世界では用済みなものになっていそうだけど」

「確かに研究所自体はもう稼働してない可能性が高いと思う。実際、僕もニシナも起きたときは、打ち捨てられた廃墟の中だったしね。でも研究所の中で、僕たちが眠らされた場所は特殊なんだ」

 彼らの眠る地下室は研究所からは完全に隔離され、本体が稼働を止めても維持されるように作られていた。たとえ地上が爆弾で吹き飛ばされようとも、全く影響を受けないシェルター的な機能を有していて、生命維持装置を動かし続けるために、エネルギーを供給し続ける半永久的なシステムが構築されていた。

「一体、何のためにそこまで……」

「そればっかりはわからん。が、研究所にはもしかしたらその手掛かりが残ってるかもしれない。だからこうして日本中歩いて探し回ってるわけ」

 ニシナは地図上にある『研究所』を示すマークを指差して、くるりと円を描くように周りをなぞる。こうして紙の上で見ると、これまで歩んできた道のりに比べて目的地はもうすぐそこだった。

 食事を済ませ、荷物を整えて、再び荒れ果てた旧現代の遺物を踏みしめながら歩き出す。凹凸の多い地面が足取りを阻む。

 ――このままずっと三人で旅を続けられたら……。

 心の奥底に小さく浮かんだ感情を慌てて振り払う。決して楽しい旅ではないと、そんなことを言っておきながら、いつの間にかその旅を楽しんでしまっている自分がいた。

 むしろ、こうなることを恐れていたから、彼は莉葉がついてくるのを避けたかった。

 幸福を得られる瞬間を見つけてしまえば、それに甘んじて遠い昔の約束など忘れてしまうのではないか。そういう恐怖があった。自分はニシナのように強い意志を持った人間ではないから。

「どうかした?」

「ううん、何でもない」

 そんな風にどんどん弱気になる自分を必死に誤魔化しながら、ミツネは先を歩く二人の背中を追いかけた。

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