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終末、また会えたら  作者: 紙野七
第二章 別れの言葉が言えたら
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2-4

「へえ。意外とちゃんと町になってるんだな」

 ミツネたちは莉葉の案内で、近くの集落へとやってきていた。そこは彼女の母が生まれ育った場所で、彼女自身も幼い頃は買い物の付き添いで何度か訪れていた。一人で生活するようになってからもたまに物資を買いに来ており、かなり勝手知ったる場所だった。

 マチのように歓待されることはないものの、やはり同じ閉鎖社会であるこの町でも、外からの人や物資は重要とされていた。さほど多くはないものの、こうして外から旅人や行商人が来ることもあるようだった。ミツネたちは簡単な検閲を受けたあと、すぐに町の中に入る。

 町は人で溢れ、かなり賑わっている様子だった。この辺りは偶然鱗粉病の汚染がほとんどなかったため、流れ着いた人々が次第に定住するようになり、いつしか数百人規模の町を形成していった。

元々あった旧現代の建物を修繕して使っていて、古びて廃れかけたようなゴーストタウンのような風景の中に、活気づいた人々が溢れている様はちぐはぐで異様な雰囲気だった。

 基本的には一次産業を中心に自給自足の生活を送っているが、町には医者や大工などの専門職や、道具店や衣料品店などの小売業などを生業にする人もおり、小さいながらも経済が成り立っていた。

「保存食と燃料があれば買っておきたいね」

「まずは素材を売って現金を得ましょう」

 ミツネたちが持っていた動物の皮やがらくたを売り、そのお金で保存食や燃料を購入して、しばらくの間の備蓄を得ることができた。

「それにしても、まさかレトルトカレーが手に入るなんて思わなかったね。久しぶりにまともな食事にありつける……」

 この町は旧現代の発電設備が生きており、そのおかげで一部の機械などが使えるようだった。そのため、燃料や保存食はかなり旧現代的なものが提供されており、思わぬ収穫にミツネたちは小躍りしていた。

「次はあそこね」

 そんな浮かれた二人に呆れた視線を向けつつ、莉葉は町のはずれにある小さな商店に入っていく。

「……こりゃすげえな」

 中に入ると、そこには刀や弓矢、槍など、様々な武器が所狭しと並べられていた。

「ここは完全に店主の趣味でやってる店なの。だからいつも暇そうで心配になるんだけど、物はちゃんとしてるから」

「おいおい、誰の店が暇だって?」

 来客に気付いて、店の奥から白い髭を蓄えた偏屈そうな男が顔を出す。

「久しぶり。数少ない常連が来てあげたわ」

「……ケッ。まだ生きてやがったとはな。ずいぶんと生意気に育ちやがって、あの母親とは大違いだよ」

 莉葉はよくここへ狩りに使う道具を買いに来ていた。店主の平岡は楓とも面識があり、それもあって悪態を吐きつつも彼女のことを気にかけている様子だった。

「それで、そいつらは?」

「二人が旅をしているところに偶然出会ったの。今は化け物との戦い方を教わってる。今日ここへ来たのも、ちゃんとした武器を買うため」

 わざわざこの町を訪れたのは、決してミツネたちの物資補給のためではなかった。すでに修行を始めてから一週間ほどが経過し、それまでは護身用に持っていた剣を武器として使っていたが、改めて自分に合うものを選んだ方がいいだろうということで、それを探しにやってきたのだった。

「ってことは、あいつに会いに行くのか?」

「……ええ」

「そうか。懐かしいな、実は俺も一度だけ会ったことがある。拍子抜けするくらい優しい奴で、この世界で生きていくには厳しいくらい繊細な奴だった」

 平岡は遠い目をして、唐突にそんなことを語った。それまで一度も語っていなかった話だったので、母以外の人間から聞く父の話に莉葉は少し驚いた。

「それで何にするんだ? ここには大抵のもんは揃ってるぜ。全部俺が心血注いで作った一級品だ」

 得意げに語る平岡には目もくれず、ミツネは吟味するようにじっくりと店内を見回す。

「……斧、かな」

 そしてしばらく無言で店内を一周したあと、確信めいた口調で呟く。

「斧なんて使ったことがないけど」

「いいんだ。意外と戦斧は初心者向けの武器なんだよ。刀や剣と違って重さがあるから、振り回すだけでも十分な攻撃力が出る。逆にその重さが弱点になるわけだけど、莉葉は僕なんかよりパワーがあるから問題ない。ネックに思えたリーチもカバーできることを考えると、他に選択肢は考えられない」

 ミツネはまくしたてるような早口でぼそぼそを持論を語りながら、いくつかある中から見繕った斧を手に取り、莉葉に渡す。

「こいつはちょっとオタク気質なところがあるんだ。武器とかそういうのの話になると、こうやって熱くなるんだよ」

「……そうみたいね」

 少し冷めた目を向けながら、莉葉はその斧を受け取る。

「外で振ってみてもいい?」

「ああ。好きにやってくれ」

 試し振りのために、店の裏庭に出る。他の三人が見守る中、静かにその斧を構えると、集中するように目を瞑って深く息を吸う。

 肺の中が空気で満ちた瞬間、両手で持ったそれを勢いよく縦に振り下ろす。そのまま刃を返して、二撃目、三撃目と流れるように繋げていく。それはまるで舞踊のようなしなやかさを持った動きで、見る者を魅了する美しさがあった。

「なんて奴だ。普通あの重さのもんをあんなに軽々と触れないぞ」

 一通り動きを終えて斧を下ろした莉葉に対し、平岡は信じられないといった口ぶりだった。

「確かに、今までで一番しっくりくる気がする」

 莉葉は手に持った斧を見ながら、納得した顔で頷く。

「それじゃ、決まりだな」

「そうね。これをもらうわ」

 満場一致かに見えたところで、平岡だけが何やら渋い顔をして腕を組んでいた。

「お前ら、金はあるのか……?」

「ええ、それなりには持ってるけど」

「そいつは飛び切りいい素材を使っててな。知り合い価格で割り引くとしても、ざっとこれくらいは……」

 平岡は申し訳なさそうに、指で金額を提示する。それは三人の全財産をかき集めても、到底払えるはずもない金額だった。

「悪いが、俺も一応商売だからな……。他にいくつかあるのはかなりグレードが下がるから、これから化け物と戦おうって奴にはおすすめできん。正直、戦斧は欲しがる奴も少ないから、俺もそんなに作ってないんだよ」

 こればかりはどうしようもなかった。外で売れるものを集めてきて現金に換えることはできるが、そんなことをしていては、目標に達するまでに途方もない時間がかかってしまう。町で仕事をするという方法もあるが、そんなに都合よくよそ者がありつける職があるはずもない。

「……困ったね」

「私も考えが甘かったわ」

「手っ取り早く稼げる仕事がありゃいいんだけどな」

 太陽に照らされて妖艶に輝く戦斧を前に、三人は頭を悩ませる。

「いや、あるぞ」

 すると、平岡が何かを思い出したように言う。

「手っ取り早く稼げる仕事、ちょうどいいのがある。しかも、あんたらにうってつけのヤツだ」

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