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場末のギルドはしけている。~洒落た紅茶と受付嬢~

作者: ぱぺ/多脚式アリヅカ

場末のギルドはしけている。~飲んだくれと受付嬢~ と同じ世界です。

こちらが先でも問題ありません。

錆びれた場末のギルド。

切りっぱなしの丸太椅子に、らんぼうに座った大柄の男[重戦士]に向かって、細身で長身の男[魔法剣士]がつっかかっている。

[重戦士]が持っている、安物のビールが似合う樽ジョッキからは、ほのかに湯気が立っていた。


魔法「[重戦士]、なんだその黒ずんだ液体は」

重戦士「なにって紅茶だ。[受付嬢]がお土産に買ってきてくれただろ。なに、俺も物は試しと思ってな。たまにはこういうのもいいもんだな!」

魔法「お前がお土産のティーバッグを使用してその液体を作り出したことは知っている。私はお前が黒ずんだ液体を作ってしまったことを問いただしているんだ」

重戦士「何言ってんだ?美味いぞこのお茶?」


魔法「お前のような武骨で普段ビールしか飲まないオーク野郎でも、紅茶をたしなむ権利はある。そしてお前のようなオーク野郎のことをティーバッグは差別しない。むしろ歓迎している。分化を広く伝えることと、伝えられるクオリティはトレードオフだ。だから提供者は、妥協点を設ける。

いいか?魔道具の普及によってボトル茶しか飲んだことのない、時間に追われた現代っ子が、ちょっと興味を持ったけど、お茶の道具をそろえるのも大変だからどうしようか迷っているところに、それでも「淹れるお茶」を楽しんでほしいからと、少しクオリティが落ちることは承知の上で、お湯さえ沸かせば飲めるティーバッグをどこかの偉人が開発してくださったわけだ。

さらに茶葉の種類なんてダージリンすら聞いたことないところを、本当はシチュエーションに合わせて最適なものがあるにもかかわらず、当たり障りのない5種類程度の万人受けするものを選んでアソートパックとして売ってくれたわけだ。

そのティーバッグのパッケージの限られたスペースに、どうしても伝えたいことを選んで書いたわけだ。本当はそれぞれの茶葉の特徴や、歴史や、生産者への感謝や、私が作りましたの似顔絵を載せたかったのに、スペースがないからどうしても伝えなければいけないことを書いたわけだ。

分かるか?それは「お湯を注いでから2分後に取り出しなさい」という情報だ。

これが一番大事だ。

これさえ守れば、複雑な手間をかけなくても、誰でもおいしい紅茶が楽しめるようになっている。

もう一度言う、これが一番大事だ。

これが一番大事なのに、お前はどうしてティーバッグを5分以上取り出さなかったんだ?」


重戦士「あん?こまけえ事いうなよ。まだティーバッグあんだから、お前も飲め」


魔法「もちろんいただく。そして私が飲むことはどうでもいいんだ。私は、このお土産を買ってきてくれた彼女や、この紅茶をお勧めしたくて仕入れた商人や、この紅茶を楽しんでほしい生産者の気持ちを代弁しているんだ。

紅茶は!時間を!!守って!!!意図された香りを楽しんでくれ!!!!」


重戦士「時間なんか気にするな、そういうせっかちなところが良くないぞ。

それに、俺は色を見て判断している。一流の鍛冶職人は炎の色を見て鉄の温度を判断するそうだ」

魔法「黒ずんでいるではないか!紅茶は紅いから紅茶なんだ。それは真っ黒だ!貴様の職人の感で作られたお茶など、なまくらも同然だ!」

重戦士「なまくらでもいいじゃねえか、第一俺が使ってる武器はハンマーだ。切れなくても問題ねえよ」


二人が騒がしくしているテーブルから少し離れた受付カウンターに、一人の少女が座っている。[受付嬢]は書類に走らせていたペンを置き、呆れたようなため息をついた後、ぼーっとギルドの天井を見上げた。


受付嬢(どうしてバカ共って静かにお茶を楽しめないのかしら。せっかく街にお出掛けして、ちょっと楽しかったから、バカ共にもおすそ分けしてあげよって…。バカ共でも楽しく飲んでくれると思って、簡単なティーバッグのお紅茶選んできたのに…。こんなくたびれたギルドとは違って、私はおしゃれだってとこ見せようと思って、バカ共にお紅茶買ってきた私のほうがバカみたい…。)


[受付嬢]は静かに立ち上がると、共有スペースの棚の上に残っているティーバッグを丁寧にカバンに詰め込んだ。「ご自由にどうぞ」と細くきれいな字で書かれたメモ書きをくしゃくしゃに丸めて、ごみ箱に投げつけた。


それからしばらくの間、ギルドの飲み屋ではビールがワンランク下の安物に代わったらしく、誰かが受付嬢に尋ねたところ「どれでも騒げるんだから同じでしょ」と突っぱねられたらしい。

受付嬢:16歳とか。口癖は「こんな職場やめてやる」「あなたたちと一緒にしないでください」


重戦士:飲んだくれ。味の濃いものが好き。


魔法剣士:常識人。事情があって田舎のギルドに所属している。

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