表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ラジコントンボ

作者: 雉白書屋

「……何をしているんだ?」


「……本で読んだんだ」


「どんな本?」


「トンボ。頭を潰せば飛ぶんだって」


 言葉足らずに加え、どこか舌足らず。それでも意味は分かった。その子の足下には頭の無いトンボが転がっていたのだから。

 

 ――ダン!


 その子は切り離したトンボの頭を踏みつけた。でも、さっき目にしたのより、どこか遠慮がちだった。これは悪い事だ、と自覚があり後ろめたかったのだろう。

 こちらを気にするようにチラッと見て、でもやめたら格好がつかない、だから続ける。そんな雰囲気がその子の周りに漂っていた。


 ――ダン! 


 その子はまた踏んだ。でもトンボは飛びはしなかった。


 ――ダン!


 また踏んだ。怒っているような、あるいは何もかもに嫌気がさしているような。


 ――ダン!


「ラジコントンボだろ?」


 俺がそう言うと、その子はこっちを向いた。


「俺も前に何かで知ったよ。もっと強く踏むと良いんじゃないか?」


 そう言うとその子は初めて笑みを見せた。そして声を出し笑い、俺も笑い、一緒になってその子が捕まえたトンボの頭を踏みつぶした。

 

 

 ラジコントンボ。切り離した頭を踏むと、胴体が飛び上がるって話。

 昆虫は頭を切り離してもしばらくは動く。でも、関係ない。ただの反射。飛んだとしても、それは地面から伝わる振動に反応し飛び上がっただけだ。切り離した胴と頭が見えない何かで繋がっているはずがない。

 でも、俺は別にその子を軽蔑はしなかった。幼い頃、遊びで蟻を踏みつぶしたことは誰だってあるはずだ。



 ……どうして今、こんなことを思い出しているのだろう。小学生の時の話。夕暮れ時のこと。飽きたら影を踏んで遊んだ。

 それからもあいつとはよく遊んだ。クラスが違っても関係ない。中学、高校。環境が変わっても遊んだ。親友になったんだ。それは今も同じ。関係は続いている。

 あいつとは色んな事をしたけど、そうだ、あの日のあいつが一番よく笑ってた気がする。ああ結局、トンボは飛んだっけな。どうだったかな……。



「おおー、あはははは! ちょっと動いてるよっ。あははははは!」


 そうそうこんな声だった。楽しかったなぁ。はははははははは。


「よーし、じゃあ、潰すぞ。お? ははは、笑ってら」



 ――グチャ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ